三幕   土御門と千年の都

 神社じんじゃまつりで、玄武げんぶ巫女みこである明神みょうじん ちづると出会であってから、一週間いっしゅうかんったあさ。 

「どれにしようかな・・・と」 

 クローゼットからふくしては、ベッドにいてあるふく見比みくらべ、なやゆい

「うーん・・・」

「さっきから・・・なにをしておるのだ?」



  モグモグ パク・・・



 ふくくベッドのかたわら、キャットフードを頬張ほおばり、晴明せいめいたずねた。

「どれるか・・・まよってる」

ものに、なや必要ひつようなんてなかろう」

 かれこれ三十分近さんじゅっぷんちかかえ姿すがたに、晴明せいめいあきれる。

「そうだ、あおいちゃんは、どうするかいてみよう!」

 スマホをにして、ゆいは、メールをおくる。



  ♪♫♪ ♫♪



 すぐにあおいから、返信へんしんのメールがとどく。

あおいちゃん、制服せいふくにしたんだ」

 十分後じゅっぷんご制服せいふくているゆいて、晴明せいめいう。

「いつもあさに、ているものではないか」

「これだとなやまなくてすむもんね」

 ついさっきまっでなやんでいたものが、いまたのしそうに出掛でかける準備じゅんびをする。

「・・・わからん」

 その姿すがたに、晴明せいめいくびをかしげるのだった。

 今日きょうは、朱雀すざく巫女みこうため、ゆい晴明せいめいは、あさから身支度みじたくととのえていた。あおいわせバスにると──



  ブロロローー



 ──また、神社じんじゃがあるバスていかう。するとバスていで、ちづるがっていた。



  プシューッ



 バスをりると、ゆい左右さゆうける。


  キョロ キョロ



「ここでわせ?」

ほかに・・・だれないようです」



  グルウリ



 あおいも、まわりをてみた。ちづる以外いがいは、ひと様子ようすもない。そこへ一台いちだい黒塗くろぬりのくるまがやってる。



  キィーッ



 唯達ゆいたちまえで、くるままった。



 

ガチャ バタンッ



 運転席うんてんせきから、スーツをおとこりてるなり──



  ガチャ



「どうぞ、おください」

 ──後部座席こうぶざせきのドアをけ、唯達ゆいたちるようにすすめてきたのだ。



  ・・・?



 わけがわからず戸惑とまどう、ゆいあおい



  ザサ



 普通ふつうに、ちづるがくるまむ。

はやりなさい」

 二人ふたりにも、るようにうながす。この状況じょうぎょうでは、ちづるにしたがうしかなくくるまむ、ゆいあおい

「お邪魔じゃましまあす」

失礼しつれいします」



  バタンッ



 三人さんにん少女しょうじょせ、みちもどはしくるま



  ・・・ブウウーン




車内しゃないでは、しずけさがつづき──



  シーーン・・・



 ──やがて沈黙ちんもくとなる。



  ・・・・・・・・・



 だが、その沈黙ちんもくこられず、ゆいくちひらく。

「どこへくのかな、あおいちゃん」

「さあ、どこにくのでしょう」

 わざとらしい会話かいわをして、二人ふたりはちづるをる。



  チラリ

けばわかる」



  プイ



 それだけうと、ちづるは窓側まどがわかおむけた。ちづるのない態度たいどに、小声こごえあおいはなけるゆい

運転手うんてんしゅさんならってるはずだよね、どこくか?」

ってるはずです・・・が」

 バックミラーしに、運転手うんてんしゅ顔色かおいろうかが二人ふたり



  ヒョイ、ヒョコ ヒョコ・・・



 そんな二人ふたりをうるさくかんじたのか、ちづるがたしなめる。

あそびにくわけじゃないんだから、じっとしてなさい」

 どうやらたのしくえる、という雰囲気ふんいきでもなさそうであった。

「・・・くまでちましょう」

「そうだね」

 あおい言葉ことばに、ゆいうなずく。ふたたび、車内しゃない沈黙ちんもくするも、ゆいにはになることがあった。どこからかしてきたのか、ちづるがリンゴあめ一口ひとくちサイズ)を頬張ほおばる。



  モゴ モゴ・・・



 横目よこめていたゆいを──



  チラ



 ──つられてあおいる。



  チラリ



「しょうがないわね」

 視線しせんづいたちづるは、二人ふたりにリンゴあめ手渡てわたした。

「ありがと」

「ありがとうございます」

 物欲ものほしげにていたわけではないが、そこはおんな



  ・・・カプ カプ



 車内しゃないに、あまかおりがただよう。



  フワワン・・・



 リンゴあめべ、しばらくしておおきなかべかこまれ、これまたおおきな門扉もんびまえくるままった。



  ・・・キィ



「ひゃあー、おおきなもん・・・」

 ゆいおどろいていると、もんじどうひらはじめる。



  カシャ カシャ ガシャン・・・



「このいえ・・・だれいえだったけ?」

 っている記憶きおくがあるのに、名前なまえてこないゆい

あおいちゃん、ってる?」

 何気無なにげなしにあおいいてみたところ、かないかおづく。

「どうかしたの、あおいちゃん?」

「いえ・・・なんでもないです」

 なにかあるとおもうもけず、その理由りゆうを、ゆいあとることになる。くるまもんけ、広壮こうそう邸宅ていたくわきとおり、おくにある平屋ひらや道場どうじょうらしき建物たてものちかくでまった。

