第2話 出会い

 若者は自分の生まれ育った村を出た。

 もう戻って来ることもあるまい、そう思った。

 彼は一つため息をつくと、とぼとぼと歩き、街道に出た。

 砂埃が舞う道だが、広く長く、遠くの国まで続いている。

 彼は街道を歩き始めた。

 振り返って、村をもう一度見ておこうとか、そういう気には全くならなかった。

 もはや村に拒絶され、自分の居場所も無くなってしまったのだから。

 自分の身以外、頼れるものは何も無かった。



 彼は重い足取りで歩き続けた。

 馬でもいれば良かったのだが、あいにく連れていなかったので、自分の足で歩くしかない。

 遠い道のり――。

 だが、彼は歩き続けなければならない。

 絶望的な中でも、恋人を必ず見つけ出してみせると誓ったのだ。

 しかし、どうやって――?

 手がかりも何もないというのに。

 彼女は忽然といなくなってしまったと言う。

 神の元へ召されていないと良いのだが……。

 彼はそれだけが気がかりだった。

 生きてさえいてくれれば良い。

 たとえ他の男と逃げたりしたのだとしても、それは仕方あるまい。

 自分は長い年月、異教の地へと行っており、故郷には戻らなかった。

 愛想をつかされていても、自分が悪いのだから、何も言えないだろうと思った。

 


 恋人を捜すのにどうしたら良いのか具体的な策も思いつかない中、彼がただひたすら歩いていると、ポツポツと雨が降り出した。

 雨粒に気付いて空を見上げると、重そうな黒い雲が垂れ込め、太陽の光を完全に塞いでいた。

 彼は急いで街道脇に移動し、雨宿りできそうな場所がないかと探し回る。

 さすがに雨の中を歩き続けようとは思わなかった。

 晴れるまで、どこかで一休みするとしよう。

 街道から外れない程度の距離で、雨をしのぐ場所を探していると、大きな木を見つけた。

 幹が太く、枝も大きく広がっていて、葉も密なので、雨に当たらずに済むだろう。

 彼はそこでしばらく雨宿りしようと決めた。

 小走りにその木の下へ駆け込む。

 だいぶ服などが濡れてしまったが、彼は一息つき、太い根の間に腰を下ろした。

 雨が強くなり、草や木々に当たると激しい音を発し、視界も悪くなった。

 一体いつ止むだろう……?

 そう思い、周囲を見やる。

 「おい、大丈夫か?随分と濡れただろう?」

 突然背後から声がしたので、若者は心底驚いた。

 恐る恐る後ろを向くと、幹の反対側に男が座っていた。

 幹が太過ぎて、気付かなかったのだ。

 「悪い悪い、かなり驚かせちまったようだ。すまんな」

 くつくつという低い笑い声と共に、男は立ち上がり、若者のそばにやって来た。

 見上げると、彼と同い年くらいの男だった。

 まだ若く、ハンサムな顔立ち。

 「俺も雨宿りをしている。雨が止むまでの短い間だが、よろしく頼むぜ」

 「……あ、ああ。まさか人が居るとは思わなくて……」

 「無理もない。俺はあんたの足音で人が来るということが分かったが、あんたは全く気付かなかったんだろう?」

 「確かに、雨の音が激しくて、気付くことも出来なかった」

 ははは、と笑うと、男は若者の隣に腰を下ろした。

 片膝を曲げ、その上に腕を置く。

 「こんなに降るのは久しぶりだな。我々旅人にはこういう雨は優しくないが、大地を潤す恵みの雨だ、そう悪者にも出来んだろう」

 男は激しい雨を見つめながら言い、その後、若者に向かい合った。

 「あんたも旅をしているんだろう?こんな場所を馬も無しに歩いているのは、旅人ぐらいだからな」

 「そうだな、旅だ。どこにも行く当てはないが、旅をしていることには間違いない」 

 「おいおい、行く当てもないっていうのは、どういうことだ?永遠に旅を続けるつもりか?」

 「そうかもしれん。命尽きるまで彷徨って、一生を終えるかもしれない」

 「あんた、なんだか訳ありのようだな?俺に話してみる気はないか?なに、どうせ雨が止むまでする事も無いんだ。もし差し支えなければ、話をしないか」





 

 

 

 

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