第44話 島本さん
◇
―お嬢さま、大変ご無沙汰しております。
いつかはお電話を頂けるものと思っておりましたわ。でも少しびっくりしました。
ええ、今は子守りも終わって・・その・・赤ちゃんをあやしていて、たった今、寝かしつけたところなんですよ・・えっ、私の方ですか?
ええ、この島本和代は元気にしておりますとも、私は元気だけがとりえですからねえ。
お嬢さまの方もお声だけではわかりませんが、お元気そうですね。
時の経つのは早いもので、お嬢さま、もう四年生ですか・・
・・そうですか・・ピアノのコンクールに・・さぞかしお上手になられたのですねえ。
私も関西の方にいたらすぐにでも会場の方にかけつけたいですよ。
でも、残念です。今の家は赤ちゃんもいますから中々家を空けるわけにはまいりません。
えっ、・・恥ずかしいからイヤ?・・そんなお言葉、お嬢さまらしくありませんよ。
奥さま、いえ、お母さまもさぞお喜びでしょう?・・えっ・・そんなはずがない?・・ええ、ええ・・お嬢さま、そんなことはありませんよ・・奥さまはああいうご気性ですから・・お嬢さまはお気づきになっていないだけだと、この島本は思いますよ。
でもちょっと奥さまのお言葉使いは乱暴でしたわねえ・・
お嬢さま、お体の方もお変わりございませんか?
えっ、風邪をおひきになった?・・そう、遠野さんがずっと看病を・・ええ・・ええ・・えっ、今度はその後、遠野さんの方が倒れた、ですって・・まあっ、遠野さんもよほど忙しかったのでしょうね。
私も引継ぎの時、遠野さんにはかなり厳しいことを言いましたからねえ。
遠野さんは真面目すぎるほどに真面目だから、全部しょい込むのかもしれませんねえ。
恭子さまからも遠野さんにもっと肩の力を抜くように言っておいてくださいな。
もちろん、私からだって言ってください・・
虎の巻?・・ああ、あんなに手の込んだ「あんちょこ」そう簡単に作れませんよ。
あれは私に色々教えてくれたお師匠さんのような人が書いたものに私が手を加えたものですよ。
遠野さんが?・・ああ、そうだったのですか・・そんなことがねえ・・
でもねえ、長い間、家政婦をしてきた島本は思うのですよ。あの遠野さんは私なんかよりよほど優れた家政婦・・いえ、家庭教師でしたか・・と、思いますよ。
それに私とはタイプが全然違うと思います・・
私も後を引き継いでくれた人が遠野さんのような人で安心しておりました。
私は家政婦はできても家庭教師は勤まりませんからねえ。
家庭教師の方は私はせいぜい小学校くらいまでです。
遠野さんは中学、高校・・いえ、ずっとこの先も・・
でもそんな先、遠野さんは・・
えっ・・遠野さんが、どうしたら喜ぶか・・ですか?
うーん、そうですねえ・・
そういえば・・遠野さんって・・今でも・・
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