 運転手うんてんしゅは、無言むごんで──



  ・・・ヴヴーン



 ──くるまのエンジンを停止ていしさせた。

 そこでけていたスーツ姿すがたの、まだわかおんな後部座席こうぶざせきのドアをけ──



  ガチャ



りてください」

 ──とい、三人さんにん少女しょうじょくるまりた。



  バタンッ



「ついてください」



  スタスタ・・・



 それだけで淡々たんたんと、ゆいらを案内あんないする。



  ・・・トコトコ、トコ



 建物たてもの外側そとがわ沿うようにあるいてくと、なかはいれる格子戸こうしどとおり、内庭うちにわへとた、そのとき



  ヒューーン ドスッ!



 少女しょうじょ姿すがたがあっ。

「ここで、お待ちください」

 のこして、そのってく。

「もしかして、あの朱雀すざく巫女みこ?」

 ゆいつぶやきに、ちづるはなにこたえず、あおいだまったままでいる。弓道きゅうどう作法さほうもとづいてわらせると、唯達ゆいたちところへ、少女しょうじょかってる。



  ・・・スタ スタ スタ



「おたせしてもうわけありません。このような格好かっこうですが、このままで失礼して《しつれい》します。わたし土御門つちみかど いずみいます。はじめまして、神薙かんなぎ ゆいさん」



  ニコリ



 胴着姿どうぎすがたであるが、あきらかに自分じぶんちが少女しょうじょ恐縮きょうしゅくするゆい

「は・・・はじめまして」

「おひさりですね、天道てんどう あおいさん」

「ええ、おひさりです」

あおいちゃん、いなの!?」

 おどろきの事実じじつるも、土御門つちみかど いずみとの再会さいかいは、あおいとってうれしいものというわけではなかったのである。

もうわけありませんが、昔話むかしばなしをするつもりはありません。単刀直入たんとうちょくにゅういます。あおいさん、ゆいさん、お二人ふたり四神しじんを、こちらへおわたいただきたいのです」

「そうわれても・・・」

「・・・いずみさん」

 いきなりのもうれに、二人ふたり困惑こんわくしていると──



  ゴソガサ



 ──ゆいのブレザーのポケットから、晴明せいめいる。

「ふんっ、よくもえたものだ。四神しじんは、おいそれとあつかえる代物しろものではない。そんなあまくはないぞ!」

 いずみたいし、晴明せいめい苦言くげんていする。

安倍晴明様あべのせいめいさまですね、ぞんじております」

 そのちいさき晴明せいめい姿すがたにしても、いずみどうじることなくはなしをつづける。

「あなたたち晴明様せいめいさまが、廃工場はいこうじょう化物ばけものたたかったことはっています。植物しょくぶつおそわれ、あとあらわほね化物ばけものを、お二人ふたり脅威的きょういてきちから発輝はっきしてたおしたと。そのあと、お二人ふたりたたかったことも」

随分ずいぶんと、わしらのことっておる。まるでていたようなくちじゃな」

 そのていたとおもわれるものに、晴明せいめいをやる。



  チラ



「・・・(らなーい)」

 だが、ちづるは、我関われかんせずといった態度たいどだ。

晴明様せいめいさま土御門家つちみかどけ代々だいだいみやこ守護しゅごするやくになってまいりました。それは千年せんねんたった・・・いまつづいております」

「だから四神しじんちから必要ひつようだとでもうつもりか?」

「それもあります・・・ですが、ひと存在そんざいおびやかすものほかにもいます」

ほかにじゃと、どう意味いみだ?」

「それは・・・いまえません。あおいさん、ゆいさん、お二人ふたりは、そのようなものと、たたか覚悟かくごはあるのですか?」

「・・・・・・」

 いずみいに、あおいこたえることができず。

覚悟かくごかあ・・・むうーん、たたかったのは白虎びやっこだけど、わたしでもあるんだから・・・たたかったってことは覚悟かくごなのかな?」

 くびひねかんがえるが、ゆいもはっきりとこたえられず。いずみは、もう一度問いちどとう。

あおいさん、あなたはどうです?」

「・・・ふふ、そうね。それはゆいさん、次第しだいかな」

めていいのか?」

「だってめても無駄むだでしょ」

 突然とつぜん二人ふたりわりように、いずみ動揺どうよう後退あとずさる。



  ズサ



なんなの!?あなたたち・・・」

白虎びゃっこ青龍せいりゅうよ、なに勝手かっててきておるのだ!?」

「いいから大人おとなしくしていろ」



  ズッポ



なにをするっ!」

 晴明せいめいをポケットのおくもどすと、ちづるにをやるゆい

「ちづる、どういうつもりだ?朱雀すざくわせるとっておきながら、朱雀すざくはどこだ!?」

らない」

「それ、本気ほんきってるの?」

 ちづるの一言ひとことに、あおいかえす。

「いい加減かげんにしろよ、玄武げんぶておまえはなせ!」

わたしは、いずみってるのをってるだけだから」

 なおり、いずみゆい



   ザ



「おい、おまえ正直しょうじきこたえろ。朱雀すざくはどこにいる?」

 さっきまでとはちがう、ゆいするど気圧けおされるも、毅然きぜんとした態度たいどをとるいずみ

「いくら・・・かみものであろうとおしえること出来できません。とくに、あなたにはです」

なんだと?」

 その言動げんどうに──



  ガッ



 ──ゆいが、いずみむなぐらをつかんだときだった。

泉様いずみさまはなれてください!」



  ジャキンッ!



