第四話 見たこともない装置
「まあ、そういう反応になるわなあ」
マドック先生は、口元に笑みを浮かべつつ、眉間にしわを寄せました。
「じゃあ、俺が今言った『無菌操作』って言葉も、お嬢ちゃんには通じないか……」
失望のため息です。
マドック先生の中で、いきなり私のイメージ、ガタ落ちのようです。これからここで働こうというのに、ちょっと良くない傾向です。
少しでもポイントを稼ぎたくて。
間違っているかもしれないけれど、私は、先ほどの想像を口にしてみました。
「バイ菌の入らない、クリーンな環境で作業する……。そんな意味ではないのですか?」
「おっ! お嬢ちゃん、それはわかるのか!」
「はい、なんとなくですが」
マドック先生の顔が、少し明るくなりました。
「そうか、そうか。まあ『バイ菌』という言葉は、俺は嫌いなんだが……。とりあえず『無菌』の意味がわかるなら、スタートとしては
口数も増えたマドック先生は、壁際にある作業台に近づきました。
「これが、無菌操作のための器具。通称『無菌箱』だ」
そう言いながら、マドック先生は、作業台の前にある椅子に座ります。
台の上には、作業スペースをすっぽり覆うような、大きな『箱』が設置されていました。その中に私の上半身を突っ込めるくらいの、大きな『箱』でした。
初めて見る装置です。
全体は金属製の直方体ですが、正面の一面だけ、透明なガラス製のようです。ただし一面全てがガラスではなく、前面の下部には、金属の扉がついています。
マドック先生は、私の視線に気づいたようで、
「そうだ。この小窓から手を突っ込んで、中で作業する」
説明しながら小窓の扉を開けて、実際に無菌箱の内部へ、手を入れてみせました。
「なるほど。そこしか開かないから、バイ菌が入りにくい。つまり、クリーンな環境が保てる……。そういうシステムなのですね」
わかったような顔で、私は頷きます。
先ほどマドック先生は「バイ菌という言葉は嫌い」と言っていましたが、理解したことを伝えるためには、避けては通れない単語です。
「うむ。そこまで理解してくれたら、とりあえずは合格かな。もちろん、これだけでは『空気中に漂う微生物が入りにくい』というだけであって完全じゃない。小窓を開ける度に少しは入ってしまうから、使用前には――そして出来れば使用後にも――、内部を滅菌することが必要になる」
やった! マドック先生の口から『合格』という言葉が飛び出しました!
私に対するイメージ、回復したみたいです。
同時に「そうか、バイ菌ではなく『微生物』という言葉を使えば良かったのか」と、今さらのように理解しました。
私だって、医療士を志す魔法使いです。人々の体に害を与える病原体が微生物であることくらい、ちゃんと知っています。
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