第2話 冷泉葵


***

 私には、友達がいません。


少し表現がおかしかったかも知れないですね、

正確に言えば「心から分かり合える親友」がいないんです。

もちろん、まだ高校は始まったばかりなので、

あと1年もすればできるかも知れません。

ですが、中学校の時もそんな期待を寄せ、結局叶うことはありませんでした。

まず、私の過去について少しお話ししましょう。


私は親や近所の人、また他の大人の人などから小さい頃から「期待」、

悪く言えば「プレッシャー」をかけられて育てられてきました。

詳しい事はあまり覚えていないのですが、

私は小学校の時に行う知能テストで全国、

いや世界でも稀な高い点数を取ったそうです。

親はそれを聞き、たいそう驚いたと聞いています。

そして、だんだんと変わっていってしまいました。

教育者は親に勉学に力を入れるよう念を押した。

念を押すというよりは、ほとんど命令のようなものでしょう。

そして、親は教育者のプレッシャーに負けてしまったのでしょう。

そのあたりから親はとても厳しくなりました。

月曜から金曜まで塾、芸術、音楽を習わせ土曜、

日曜にはスイミング、テニス...。

ここまでだったら、「教育熱心な家庭」としてどうにか収まるかもしれません。

でも、私は習ったものでは、そのコンテストや大会の賞を総なめしていました。

それに親は嬉しがり、さらに習わせる、

そしてだんだん結果にも厳しくなってくる。

これの無限ループが発生してしまいました。

小学校の当時、私は正直やめたかったです。全てやめて、

普通の小学生が送るような生活がしたかったです。

朝には母に起こされ、

学校へ行き、

学校ではちょっと難しくなってきた算数を一生懸命理解しようとし、

放課後には近所の子供達と夜遅くなるまで遊ぶ。

私だって一人の女の子です。

普通におしゃれもしてみたりしてみたかったものです。

小学校の頃の私は、こんな日常に憧れてきました。


そんな私は中学2年生の時にある単語に強烈に惹かれました。

「パラレルワールド」

並行世界ともいうこの単語ですが、どんなものかというと

「この世界の他に現実が存在している」

簡潔にいうとこのような感じです。

私は、他の私がみんなと同じように、普通にに生活している現実が

存在しているのではないか、と淡い希望を持ちました。

そして、調べに調べを重ね、最終的に導いた結論は

「パラレルワールドに行く事は可能である」でした。

しかし、方法ははっきりしていません。


その頃にはもう神奈川第一高校に入学していたので、

そこで同好会やらなんやらを作り、研究するつもりでした。

同好会設立は最低4人必要なのですが、

「私が3年生になるまでは絶対集めます!」という暴論をなんとか通し、

宇宙同好会を設立しました。

なぜ宇宙なのかというと、その時点での私の推測として、

『パラレルワールドに行くには、強力かつ膨大なエネルギーが必要になるので、

このエネルギーをできるだけ簡単に集めるには「宇宙」を利用する他ない』

というものがありました。

そして、表向きとしては宇宙に関連する事柄を調べて新聞にしたり、

またテーマを決めてそれを研究し、科学コンテストに出る計画をしました。

そして、裏で並行世界の研究を進めようと思っていました。


しかし、当時自分にとって初歩的だけれどとても重要な問題がありました。

「並行世界に行ってどうするのか」

並行世界に行ったところで、その世界には私がいて、

私は憧れているのはその私ですから、私はその世界の私と入れ替わる。

でもその世界の私はどうなるのか、またどうやって入れ替わるのか。

私一人でずっと研究してきたこともあり、段々熱も冷めてきてしまいました。

パラレルワールドに行ったところで、私は変わらない。

結局、変わらないのだと。よく考えたら、私が悩んでいたことは

とても贅沢な悩みなんだと。

そこから私は、パラレルワールドの研究からは一旦遠ざかり、

設立した同好会の会員集めをしようとしました。

しかし、そこで問題が発生しました。


 私は、表ではとても慕われています。男子からも、女子からもよく声を掛けられ会話もします。

またある時は、告白をされることもありました。

でも、風の噂で聞いた程度ですが、私は女子からは嫌われています。

どうなら妬みの対象になってしまっているようです。

また、嫌っていない人もいると思いますが、残念ながらそういう人達ももう部活に入ってしまって、忙しいためとても兼部できない状況です。

男子だったら尚更です。男子のほとんどは運動部に所属していますから、

宇宙同好会との兼部なんてとてもできそうにありません。

文化部にいる人もおそらくこの同好会に興味を抱いてくれる人はいないでしょう。

そもそも宇宙に興味を持っている人がいたら、天文学部に入っていますから。

どうしようと思った私ですが、一つ方法があることを知りました。

正直寂しかったのですが、私はある一人の人物に目を向けました。

彼は部活無所属で、興味さえ持ってくれれば入ってくれると思ったからです。


 それは、「高槻裕也」君です。


突然ですが、彼は学校では「教科書人間」と言われていました。

教科書を隅から隅まで暗記して毎回学年1位を取り、雰囲気が「教科書みたい」だからだそうです。

私はこれを聞いて、最初にこんな風に思いました。

なんとなく、私と似てるような気がする、と。

もしかしたら、「私と似てる人がいてほしい」という願望なのかもしれませんが。

それでも、彼の心の中には何かもやもやしているものがあると思いました。

おそらく、私と同じようにそんなに深いものではないでしょう。


話したこともないのに、なんとなくわかる、

ぼんやりとしていても、それは私にははっきりとわかる、というような感じでした。

そこで私は、中間テストが終わったら彼に少し話しかけてみようと思いました。

別に恋愛感情があるわけではありません。単なる興味、好奇心です。

日時は、今日の放課後を予定しています。



/*放課後*/


ついに予定の時間になりました。話したこともない人、それも異性ですから、

どうしても緊張してしまうものです。

ですが、どうにかこうにかその気持ちを抑え、彼の教室に行きました。

すると、彼はちょうど教室から出て行くところでした。

 すかさず私は話しかけます。

「あの...、すいません。

 あなたは高槻君ですか?」

緊張のあまり、変なアクセントで話してしまいました。。

 「......もしかして、冷泉さん?

  俺になんか用ですか?」

 「あ...えっと、はい。

  この後少し時間ありますか?」

すると高槻君の隣の男の子が、少しニヤついた表情で私に提案してきました。

 「それでしたら、僕と高槻はこの後ファミレスにいくので、ついてきますか?」

 「おい古谷、突然何を...」

「まあいいじゃないか、これはなんか面白い展開になりそうだし」

「面白い展開って...、でも、やっぱり突然は良くないだろう?」

 「あっ、あの、...それでお願いします。」

私は咄嗟に言ってしまいました。

 でも、これが後々私の高校生活、いや人生の大きな分岐点になるとは、まだ思ってもみませんでした。

 



  

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