 そこへ警棒けいぼうってはいろうと、おんなしてる。



  ダタタッ



 そのものは、ここまで案内あんないをしたわかおんなであった。



  ザサッ



いまいいところだから、邪魔じゃましちゃ駄目だめよ」

「どきなさいっ!」

 はばあおいに、おんな警棒けいぼうなぐかる。



  ブンッ サ

  ブン、ブンッ サ、ササッ



 たやすくかわあおいわきけ──



  ダダダーッ



 ──また、一人男ひとりおとこしてた。

 あおいとちづるは、そのまま見過みすごすとおとこは、ゆい背後はいごびつく。



  ガバアッ



 そして羽交はがめするも、おとこ両腕りょううでつかゆい



  ガシ



邪魔じゃまするな!」

 前屈まえかがみにうでき、力任ちからまかせにおとこばす。



  ズダンッ



「ぐはっ!」

 おとこは、唯達ゆいたちせたくるま運転手うんてんしゅだった。あおいなぐかっておんなうでり、背負せおうとこしげた。



  ドサンッ



「うっ、うう・・・」

城山しろやま、たつき!?」

 げられた二人ふたり心配しんぱいして、いずみける。いくら護身術ごしんじゅつ格闘技かくとうぎ訓練くんれんをしていても、四神しじんわったゆいあおいかなうわけがなかった。



  ガシャシャ!



 あらたに金剛杖こんごうづえった修験者しゅげんじゃあらわれ──



  ザザ、ザッ・・・ザサ



 ──ゆいあおいまわりをかこむ。

見覚みおぼえがある・・・その格好かっこうには」

 その者達ものたちを、ゆい見入みいる。

もんとき・・・おそって連中れんちゅうはあなたたちでしょ」

 あおい風貌ふうぼうおぼえがあった。



  ガシャシャン!



 修験者達しゅげんじゃたちは、攻撃こうげき身構みがまえをする。おうじて武具ぶぐ具現化ぐげんかし、ゆいあおい臨戦態勢りんせんたいせいはいろうとしたときだった。



  ・・・スタッスタッスタッ



 道場屋内どうじょうおくないからあらわれ──

「やめぬかっ!」

 ──この抑止よくしする。

「お父様とうさま!?」

土御門つちみかどものがなんたる醜態しゅうたい・・・そこの者共ものどもよ、姉様あねさまものであっても勝手かって真似まねゆるさん、がれ!」

 口調くちょうあらげ──



  ギロリ



城山しろやま藤本ふじもと!お前達まえたちもだ!」

 ──ゆいあおいに、かされた二人ふたりにらむ。

 五十代前半ごじゅうだいぜんはんみじかめの口髭くちひげとスーツ、がっちりした体格たいかく威厳いげんてとれる。



  ガシャシャシャ ザ、ササーッ



 修験者達しゅげんじゃたちけるようにり、名指なざしされた二人ふたりあたまげ、このってく。



  スタタ、タタッ



むすめ手荒てあらことをしてもうわけない」

 いずみちち名乗なのおとこは、深々ふかぶかあたまびるのだった。



  ・・・ヒョコン



「ふうー、ようやくまともなはなしができるものたか」

 ゆいのブレザーのポケットからかおすと、晴明せいめい一息ひといきつく。

「やややっ!晴明殿せいめいどのですな!?」

 そのちいさな晴明せいめい姿すがたはいると──



  ドタタタッ



 ──おもわず内庭うちにわりて、ゆいあゆる。

「それでだれだ、おぬしは?」

 晴明せいめいたかさにわせ片膝かたひざをつき、宗矩むねのりはなす。

もうおくれました、わたしは、土御門つちみかど当主とうしゅ宗矩むねのりいます」

 だが、はたからればスカートにかおちかづけ、いかがわしくえた。

「こほん、お父様とうさま・・・ちかいです」

 むすめ言葉ことば風紀上ふうきじょうよろしくないとかんじ、宗矩むねのりがる。

「これは失礼しつれいを・・・おじょうさん」



  スク



 宗矩むねのり登場とうじょうで、このおさまったかにえたが、まだ納得なっとくしていないものた。

勝手かってわらそうとするな、おまえおそってやつらの仲間なかまか?」

 おんならしからぬ言動げんどうで、ゆい宗矩むねのり見上みあげる。事前じぜん報告書ほうこくしょにより、二人ふたり少女しょうじょうちなるものべつだと理解りかいはしていた。それをまえ、宗矩むねのりう。

土御門つちみかどもの・・・身内みうちであるあねのしたことであります。しかし、わかっていただきたい。けっして私共わたしどもは・・・」



  シュゴゴゴゴオーー!!



