8冊目 追いかける尻は年上のおじさん

「あ~、アレがまいまいの言ってた子?」

「そう。マジで無理」


 今日の私は普段の美容室を出て舞衣の職場から徒歩圏内にあるスタジオに来ていた。

 専属のスタイリストが急遽来れなくなったから代打で誰かを!とのことで、美容師にアテがあると舞衣が名乗り出てくれたらしい。

 もしかしたら雑誌に名前が乗るかもしれない、という中々出来ない経験をさせてもらえるかもと二つ返事。店からも承諾は出ている。


「確かに舞衣の好みでは無いね、格好いいけど」

「社会人としての解釈違いだから無理」

「はいはい……」


 遠巻きに眺めるのは先日酒を飲まずにはいられないと言いながら愚痴っていた「立花たちばな玲央れお」だ。

 確かに鼻筋も通っているし、パーツのバランスもいい。背も高いし、女に苦労しなさそうな男だな、というのが私の印象だ。

 そう、顔だけで生きていけそう。顔が良い人間ってのは往々にして顔だけで生きていける。人は見た目じゃない、なんて綺麗事だ。人は見た目が100%。

例えばピッチリアイロンのかけられたスーツを着たサラリーマンと、よれよれのスーツのサラリーマン。どっちの話を聞くかと言われたら9割は前者。そういうこと。


「茜の後輩って言ってたよね。てことはまだ大学生じゃない?」

「スタバ片手にインスタとか言いそう」

「偏見だしオタクだって同じことやるやんけ。インスタじゃなくてTwitterなだけで」


 カメラの前で次々に表情を変えてポーズをとる彼は私が普通の一般女性なら見入ってしまうのだろう。然し悲しいかな。私も舞衣もオタク。

 顔のいい男は好き。けれど私には前田まえだ 智久ともひささんという素敵な声のおじさんに首ったけだ。いい年したおっさんの尻を追っかける女である。あとは最近鹿島かしま 穂高ほだかさんという19歳の若手俳優の追っかけも始めた。最近だと戦隊モノのレッド。可愛いんだこの子がまた。


「てかスタハニ大丈夫?まいまい彼氏の新規絵じゃん」

「いやそうなんだよね~。イベント大爆走キメるのに魔法のカード買ったわ」


 そして舞衣も、今はスタハニの霧島きりしま 壱葉いちはくんに夢中なのだ。舞衣は分かりやすく少し影のある、ちょっとキツめの男が好きなんだなあと思う。特に彼はアイドルとしてのプライドが高いと描写されるほどだ。

 そういうキャラが好きなわけなので、礼儀、がなっていないと評されたモデルの彼に惹かれる要素が無いのだろう。


「あ!宮内さ~ん!」

「お、来たぞまいまい」

「げっ」

「お疲れっす。……っと、隣は?」


 ……あ、確かに舞衣は嫌いそう。

 こちらへと近づいてきた彼を見て成る程とうなずいてしまう。多分、二次元だったら春陽の好きなタイプだ。お馬鹿な後輩ワンコ属性にあの女は死ぬほど弱い。


「初めまして、代打のスタイリスト、伊藤瑞希です。普段はロゼッタって美容院にいます」

「ロゼッタ……あ、池袋の?」

「ご存知なんですか?」

「はい。そこ、友達がいて……垣原かきはらってやつなんですけど」

「あ、あ~、垣原くん」


 舞衣にだけ分かるように視線を送った。


 "私もこいつ地雷だわ"、と。


 垣原かきはら かなで。何を隠そう、私の後輩。

 そして目の前にいる彼、立花玲央はその友人だと言った。

 類は友を呼ぶ――その法則は間違っていない。だから私は彼のことはよく知らないが、地雷、そう判定したのだった。

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5人組が通ります 小野瀬うに @rol_830

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