無機質な出会い(1)



麟ちゃんの葬儀から数日経った。


目が覚めていても布団の上から動かなくていい。ニートって……最高。


俺の中で麟ちゃんとの出来事はちょっと過激で切なく悲しい夢を見た、という事で処理されそうだ。


これでまた日常が帰ってくる。

半分常世から帰らぬ意識を揺り起こし、いざ参らん厠へ。


用事済ませて自室の前に立つと中から声が聞こえる。人が喋ってる……独り言か。


というか待て、俺の部屋だ家には祖母も居ない(トイレ行く時出掛けたのを確認してる)。つまり1人だよな、そうだよな。


よく思い出せ何か忘れてる、大事な事。

神社、縁結び、最初に出会ったモノ。


違う関わったモノ。

モノ?

麟ちゃん、死んでる、幽霊。

中に居るのは幽霊。


んなまさかな、確認すればいいだけだ。

仕方ない、自分の部屋だし追い出せばいいし、別に怖くないし。


「部屋に入らないんですか!?…………そんな勢いで飛び込まなくても」


痛みと言う名の鎮静剤が効き始め、背後だった場所を確認する。


大穴の空いた襖から麟ちゃんが顔を出していた。


背後からの声で、自室に飛び込みリアクションで頭をぶつけたようだ。


刹那の出来事に鈍痛以外記憶にない。被害者は襖一名。


麟ちゃん!?なんで……成仏したはずじゃ。

「思い出にはならないさ」キリリとした顔でポーズ決めた片翼の天使は、長い刀を携えた長髪の男を彷彿とさせた。


世代じゃねぇよな。

感動的に景色に溶けて消えたんじゃないのか、なんでまだ居るんだ。


鈍痛と困惑で酷い言い方をした事に気付いた。


夢は思い出にさえならずに消える、泡沫の記憶。思い出を超え現実に居る麟ちゃんの存在はもはや生きていた。


「あの時消えたのは、みんなの声を聞こうかなって私に向けられる最期の言葉ですし、2人はずっと見えてますし、いいかなぁって」何かが吹っ切れた成長期の女子高生は適当人間に近づきつつある。


類友ってこうゆう事なの?死んでても類なのか。


麟ちゃんが生きてるってより俺が死人側に近いのか。


錯交する脳内は西野からの連絡で正気に戻った。


「起きてんならゲンブさんとこ来い」それだけ言うと無機質な音と共に切れた。


とりあえずゲンブさんの所行くか、麟ちゃんもおいで。


店のドアを開けると散乱した食器の破片、1つだけセットされたテーブル、五十音の書かれた紙に10円玉。


あの時のまま残されていた。


西野の大暴れからかなり経っているが、相変わらず復興の兆しが見えない。


この店大丈夫か。いい加減営業再開しないと人々に忘れられるぞ。


「思い出にはならないさ」いつにも増して髭の主張が激しいゲンブさんが厨房から顔を出す。


麟ちゃんのはこいつの影響か。

「思い出になる前に跡形もなく消えるって事?収入源なくなるのは勘弁」カウンターでだらけてる金髪が口を挟む。


「というかなんで麟ちゃんいんの」

俺も知らない、さっき部屋に上がり込んで来た。


「まぁとりあえず食えよ、昼まだだろ」ニヤニヤと人数分のカレーをカウンターに並べると、無精髭も席に着いた。


なんか怪しいけど食うか。「いただきます」それぞれカレーを一口頬張ると、急にゲンブさんが立ち上がった。


「お前ら食ったな!はたらけー!」


狙いはこれね、知ってたけどな。


「なんなら私のせいだし」


「私も関係あるのでしょうか」


見えてないはずの麟ちゃんにもカレーは用意されており、皿からは減ってないが何かを口に含んでいた。


店内の状況については、全部麟ちゃんのせいだと言いたかったがカレーと共に飲み込んだ。

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