 すぐちかくるまがあるあたりで、竜巻たつまき発生はっせいする。

「あれは竜巻たつまきか?」



  ピシッ パシッ



 晴明せいめいった直後ちょくご変化へんかする竜巻たつまき



  バチッ バチバチッ



 それは放電ほうでんともな竜巻たつまきとなり、そののすべてのものつたわる異様いよう気配けはいであった。

「この妖気ようき・・・」

 と、ゆい

「あの竜巻たつまきのようね」

 と、あおい

つぎからつぎに・・・」

 と、晴明せいめい

「これは・・・」

 と、ちづる。

なんだ!?」

「このいやかんじ・・・なんなの?」

 はじめて感覚かんかくに、宗矩むねのりいずみ戸惑とまどう。



  ガオオオオオンッ!!



 雄叫おたけびとともに竜巻たつまきせると、何事なにごともなかったようにしずかにになる。



  シーーン・・・・・・



いや予感よかんがする・・・」

 そう晴明せいめいくちにしたとき──



  ダッザザザッ



 ──たつきとばれるおんなくずれるようにんでた。

「か、かい・・・怪物かいぶつがっ!・・・」

 言葉ことばつづいててこない様子ようすだ。



  ポイッ



「ふげえっ!」

 すると晴明せいめいほうげ──



  ダターッ



 ──ゆいす。



  ヒューーン ストットン



「おっとと・・・すまぬな。わしをもののようにあつかうとはしからんやつじゃ。ちづる!」

 めたもの意外いがいにもちづるだったことに、晴明せいめい少々目しょうしょめまるくする。だが、それ以外いがい無関心むかんしんだった。

仕方無しかたないわね」



  タタッ



 あおいが、ゆいってける。

 くるまめられていた周辺しゅうへん竜巻たつまきこり、そこであらわあばれていたのはほね化物ばけものであった。



  ドガッ

  ぐあっ


  ブンッ ドガン

  グオオオオ!



 その化物ばけもの修験者達しゅげんじゃたち応戦おうせんするも、まるで相手あいてにならない。



  ダダーッ



邪魔じゃまだ、うせろ!」

 そこへゆいがやってると、くるまのボンネットへがり、天井てんじょうぶ。



  ダッダン バンッ



 瞬時しゅんじ太刀たち具現化ぐげんかさせ──



  ヴン



「せああっ!」

 ──両手りょうてつと、ほね化物ばけもの頭上ずじょうめがけろす。



  ガキィン



 だがざまに、ほね化物ばけものうで太刀たちはばむと、そのままうではらう。



  ヴオッ



 とっさにゆいは、相手あいてうでだいにして、みずか退いた。



  シュタン



 片腕かたうでをつき着地ちゃくちすると、ゆいがり、ほね化物ばけもの直視ちょくしする。

 するとほね化物ばけものも──



  グルル・・・



 ──ゆい存在そんざいたしかめるように見入みいる。



  オオオオオオ!!



 荒々あらあらしくけるほね化物ばけもの



  タタッタ・・・



 あおいると、ほね化物ばけものにしておもう。

「あら、こっちも見覚みおぼえがあるわね」



  ・・・タタ、タタタッ



 いで、宗矩むねのりいずみもやってる。

なんだ・・・あれは?」

「あれか・・・ほね化物ばけも・・・」

 はじめてにする化物ばけものに、宗矩むねのりいずみいきむ。



  トコ トコ



 最後さいごにちづるが、晴明せいめいかたせてゆっくりとる。



  ドクンッ



「むう、このかんじ・・・」

 廃工場はいこうじょう遭遇そうぐうしたほね化物ばけもの鼓動こどうおなじものを、晴明せいめいかんるのだった。

「・・・あのときほねやつのようね、ちよっとちがうけど」

 ちづるのつぶやきに、晴明せいめいたずねる。

「どうしてわかる?」

おしえない」

「・・・」

 ほねあつみがくわわり、ましてまえより一回ひとまわおおきくある。ちづるとのかんがえの一致いっちを、とりあえず晴明せいめいつたえることにした。

白虎びゃっこ青龍せいりゅうよ、理由りゆうはわからんが、あやつまえたたかったほねやつじゃ!」

「ふーん、そうなんだ」

「やはり・・・だがたおしたはず」

 たおしたのは事実じじつまえ存在そんざいするのも事実じじつゆいあおいまえにして、ほね化物ばけものは、かなりいきりつ。



  フゴ フゴオッ ガフッ・・・



「ふふ、どうやら私達わたしたちうらまれているみたいね」

けてたなら、もう一度いちどぶったおすまでだ!」

「うふふふふ・・・」

 おもわずあおいわらう。

なにがおかしい?」

「だって化物ばけものけてたなんて、白虎びゃっこ冗談じょうだんうなんてめずらしいから」

冗談じょうだんなんことだ?」

「あらづいてないの?」

 晴明せいめいとちづるもおもう。

本気ほんき冗談じょうだんか、まったくわからんやつじゃ」

白虎びゃっこって冗談じょうだんつうじないから、私嫌わたしきらい」



  ヴォン パシッ クルン



 武具ぶぐ具現化ぐげんかし、あおい身構みがまえるとほね化物ばけものは──



  グオオオオオッ!

  ドス ドスドスンッ



 ──ゆいかって突進とっしんする。

るなら・・・かえちにするだけだ!」



  ・・・ダーッ



 うがはやゆい突進とっしんするとせかけ、直前ちょくぜんたかたてからだひねると──



  ヒュルン



 ──ほね化物ばけもの頭上ずじょうえ、うしろからかった。

「せやっ!」



  ヒュン



 その瞬間しゅんかん──



  バチィンッ ズザアア



 ──たたとされ、ゆいころげる。



  ユラ ユラリ・・・



 ゆいおそったのは、ほね化物ばけもの尻尾しっぽであった。



  シュル シュルシュルン・・・



「な、なんじゃ、あの尻尾しっぽびてちぢみおった!」

 晴明せいめいおどろく。



  グルル・・・



面白おもしろい・・・」



  スクッ ニィ



 がり、ゆいみをかべる。

「へえ、まえよりつよくなっているようね」

 格段かくだんつよさをし、ゆいがやられるのをても、あおい他人事たにんごとのようだ。その様子ようすに、晴明せいめい危惧きぐする。

四神しじん三人さんにんそろって、なぜ協力きょうりょくせんのだっ!?」

一度倒いちどたおした相手あいてに、三人掛さんにんかかりでたおせとでもうのか?」

 ゆいかえす。

「それもそうね」

 あおい納得なっとくする。

わたし賛成さんせい

 ちづるもだった。

「お前達まえたちなにかんがえておる!」

 べつ意味いみ協力きょうりょくする四神しじん三人さんにんに、晴明せいめいいかりがこるも、ふと前回ぜんかい出来事できごとあたまをよぎる。

「またいや予感よかんがする・・・」

 不意ふいほね化物ばけものが、両腕りょううでゆいけてした、つぎ瞬間しゅんかん



  ズボボバアーーッ!



