4冊目 逢坂 茜という女
「大丈夫かな、ひな」
「後半笑ってたし平気じゃない?」
「いや、春陽はああ見えてちょっと繊細だし面倒くさいよ」
ああやっていつもどおりですって顔で笑うくせに、影でひっそり泣くタイプだ。
中学の時に私は春陽から距離をとってしまったのを後悔しているからこそ、きっと誰よりもちょっと、彼女に対して心配してしまうんだと思う。
「ひな可愛いもんなあ、本人はそんなことないよ~って言うけど」
「は?私の友達はみんな可愛いんですけど」
「舞衣抱いて~~~」
「舞衣愛してる~~~」
「まとめて抱いた」
こんな冗談もこの2人の前だから言える。
唐突だけどここで
あ、あと冷蔵庫の中に食材空っぽだからスーパーに寄りたいって言わなくちゃ。
私は男性が嫌い。いや、実生活に支障はない。父親から性的虐待を受けたわけでもないし、男性声優だって男キャラだって好きだ。なんなら推しくんの彼女は誰かと聞かれたら私と答える。完全なる男性嫌悪というわけでもない。
なぜ、男性が嫌いというのか。ここがオタクの面倒くさいところで、説明が面倒くさいから男嫌いだと言っている。
私は、私に、性欲を向けてくる男性が嫌いなのだ。
「今日何作り置きしようかな~ん」
「ピーマンの肉詰め」
「好きだよねそれ」
スーパーに入ってカートとカゴを持つのはもはや日常だし、3人での自炊生活にも慣れたもの。と言っても私は未だに料理が下手くそなのだけど。
だからこうして、せめて2人が悩まないように美味しかったものをあげる。
あと私の好きななめたけも忘れずに放り込むと「また食うんか!」と瑞希からの声が上がる。うるさい、好きなんだよ。
そうじゃない、話が逸れる。私が何故「性欲を向けてくる男性が嫌い」なのか。
大学に入学した時の彼氏だ。随分と入れ込んだものだと思う。家に遊びに行くたびに掃除をして片付けて、苦手な料理も彼のために覚えて魚が好きだっていうから捌けるようにまでなった。
私にとってその彼氏がいわゆる初彼というものだったし今まで処女だった。
あんなゴミクズに処女を捧げたのかと思うと情けないけど。
とにかく、そのセックスが散々だったのだ。痛いし、怖かったし、何も気持ちよくなかった。そもそも、彼氏の家に遊びに行きたいと言った時に「ローション買ってきたら良いよ」だった時点でおかしいと思うべきだったと今でも思う。
あの時「やめときなよ」と言ってくれた春陽と瑞希のいうことをきちんと聞けば良かったと後悔している。
「車回せば良かったな~」
両手に持った大量の買い物袋。3人分となるとそれなりに嵩む、と以前春陽にごちた時に「1人でもえげつないしそんなもんよ」と笑われたっけ。
「というと思ったんでなんと。近所に止めてありまーす」
「瑞希愛してる~!」
「さすが気遣いの出来る女~!」
春陽が同性の方が好きって聞いたのは高校3年の時だっけ。凄く言いにくそうにしてたけど、そうなんだな、って受け入れた。誰を好きになろうとその人の自由だし。
男がだめになったかも、と思った時にじゃあ女と恋愛できるのか?と思ったらしっくりこなかった。なので私はレズビアンというわけじゃないんだなと思ったものだ。
恋愛はしたい。でもセックスはしたくない。欲情されたくない。
恋人が欲しくないわけじゃない。子どもだって欲しいと思う。けれどどうしても嫌悪感が拭えないまま、4年経っていた。
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