第十四話 設計図ってわかります?
「うむ。お嬢ちゃんが、そこまで理解してくれたならば……。構造的な話に進めるな」
ようやくマドック先生も、わかりにくい比喩から離れて、端的な事実を述べてくれそうです。
そんな期待を込めて、聞き返しました。
「構造的な話……ですか?」
「そうだ。ウイルスは生物っぽいが生物ではない。ならば正体は何かというと……。例えるならば、設計図の入ったカプセルみたいなもんだ」
また例え話!
マドック先生、まどろっこしい!
……というより問題は、そこではないですね。
設計図。
一応はあちらの世界の用語ではなく、こちらでも使われるようになった言葉ですが。
「マドック先生、確認の意味で尋ねますが……。設計図というのは、最近増えてきた、機械や装置を組み立てる前に書く図面のことですよね?」
これも、あちらの世界からの転生者の影響です。
もともと私たちの世界の職人さんたちは、図面なんて引かずとも器具を作ることが出来ました。
ただし、それは伝統的に慣れ親しんだ物だから。
いくら優れた職人さんでも、見たことも聞いたこともない物体は、何もないところからは作れません。
だから転生者の考案で新しい機械や装置が制作される時は、上下左右前後から見た正確な完成図に加えて、分解した場合のパーツ一個一個に関しても、同じく上下左右前後からの図面が必要となります。
これらを設計図と呼び、まず最初に設計図を用意することが、最近の職人さんの間では必須になっているそうです。
でも、おかげで新しい機械・装置が広く出回るようになって、私たちの生活は便利になってきたのですから……。私に文句はありません。
「そうだ。設計図は、この世界でも普通に使われてるんだよな? 意味、通じるよな?」
「はい」
危うく「今では」と付け加えそうになりましたが、思いとどまりました。迂闊なことを言うと、また話が脱線しそうですからね。
「ならば、普通に話を続けられるな」
マドック先生は満足そうでしたが、
「ウイルスは設計図の入ったカプセルに過ぎない。カプセルを構成する部品は、設計図から作られたり、宿主の細胞から一部をもらったり……。あ、細胞って言葉は、通じるのかな?」
また説明がストップしました。
「はい、わかります。生物の体を構成する、基本単位ですよね? 小さくて目に見えないけれど、部屋みたいになっていて、その中に生物として必須な器官が色々ある……」
普通の人々にとっては常識ではありませんが、医療士を目指す以上、知っていて当然です。
「ちゃんと知ってるんだな。そうか、それならもっと早くから『宿主細胞』とか『感染細胞』とかの言葉を使えばよかった。その方が説明、早かったのに……」
マドック先生、それはこっちのセリフです! 伝わるような伝らないような比喩より、よっぽどわかりやすかったはず……。
と考えたところで。
自分が口に出した言葉が、今さらのようにフィードバックしてきました。
私、今「生物として必須な器官が色々」って言いましたよね?
同じような言葉、先ほどウイルスの説明の時に出てきたような気が……。
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