死に寄り添う悪食(8)



むせ返るくらいの臭気に吐き気を覚え、すぐ様鼻と口を塞ぐ。何この臭い、嗚咽が止まらない。


「血と薬品の臭いだな」黙殺したゲンブはもう追いかけて来ていた。


裸の電球は何もない一室を照らしていた。


スマホの明かりを頼りに部屋の中を探索する。入り口を背にして対面に扉、右手には階段。


扉に耳を当てるが、なんの気配も感じられない。「ガタッ」上から家具を動かした様な音が聞こえた。


上か。あご髭は首を振り、行く事を拒んでる。なんで着いて来たんだこいつ。


5分して戻らなかったら助けに来い。

無言かつ無表情のあご髭を残し一人上を目指す。


あいつは絶対、助けには来ない昼間の前科を忘れはしない。


自分の動きに呼応して木造の階段は軋む音を響かせる。


電気つけとけよ、階段の頂点照らすのちょーこえー。何か見えたら最悪な気分だよ、麟ちゃん以外お断り。


無駄口と南無南無唱えながら階段を登り切る。するとドアから光と人の声、そしてすぐ後に何かが倒れる音がした。


「朝倉!」罪悪感は私を突き動かし、ドアを開けて叫んでいた。


眼前には額にライトを付けたでかい人影がこっちを見ている。中央で白いシーツに横たわる何かは薄暗い裸電球の光を浴びていた。


この部屋にある全てに統一なんてモノが一つもない。それぞれが異彩を放ち、一般的言うととても気持ち悪い。


「朝倉君のお友達?それとも作品の方かしら」男が無理矢理作ったような女の声で誰かが喋った。


声の主はあの顔面ライトのでかい奴か。


このゲス野郎。軋む床を強く踏み込み、握った拳は肉を捉えて振り抜いてた。

…………。


壁に叩きつけられたデカブツ、裸で横たわる貧相な男、少しだけ視界に入る髪の毛。全部イライラする。


いつのまにか麟ちゃんが朝倉を起こそうと声を掛けていた。


ゲンブさん呼んでくる、早くここから出よう。


振り返った部屋は麟ちゃんの身体と医者が使うような道具が散乱していた。


自分の中にある記憶はあのデカブツを一発殴った所しかない。私また暴れてしまったのですね……。



お腹を開かれたままの麟ちゃんの身体はどうする事もできなかった。


麟ちゃんの呼びかけにも私の平手打ちにも応じず、眠り続ける裸の男を抱えて外に出た。


上で暴れてる間にゲンブさんは警察を呼んでいたようで。


真夜中の森の中、騒々しいまま、そして誰も救われぬまま、関係者とは無縁のお役所の人達がこの事件をまとめて解決していった。


私達に残されたのは10円だけだった。


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