始発の彼女
僕はこの街の最後の逃げ道に来た。
「ねぇ、そこで何してるの?」
話しかけられて、しまったと思った。
「……電車を待ってるんだよ。」
できればどこかに行ってほしくて、ちょっと睨む。
「始発?」
「それ以外、ないだろ。」
始発でもなんでもいいが、咄嗟に言葉が出てしまう。
「ははっ、そうだね。」
彼女はくすりと笑って、
「…ねぇ、始発の電車が来るまで、一緒にいてもいいですか?」
と聞いてきた。なぜ、敬語にしたんだろう。
びっくりしたので間を置いて、
「っ…… いいけど。」
そう言うと
彼女は笑って、
「良かった…!」
僕の隣に座った。
沈黙が訪れる。彼女はなんというか、惹きつけられるような人だった。
髪の毛は、肩…ぐらいまでで、僕の方の髪の束を耳に掛けている。
バレないように視線を送る。
彼女は笑っている。というか、
微笑、って感じだ。
モナ・リザには負けるけど。
なんとなく謎めいた感じがした。
「ねぇ、」
突然に彼女は僕に話しかけた。
「え、な、なに?」
ビックリして少し吃る。
「ふっ、学校は、好き?」
ちょっと笑って彼女は僕に聞いてきた。
この場面ではそう聞くのが普通なのかな、と思う。
「別に、好きではない。」
「あははっ、どうして?」
よく笑う子だなぁと思う。
すぐ笑ったりする奴は大嫌いなはずなのに、
彼女のことは気にならなかった。
「まぁ、大体は授業だし…。」
「あー、確かに!面白くないし、つまんない先生だとお尻痛いっ笑」
僕を見つめて彼女は言う。
「お尻痛い?」
「うん。」
「なにそれ。」
彼女はキョトンとしてニコっと笑う。
「じゃあさ、他にはないの?」
「んー、お昼とか…?」
「お昼ねー。」
納得した、のか?
「僕の学校、食堂とかなくて、教室で食べるんだけど、」
「1人なの?」
彼女が話を遮って聞いてきた。
それも、嫌じゃなかった。
「うん。」
と返す。
「それが、嫌?」
「そうじゃないよ。僕みたいに一人で食べてる男子は他にもいるし。」
ただ…と言いかける。
彼女は次の言葉を待っている。
「席を、さ。取られちゃうんだ。」
「どうして?」
彼女が少しだけ僕に近づく。
「朝、起きるのが遅くてコンビニに寄れなかった時は購買で買うんだけど、その間に座られるんだ。」
「ふーん。そうなんだ。」
「君は、学校で嫌なこととか、ないの?」
気になって聞いてみた。すると彼女はニコッと笑って、
「私の話はいいのっ」
「ねぇ、好きなこととか、今やってることとか、あ!部活はやってるの?」
話をすぐに変えられて、たくさん質問がきた。
最後の質問にだけ答えよう。
「……辞めたよ。」
「なんで?」
「面倒なことばっかり、押し付けられてたから。それだけのためにいるなら意味無いな、って…。」
「ふーん。じゃあ、今してることとか、あるの?」
この時の彼女は少し心配そうな顔をしてた。
「あ、家にギターとピアノがあるよ。」
「へー!すごい!どっちも弾けるの??」
目を輝かせて聞いてくれたことに、
僕は少し安心した。
「弾けるよ。だいたいは楽譜とか見ればすぐ。」
「すごい、すごーい!いいなぁ。私もギター、弾いてみたいっ」
「ふーん?」
「ギターの、あのキュッ!ってなる音とか、こう、手で弾くっていうの?憧れるなぁ……あっ」
彼女がしまったという顔をした。
「……ごめん、私の話はいいって言ったのにね。」
申し訳ない、という顔をしている彼女に
「……ギターの話だから、いいんじゃない?」
僕の中では史上最高のフォローだと思えた。よし。
それに対して彼女は
「ふふっ。そっか。そうだね。」
と笑ってくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます