第十三話 ウイルスはヒモではありません

   

「だからウイルスは、人や動物などに感染して、宿主のシステムを借りることで、生き物っぽい活動をしている。ただし『宿主の力を借りる』というのは、寄生虫やバクテリアが体内に寄生するのとはレベルが違うので、そこのところは間違えないで欲しい」

 うーん。

 マドック先生は気づいているのでしょうか。

 結局『バクテリア』に関して私は、ちゃんとした説明を受けていない、ということに。

 一応「ウイルスの対義語であり『バクテリア』は生物」ということだけは理解できました。でも今は、ウイルスの説明をしよう、という場面です。その中で「ウイルスの対義語」と定義された言葉を持ち出されて「それとは違う」と言われても、なんだか本末転倒な気がします。

 少し私が困った顔をしていると、つられたようにマドック先生も同じ表情になりました。

「やはり、わかりにくいか……。寄生虫やバクテリアの場合は、主に宿主の栄養分を盗み取る形で寄生するだけ。だから元の世界ならば『健康なニートが親の経済力を頼りに暮らすようなもの』と例えるんだが、この世界じゃニートなんて言葉はないしなあ……」


 いやいや、マドック先生。

 私が困ったような顔を見せたのは、そこじゃないです。マドック先生の説明、何となくですが私に伝わっています。

 それを示すために、私の方から、それっぽい例え話を出してみました。

「『ニート』という単語はわかりませんが……。要するにウイルスじゃない方――『バクテリア』でしたっけ――は、『働かずに女の稼ぎで暮らしている男たちのようなもの』って言いたいんですよね?」

 以前に私は、冒険者のことをフリーター扱いしたことがありますが、その最底辺になると、酒場女の家に転がり込んで、自分は全く仕事をしなくなるそうです。いわゆるです。

「おっ? もしかして、お嬢ちゃん、理解してくれたのか? ならば……」

 マドック先生は、今度はウイルスの方を例えようとしているようです。でも、またの世界の言葉を使われたら、せっかくわかりかけた私は混乱してしまいます。

 だから、先に私の方から「こういう比喩でいいんじゃないかな?」というのを持ち出しました。

「ならばウイルスの方は、分身魔法で作られた分身体のようなものですね」

 分身魔法による増殖は、術者そっくり。でも、術者が生きた人間であるのに対し、分身体は人形のような、幻のような存在。独立した存在ではなく、完全に術者に依存しています。


 これを聞いたマドック先生、感慨深げに唸り始めました。

「そうか……。生き物そっくりに振る舞うけれど生き物じゃない。この世界ならば、そういう例えが使えるのか。機能を補う必要があるという意味で、俺の中では『ウイルスは改造人間』のイメージだったが……。確かに分身魔法なら、人形とかロボットあるいはサイボーグ以上に人間に近い、でも人間じゃないって存在だよなあ」

   

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