 その両腕りょううでほね隙間すきまから無数むすう蔓草つるくさすと、ひとつのたばかたまりとなってびてゆく。

「そうそう何度なんども・・・」

 太刀たちげ──

「・・・おなつうじるかっ!」


  ザン



 ──一刀両断いっとうりょうだんにする。



  ズババアーッ



 かれかれた蔓草つるくさが、ゆいからみつく。



  シュルン シュルシュル・・・



 全身ぜんしんちからめるゆい



  グ、グググ・・・



無理むりだ、ちぎれない」

「なにいーーー!?」

 はっきりと場面ばめんが、晴明せいめいあたまよみがえってくるのだった。

「あのつるには妖力ようりょくめられていて、ちょっとやそっとじゃれないわよ」

 そう見立みたてたことを、ちづるはくちにする。

「どちらでもかまわんから白虎びゃっこを、いやゆいたすけんかっ!」

 晴明せいめいがそうさけぶと、なぜかきゅうあおいあたまひびこえ



  面倒臭めんどうくさ

  つかれるからうごきたくない

  そもそもなんたすけなきゃいけないの



 悪態あくたいをつくこえに、ちづるをあおい



  ジトー・・・


「うっ!」

 ちづるのっている、だれたすけるのかを。そのかんにも、ゆい強引ごういんせるほね化物ばけもの



  ズ、ズズ ズルズル・・・



「やればいいんでしょ、わたしがやればっ!」



  クルン パシッ



 左右さゆう素早すばやうごき──



  タタッザ タタッザ



 ──間合まあいをめようとするあおいに、やりした尻尾しっぽおそいくる。



  サッ ズガン

  サ、ササッ ズガズガッ



「くうっ、お見通みとおしってわけね」

 尻尾しっぽ攻撃こうげきはやさとするどさに、容易よういちかづくことができない。



  タタタタッザサア



「でも・・・これならどうかしら?」

 距離きょりをとりかまえると、あおい青竜刀せいりゅうとうくうる。

牙斬乱舞かざんらんぶ!」



  シュパッ



 縦続たてつづけにくうり──




  シュパパッ

  シュパパパパッ



 ──いくつものかぜやいばはなつ。



  ヒュン ヒヒュン

  ヒュヒュヒュヒュン


  ズガ ズガガッ

  ズガガガガン



 かぜやいばに、ほね化物ばけもの微動びどうにだにせず。だが土煙つちけむりまわりの視界しかいうばうと、そのすきあおい接近せっきんする。



  ・・・タタッ



本命ほんめいはこっち・・・」



  ザザッ



 蔓草つるくさたばかたまりになる手前てまえると、青竜刀せいりゅうとうやいばかぜまとわせる。



  ヒュウ



牙双牙がそうが!」



  シュパッ シュキィン



 したからげ、うえからも寸分すんぶんたがわずおな箇所かしょる。



  バサア



 それは妖力ようりょく強化きょうかされた蔓草つるくさをもくのだった。

 すると土煙つちけむりなかを──



  ・・・タタタッ



 ──何者なにものか、ってく。

すこしは感謝かんしゃしてね」

 あおいそばけ、ほね化物ばけもの不意ふいゆい



  ガキィッ



「ちいっ!」



  シュシュタッ シュタン



 その攻撃こうげきふせがれ、ゆいうしろへと退いた。ようやく土煙つちけむりうすらいでくると状況じょうきょうえてくる。



  ユラユラ・・・



 尻尾しっぽ伸縮しんしゅくさせることでからだかこみ、あおいゆい攻撃こうげきふせいでいたほね化物ばけもの


  シュルシュル シュルリ



おもったより厄介やっかいね、あの尻尾しっぽ

「どうやら・・・あれは攻守こうしゅねているようだの」 

 ちづるや晴明せいめいかんじているのとおなじようにき、ゆいあおい攻撃こうげきまる。



  ガルウ・・・



 前回ぜんかいちがって苦戦くせんする二人ふたりに──



  バスン バシン



 ──ほね化物ばけもの余裕よゆうからか、尻尾しっぽかる地面じめんたたく。

青龍せいりゅう白虎急びゃっこいそいで!」

 唐突とうとつさけぶとちづるは二人ふたりに、ほね化物ばけものとの決着けっちゃくいそがせるのだった。

「どうしたというのだ?」

 晴明せいめいうた。

「わかってるでしょ」

「まさか・・・限界げんかいか?」

貧弱ひんじゃくなのよ、あの子達こたちは」

「それにしても早過はやすぎる・・・」

 活動かつどうができる限界げんかいちかづく白虎びゃっこ青龍せいりゅう、それは本人達ほんにんたち一番いちばんよくわかっていた。

「このままだとまずいわよ」

 あおいゆいる。

「わかっている、あの尻尾しっぽなんとかできるか?」

「ちょっときびしいわね」

「ならまかせた」

簡単かんたんってくれるけど・・・やるしかないわね」



  ザザッ、ザサーッ



 ゆいあおいたがいに逆方向ぎゃくほうこうけ、えんえがくようにほね化物ばけものまどわす。



  タタタッ ヒュン


  タタタッ ヒュン



 徐々じょじょ加速かそくする二人ふたりに、ほね化物ばけものいきれなくなる。



  グウ・・・



 そしてわせたかのように、ゆい正面しょうめんから仕掛しかけ──



  ダダッ



 ──背後はいごから、あおい仕掛しかけた。



  ダタッ



 それをんでいたのか、ほね化物ばけもの両腕りょううで巨大化きょだいかさせ、かべのようにばす。



  ズガガガガッ



 けるあおい足元あしもとから──



  ドボッ!



 ──尻尾しっぽ尖端せんたん



  サッ



「そうくるのね」

 予測よそくしていたのか、あおいかわす。

 ゆいおうじて身構みがまえ──



  ジャキン



 ──太刀たち大太刀おおだち変化へんかさせると、巨大きょだいうではらう。

「どりゃあっ!」



  ガキキィン



 だが、ほね化物ばけもの大太刀おおだちつかんだ。

 かわしてあおい──



 

タッ



 ──つぎ瞬間しゅんかん



  ヒュン!



「くうっ!」



  ズガッ



 尻尾しっぽ尖端せんたん頭上ずじょうから、あおいねらっ。とっかわすも、《した》らうえからと尻尾しっぽあおいう。



  ズボッ ズガッ



 ひだりみぎへと足速あしばやに、あおいかわす。



  タタッ、サッ ズボッ

  タタッ、サッ ズガッ



「ちよっとしつこいわよ!」



  ・・・シュタッシュタッ ザサア



 左右交互さゆうこうご退距離きょりくと、尻尾しっぽへびのように警戒けいかいする。



  ユラリ・・・



こまったわね、あの尻尾しっぽ・・・」

 おもわぬ尻尾しっぽ攻撃こうげき太刀だちで、あおい攻撃こうげきてんじることが出来できない。それからゆい太刀たちつかまれ、うごきがれないでいる。

「このおお・・・」



  グ、グググ・・・



 しかしほね化物ばけものも、二人ふたり相手あいてにしているためか、ほか攻撃こうげき仕掛しかけてくることはせず膠着状態こうちゃくじょうたいとなった。

はやくしないと時間じかんないわよ!」

 ちづるのやかしに、ゆいにらかえす。



  ギロ



「だったら・・・」

なんとかしなさいよ!」

 ゆいけたあとを、あおいうばるようにさけんだ。

「そろそろしたらどうじゃ?ちづる、いや玄武げんぶ・・・それともその両方りょうほうか?」

 めあぐむ二人ふたりたすけようと、晴明せいめいこえけた。

「・・・よくわかったわね、いつから?」

今日きょう今日きょう・・・いまじゃよ。白虎びゃっこ青龍せいりゅうも、ゆいあおいとおして、ここの現世げんせことているはず。だがおぬし言動げんどういが、ここにものまったわらん。この現世げんせ物凄ものすごはやさでまなんでいる証拠しょうこじゃ」

