死に寄り添う悪食(3)



「待て待て待て」ゲンブさんを振り切りドアに手を掛けた。


「助けてくれるんじゃなかったの」あの声が聞こえた。ドアの前で硬直する二人。


あご髭は待つ気になったか、などと能天気をかましてる。


ゲンブさんには多分見えてないし、聞こえてない。ほぼ真後ろにあの女がいる。


「突っ立ってないで戻って座れよ、10円の行く末について考え……」

「少し黙れゲンブ」食い気味でゲンブさんを威圧する金髪。


俺たちの後ろにあの女が居る、ゲンブさんには見えてないのか。


「何も見えない、お前達の後ろには何も」そう言って足音が遠ざかる。


あいつ逃げたな。「さいてーだな、10円どーすんだ」少し和らいだ緊迫感はすぐに襲って来た。


振り返れない恐怖、動けない恐怖、どちらか選ばなければならない。


正解は頭でわかっているのにそれを選びたくない。振り返りたくない。


時計の針が刻む音、静かで鈍く重い空気は、思考と身体を停止させた。


深く瞬きをして、息を吐き切った。チラリと金髪を見ると目が合った。互いに軽く頷き、ゆっくりと振り返った。


後方の全てが見えた瞬間、コンコンと外からノックが聞こえた。


悲鳴と同時にドアから飛び離れ、二人共散らかった店の中央に倒れ込む。


その間もコンコンとなり続けている。


金髪は怖くて声も出せないのか、ドアを顎で指す。行けと、この状況で開けろと。

まじかよ。


……

意を決して静かに立ち上がり、恐る恐るドアの方へ歩く。静かに歩いても散らかった食器の破片がパキパキ音を立てる、その度に心臓が跳ねる自分が情けない。


ドアノブに手を掛け西野に視線を送った。

いいか開けるぞ。


勢いよくドア開けた瞬間、強烈な風が店の中を駆け抜けた。


顔を守っていた腕を降ろすと、メイド姿の女の子が立っていた。


「たすけてくれるんですね」目を輝かせ、表情豊かな女の子。


チラリと金髪を見る、どうやらしっかり見えてる。パクパク、メイドメイドと繰り返していた。


あのー亡くなっているのですよね。

「はい、私殺されました」モノマネ番組で、ご本人登場した感覚とほぼ同じだった。


「助けてくれるんですよね」

えっ…………はい。


「よろしくお願いしますね」お辞儀をして愛らしい笑顔で挨拶する女の子。本当に死んでるのか疑いたくなる。


あのとりあえず中へどうぞ。拍子抜けして普通の対応で自称幽霊を招き入れた。


あの緊張感は一体なんだったのか。


パクパクしたまま倒れてる西野に、手を貸す。辛うじて意識はあるようで助かった。


先程、狐狗狸さんをした椅子に3人共座った。

「狐狗狸さんやるんですか」幽霊は殴れるのだろうか、試したくなったが堪えよう。


違います。何故か丁寧な口調で否定。

西野は相変わらず、何が起こってるのかわからず、きょとんとしている。俺もこうなれたならきっと幸せだろう。


それでどう助ければいいんだ。状況が掴めないし、さっさと本題を終わらせて元のニート生活に戻りたい。


その為に今起きてる現実を受け入れる他ないと判断した俺の頭は、多分バグってる。


「私を連れ出して」この子もバグってた。

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