並行世界より。

染夜新一

序章

第1話 神奈川第一高校

空を見上げればどこまでも続きそうな清々しい青天井が続いている。

周りを見ればそれぞれの友人と談笑を交わし、楽しそうに過ごしている。

また一部の人は廊下に集まり、何かを待っているような素振りをしている。

平穏だ。今ここにはとても平穏な時が流れている。

おそらく、中間テストが1週間前に終わり、生徒は皆開放感でいっぱいなんだろう。

しかし、生徒達にはまだ大切なイベントが一つ残っている。


 今、この校舎で数枚の大きな紙が中庭に程近い廊下で張り出された。

**

  【第2学期 中間テスト 上位15名】

  1位:高槻 裕也 542点

  2位:冷泉 葵 538点

  3位:古谷 啓作 492点

・ ・ ・ ・ ・

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10位:風宮 七海 477点

**

テスト返しだ。この順位と結果は開放感に包まれた生徒達を

良くも悪くも現実に引き戻す。


ある方を見れば、笑っていて、またある方を見れば、

とても近寄りがたい負のオーラを纏っている。

「おー前回より上がったー」

「うそ、また頑張らないと...」

などとそれぞれが自分のテスト結果について話している。


俺は、他よりも少しだけ文字が大きく書かれている、

上位15名の結果を見た。

「まぁ、こんなもんか...」

「おーい、高槻、お前また1位かー、やっぱすごいな」

振り返ると、クラスメイトであり、俺の親友である古谷啓作がこっちに寄ってきた。

「おお、古谷。今回は3位じゃないか、教えてた甲斐があったかな?」

「うん、1週間前徹夜地ご...合宿はすごい効果あった!」

「言いかけたのは聞こえなかったことにするぞ。

 まあでも、前回の順位からしたら全然頑張ったんじゃないか。」

「そうだね、今回ばかりは我ながらよくやったと思ったよ」

「しかし、入学から1位と2位は変わらないなー、この冷泉って子はどんな人なんだろう?」

「そういや見かけたことはあるけど、よく分からないな。

なんか色んな噂も流れてるし、結局どんな人なのか、ちょっと気になるな。」

 神奈川第一高校、世界の歴史上最も大きな教育改革とされた

2030年の日本国教育改新後の高等学校御三家の一角で知られる進学校だ。

偏差値こそ廃止されたものの、日本では

東京第一高校、京都第一高校に次ぐレベルで、多くの秀才、

そして少数であるものの類稀なる才能を持った天才も在籍している。

その高校のトップレベルとなれば、誰もが気にするのも当然だろう。

さらに、彼女と来たら運動も人並み以上にできるし、

芸術の評価こそ難しいものの、そのセンスにおいては

この学校でもトップを争うだろう。

しかも、冷泉葵は旧冷泉財閥の令嬢だ。入学時は誰もが噂を聞いていた。

実際、俺も気になっていたし、校内で見たこともあった。

正直オーラが違った。そこにいるのに、まるで別次元にいるような雰囲気だった。

あの長い黒髪と、白い肌、そして整った顔立ちは美人の典型例だろう。

そして一目でわかった。彼女は「天才」だと。

決して具体的な理由があるわけではない。

しかし、一般的に考えてなんでもできるいわゆる「完璧少女」である彼女は

努力でのし上がってきたわけでなく、生まれ持った天賦の才によって、

そこまでの結果を出してきたのだろう。


正直、俺はどちらかというと「秀才」の部類に入る。小学校の頃からずっと、

尋常とは言えない量を勉強をしてきた。

おそらくだが、普通の人が一生のうちにする勉強時間は

中学校1年生程までで既にこなしている。

親でさえも

「ちょっと、勉強しすぎなんじゃないの?、少しは休みなさい。」

と心配した程だ。

でも、それも自分に「才能」というものが無いと自覚していたからだった。

自分が生まれる少し前に、こんなニュースが話題になった。

「今の日本では、学力は9割が遺伝子、いわゆる才能というものが決めている」というものだ。

このニュースは波紋を呼び、数々の教育評論家や科学者が議論に議論を重ねた。

しかし、出た答えは「正しい」というものだった。

詳しいことはあまり分からないが、教育の機会が均等になってきている今では、遺伝子がモノを言うらしい。

当時、この過去のニュースを知ったのは小学校中学年の頃だっただろうか。

ひどい憤りを感じていたのを覚えている。

努力は報われないのか?、努力は意味をなさないのか?、自問自答を重ねた。

そして、決めた答えは「トップ」を取ることだった。

トップになって、残りの1割で勝てることを証明したかった。

そのことのために俺はずっと、まるで教科書のように、参考書のように、決められた時間を生きていた気がする。

幸い学習能力は人より少しだけ良かったので、あとは血の滲むような努力をした結果、神奈川第一高校に合格することができた。

 でも、この学校に来て衝撃を受けた。受験1ヶ月前まで何もせずに遊んでいながら、合格した人、試験中に寝てしまいながらも合格した人。

正直信じられないが、それが「才能」であることを知った。

それでも俺はやり続けた。目標を達成するため、もしかしたら自分という存在を肯定するためだったかもしれない。

まあ、そのせいで友達はあまりできなかったが。

話が脱線してしまったが、

結論から言えば俺は彼女についてどんな人なのか知りたい。

恋愛感情ではなく、単なる好奇心だ。

学校内で「完璧少女」「レオナルド・ダ・ウィンチの生まれ変わり」なんて言われてるので、さすがに気になってくる。

とは言え、心の中ではあまり俺と変わらないのでは?、という少々の希望と推測があった。

いや、ほとんど希望だろう。もちろん、雰囲気からは普通じゃないオーラが漂っていて、それは、わかる人にはわかる「天才のオーラ」であったことより、

この希望はほとんど叶わないものだともどこかで思っていた。

それも自分と、自分のこれまでの努力、

またそれに費やした時間を肯定するために、

自分を守るために自然に湧き出た希望であることも

心のどこかでわかっていた。 


「おーい、どうした高槻、大丈夫か」

「ん?、ああ、ごめん。少しぼーっとしてた」

「そうか、疲れてるんじゃないのか、そうだ、今日放課後一緒に遊ぼうよ。

 その辺でご飯食べよう。」

「そうだな、少し疲れを取るか。じゃあどこで食べる?」

「ファミレスなんかでどうだ?」

「おっけー」


その後、俺は普通に授業を済ませ、帰りのSHRも終わり、帰ろうとしていた。

だが、教室から出たすぐ後、思いもよらぬ人に話しかけられた。

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