半分はんぶん・・・正解せいかいよ」

半分はんぶんか・・・じゃが、そのままだとちづるの人格じんかくてなくなってしまうであろう」

「そうね、同化どうかしたままだとわたし・・・いまはどちらともえないか。でも必要ひつようことたから、明日あしたにでも、ちづるにもどしてあげる」

「で、どうするつもりか?」

「あの程度ていどあやか相手あいてこずるなんて・・・お粗末そまつよね。けど、あの二人ふたりしをつくるのもいいかも」

 そうって──



  パ、パパパッ パパッ



 ──手印しゅいんみ、りょう地面じめんてる。



  バン



われめいずる、草木山川もうもくさんせん万物ばんぶつ宿やどりしものよ。人形ひとがたりて、われしたがえ、土呂田坊どろたぼう!」

 すると、そのさき地面じめんがる。



  モリ



 すすむごとにがりはおおきくなり──



  モリッ モリモリッ



 ──土塊つちくれ人形ひとがたすと、ほね化物ばけものかってく。



  ドスン ドスッドスッ・・・



てくれは土人形つちにんぎょうだけど・・・やくつわよ」

「そう・・・なのか」

 おおきさはほね化物ばけものおなじくらいであったが、晴明せいめいにはとてもつよそうにえなかった。

「あれでなんとかなるの・・・?」

 あおいおもった、その直後ちょくご



  ヒュルン ズボオオッ



 一瞬いっしゅんにして、するど尻尾しっぽ尖端せんたん土人形つちにんぎょうからだつらぬく。

「・・・なによ、駄目だめじゃない」

「あれでやくつのか?」

 半信半疑はんしんはんぎだった晴明せいめいは、いまので確認かくにんにかわった。しかし、ちづるはちがっていたのである。

「ここからよ、てなさい」

 土人形つちにんぎょうつらぬかれても、なおすすみ、ほね化物ばけものおおかぶさった。



  ボアザサーー



 そして砂状さじょうとなって、ほね隙間すきまはいむと、ほね化物ばけものからだむしばんでいく。



  ジュルー・・・



青龍せいりゅういまよ!」

けってこと?大丈夫だいじょうぶなの?」

 ちづるのこえに、あおいす。



  タタタッ



 あおいねらとうとする尻尾しっぽに──



  ギ、ギギ ギシ・・・ヒュン



 ──ぎこちなさがしょうじてうごきにするどさをく。

「これなら・・・」



  ズガッ



 たやすくかわすと、わざ発動はつどう集中しゅうちゅうするあおい

あおい・・・無理むりさせるけどゆるしてね」

 青龍刀せいりゅうとう左右さゆう回転かいてんさせ──



  ヒュン ヒュルン ヒュルン



 ──かまさけぶ。



  クルン パシッ



風神ふうじんい!」



  ヒュヒュン



 青竜刀せいりゅうとうに、かぜころもまとう。

 頭上ずじょうから、あおいねら尻尾しっぽげ──



  ガキンッ



 ──そこから一気いっきてる。



  キィン ギキィン



 おな箇所かしょ連撃れんげきしてりつけ──



  ガ ガガッ ガキィッ



「くっ、まだよ・・・」



 ──ちからしぼる。



  キィン ガキィン



「これで最後さいごよ!」



  バキイイインッ! グガアーッ



 られ、ちる尻尾しっぽ



  ドサッ



「ふうう、あとは・・・まかせたわよ」

 ちからり、あおいひざをつく。尻尾しっぽられひるんだのか、ほね化物ばけもの太刀たちつかちからゆるむ、その瞬間しゅんかん

「うおりゃあああ!」

 ほね化物ばけものはらう。



  ガキャアッ



 それでもまだは──



  ギシギシ・・・



 ──ゆいつかかろうとしてくる。

 だがうでにぎこちなさがあり、片方かたほううではらい。



  ガッ



 つづざまに──



  ガッゴン



 ──もう片方かたほううでちつけた。

 するとゆいは、そのうでがり──



  ダッタタタッ、タァン



 ──ぶ。

 大太刀おおだちたかかまえ──

だいとうざん!」



 バキィキィィキィ



 ──ほね化物ばけもの両断りょうだんする。



  ボササア



 ほね化物ばけものは、はいとなってえた。

「やりおるのう、白虎びゃっこやつ。あんなわざがあるなら、尻尾しっぽうでれるのではなかったのか」

「あれ力任ちからまかせにっただけよ」

「・・・ま、まあ、いまのでたおしたのであろう」

今度こんど確実かくじつにね」

 二人ふたりうまでもなく、これでほね化物ばけもの決着けっちゃくをつけた。が、ゆいなおう。



  クル



「まだだ!」

白虎びゃっこよ、わかっておる。いろいろと解決かいけつしていないことがあるだろうが、いま青龍せいりゅう限界げんかいじゃ。はなしあとでもよかろう」

 前回ぜんかいのような四神同士しじんどうしたたかいをけようと、晴明せいめい妥結だけつするようけた。

わるいけど・・・これ以上いじょうはきついから・・・あおいわるわよ」

 ほね化物ばけものとのたたかいの最中さなかに、あおいった言葉ことばを、唯《ゆ

い》はおもす。



  すこしは感謝かんしゃしてね



「・・・わかった、こっちもゆいわる。だがわすれるな、ちづる!おまえにはきたいことがある!」

 それだけうとわり、まだけないでいるあおいに、ゆいはしる。





スタタタッ



あおいちゃん、大丈夫だいじょうぶ!?」

「それが大丈夫だいじょうぶいたいのですが・・・このあいだときより・・・からだおもく、ちからはいらないようです」

晴明殿せいめいどの二人ふたりのおじょうさんには、すこやすんでもらいましょう。部屋へやをご用意よういします。」

「ありがたい、あおいよ、やすませてもらうがよい」

 すぐさま状況じょうきょう把握はあくして、宗矩むねのり大人おとな対応たいおうをする。

