第五話 滅菌係になりました
「装置内部の滅菌も、本当は紫外線ランプを使いたいところだが、そんなもの手に入らないしなあ」
先ほどの「使用前には内部を滅菌する」という話の続きでしょう。でも、私に説明するというより、ちょっと独り言のような口調です。
また私にはわからない単語――今度は『紫外線ランプ』――が出てきましたが……。
名前から考えて、特殊なランプなのでしょうね。でも「そんなもの手に入らない」というからには、よほど高価なランプなのでしょうし、ここにないなら、覚えておく必要もないかも。
あるいは、どこかで私が入手できたら、ポイントを稼げる……?
そんなことを考えていたら。
「そうだ! そのためのお嬢ちゃんだった!」
マドック先生は、興奮したような顔でガバッと振り向いて、私の肩に手を置きました。
私も女ですから、こんな表情の男の人に、こんな態度をされると、少しドキッとします。恋愛的な意味ではなく「怖い」の方向性で。あくまでも『少し』ですが。
「お嬢ちゃん。俺は今まで、無菌箱は、火を使って火炎滅菌してきた。不完全な滅菌方法だが、しないよりはマシだからな」
「はあ。それで……?」
私の適当な相槌など、マドック先生の耳には入っていない様子です。
「せめて俺が魔法使いなら……。そう思って、魔法学院に連絡したんだった! お嬢ちゃん、医療系の魔法使いなら、解毒魔法は使えるよな?」
「ああ、それでしたら! もちろん、使えます!」
「よーし、決まった!」
マドック先生は、私の肩から離した手を、ポンと一つ叩きました。
「お嬢ちゃんは、今日から無菌箱の滅菌係だ!」
「つまり、この装置の中で解毒魔法を使って……。内部にいるかもしれない病原体を、完全に殺してしまえば良いのですね?」
解毒魔法。
読んで字のごとく、本来はモンスターから受けた『毒』を取り除く魔法です。でも純粋な毒だけではなく、体に害を及ぼす小さなもの――つまり病原体――も毒扱いで除去できるので、そうした利用法もあります。
というより、医療士としては、むしろそちらの使い方の方がメインとなります。当然のように私も、解毒魔法でバイ菌を殺す訓練を重ねてきたのでした。
バイ菌によって引き起こされる病気は多いですし、そもそも……。
そうやって私が考えている間にも、
「これで、俺の無菌箱も、少しはマトモになるなあ、うん」
マドック先生は、満足したように呟いています。
「まあ本当は、無菌箱じゃなくてクリーンベンチを使いたいところだが……。元の世界と違って、この世界には、そんなもの存在しないからなあ」
再び、嘆きの言葉のようです。
でも、これを聞いて私は「おや?」と思いました。
元の世界。
この単語が意味するところは……。
「もしかして……。マドック先生は、あちらの世界からの転生者なのですか?」
彼の顔色をうかがいつつ、恐る恐る、私は尋ねてみました。
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