死に寄り添う悪食(9)



 見慣れない天井……真っ白い部屋、透けた少女、点滴、仕切られたカーテン、鉢植えのサンスベリア、どうやら病院らしい。


 お見舞いに鉢植えはダメだろ、どうせあの金髪バカだな。


……って事はまた助けられたのか。ん、麟ちゃん!?


「お目覚めですね!明後日、私の晴れ舞台なんです来てくださいね」そう言うと朝の陽射しの中に消えていった。


 明後日ね、晴れ舞台ね。何も出来なかった俺達に行く資格あるのか。


 捕まって殴られて死にかけて、助けられた。


 結局救われたのは俺だけだった、俺は何も救えなかった、何も。


 シャーーッ!!

「よぉ日暈、目ぇ覚めたかよ」植木鉢をもったゲンブさんが立っていた。


 この鉢植えお前かい!

「いや日暈のお祖母様から、永遠に入院してます様に、って託されてきたんだ」


 最低かよ、孫だぞ!なんてもん託してんだ!

「金は出すけど世話は出来ねぇってよ」


 もうどっちが老人かわかんねぇな。はははあぁ…………あの金髪バカはどうしたんだ?


「事情聴取されてるよ、一応第一発見者になってるからな。


それとあの女の子、ひでぇ事になってたって由紗がそう言ってたんだけどよ。


お前らが関わり始めた時には、もう遅かったんだろ、命は間に合わなかったんだろ。


最初から悲しい願い事だったんだよ。お前が気に病む必要無いと思うぜ。


家に帰りたいなんて当たり前が、願い事であっていいはずねぇだろ」蔦まみれの植木鉢を置いてゲンブさんは出て行った。


 よくこれ持ち込めたな。


 サンスベリアの花言葉ってなんだっけ。



 翌日俺は退院した。西野も警察から無事に解放されたらしい、波乱のみで構成されていた数日は落ち着き始めていた。


 各々の心にわだかまりを残したまま。


 麟ちゃんの最後の晴れ舞台か。よく思い返すと、たった1日しか一緒に過ごす事はなかった。


散々巻き込まれて、恐怖に怯えて、暴れ散らして、死に掛けて、挙句に救えなくて、辛くてどうしようもないのに。


 なんで楽しかったなんて思えるんだろう。

 どうかしてんな俺。


 明日ちゃんと見送ってやろう。せめてそれくらいは。



 警察しつこ過ぎる、やっとシャバに出られた。同じ話何回させるんだよ。


大体浮気防止用のアプリは犯罪すれすれってなんだ。


そのおかげで助かった命あるじゃんよ!

 不明な点が多過ぎるってなんだ!!

 本当にイライラする。あ゛ぁーー!!

 てか誰か迎えに来いよ。


「お迎えに上がりましたお嬢様」ふわふわのメイド服を着た麟ちゃんがそよ風と共に登場。


 麟ちゃん!麟ちゃんだけだよー!抱きついた身体は空間に微風を起こしただけだった。


「一緒に帰りましょう」振り返って映る麟ちゃんの姿はとても愛らしく見える。


「私、明後日晴れ舞台なんです、来ていただけると嬉しいです。


最後までワガママ言ってごめんなさい」満足そうな顔に、悲しい瞳がうずくまっていた。


 麟ちゃん、それは晴れ舞台って言わないよ。


 家に帰るただそれだけの事なのに、とても大切な事をしているように感じた。

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