藤本ふじもと二人ふたり案内あんないしてやすめるように手配てはいを!ねんのため先生せんせいんでてもらうように!」

 みんなってていた藤本ふじもと たつきにけ、あるくことさえままならないあおいを、ゆいとたつきがささあるく。



  ヨロ ヨタ・・・



 このから、ゆいなくなると──

面倒めんどうだわ・・・だから白虎びゃっこたすけるなんていやだったのよ」

 ──ちづるが愚痴ぐちる。

「まあ、そううでない」

 今回こんかいは、ちづるのたすけもあって、なんとか無事ぶじつことが出来できたとおも晴明せいめいであった。



  カチ カチ カチ・・・



 それから二時間にじかんほどして──



  コン コン



失礼しつれいします」



  ガチャ



「お二人ふたりれてまいりました」

 ──ゆいあおいは、応接室おうせつしつ案内あんないされた。

たか・・・二人ふたりとも」



  ・・・パク モグ



 そこはテーブルをはさむようにしてソファーがいてあり、テーブルのうえで、晴明せいめい茶菓子ちゃがし頬張ほおばっていた。

「おじょうさんがたからだ大事だいじないか?」

「はい、すっかりくなって、もう大丈夫だいじょうぶです。それにおひるまで、ご馳走ちそうになりましてありがとうございます」

「とても美味おいしかったです。おまけに制服せいふくまでクリーニングしてもらって、まるでろしてのようです」

 二人ふたりは、土御門つちみかど 宗矩むねのりれいう。

「それはよかった、ささすわってくだされ」

 二人ふたりはソファーにすわり、ふとテーブルのすみにあるから重箱じゅうばこづくゆい

「(よっつ!こはおじさんと・・・いずみさん・・・ちづるちゃんと晴明せいめい四人分よにんぶんかな?)」

むかしから疲労回復ひろうかいふくにはうなぎ一番いちばん。それにしても晴明殿せいめいどのは、そのからだみっつもべなさるとはおそりました。わっはっはっはっはっ!」

「(みっつも《た》べたの!?)」

「そうか・・・れるの」

「そ、そうでしたか、はは・・はははは」

 これにはゆいわらうしかなかった。

「ところでいずみさんとちづるさんは、どうなされたのでしょうか?」

 になっていたのか、あおいいた。

「これはすまない、むすめ客人きゃくじんないなどもうわけない」



 藤本ふじもと たつきと一緒いっしょ二人ふたりがいなくなると──



  スタスタ



いずみ、どこへく?」

 ──ちちである宗矩むねのりめる。

わたしは、これで失礼しつれいさせてもらいます」

友人ゆうじんわなくてどうするのだ?」



  ピタ



「あの二人ふたりは・・・友人ゆうじんではありません」

 ると、いずみはこのってく。

わたしかえらせてもらうわね」

 ちづるもかえろうと晴明せいめいほうげ──



  ポイ



「うおっ!」



「おっとっと!」



  パシッ



 ──宗矩むねのりる。

大丈夫だいじょうぶですか、晴明殿せいめいどの?」

「いやあ、すまんな」

「いえいえ」

 ちづるもかえってった。



「そうでしたか・・・」



  コン コン



ものってました」



 ガチャ



 ゆいあおいものされると──

「わしもみたいぞ!」

駄目だめだよ晴明せいめい、あんまり図々ずうずうしいことっちゃ!」



  アセアセ



 ──晴明せいめいままないに、ゆいあわてる。

「いやいやになさらずに・・・」

 宗矩むねのりはテーブルにある室内電話しつないでんわける。



  ピッ



「さっきのシュワシュワがいいぞ!」

りましたか・・・炭酸系たんさんけいものひとっててくれ」

 すぐにものとどくと、自分じぶんたかさにわさった台座だいざがり、晴明せいめいはストローをくわえる。



  チューーッ ズッズズッ



 一気いっきした。

「うっそお!」

おどろきです!」

 ゆいあおいまるくする。

「どうすればそんなにめるのよ!」

「わしにもよくわからん」

 自分じぶんでもわかっていなかった。

晴明殿せいめいどの、そろそろ四神様しじんさまかれたことはなそうかとおもいますが・・・よろしいでしょうか?」

 あおい体調たいちょう回復かいふくして、宗矩むねのりっているかぎりの情報じょうほうおしえるつもりであった。

「そうであったな、たしもんとおさきおそわれたとか・・・」

「それについてですが・・・」

「あのってください」

 突然とつぜんに、あおいはなしめた。

「どうした、あおい?」

当人とうにんではないわたしゆいちゃんでは、はなしいてもまったくわかりません。ですから青龍せいりゅうさんと白虎びゃっこさんにわったほうがいい

のではとおもいます」

「そうではあるが・・・」

「であおいちうやってわるの?」

「それは・・・」

 これまで勝手かって四神しじんわっていたあおいゆいじぶん意思いしわるのははじめてだった。

「・・・・・・・・・」

 あおいかんがえた。しかし、やりかた方法ほうほうおもいつかない。

「・・・わかりません」

わたしもわかんない」

なんじゃ、二人ふたりしてわからんのではないか」

「それでは・・・どうすればいいのでしょう」

 あおいは、晴明せいめいたすけをもとめた。

けてはどうだ?」

「わかりました」

 あおいじ、こころうち青龍せいりゅうけると、ゆい見習みならって、白虎びゃっこけてみた。



  青龍せいりゅうさん、わってください!


  われわれ、われえーー!



 数十秒後すうじゅうびょうごける二人ふたり

わんない・・・」

「どうしてわらないのでしょう」

駄目だめか・・・それならわしにかんがえがあるまかせるがよい」

なんとかできるの?」

当然とうぜんじゃ、これでもわしは、みやこではとおった陰陽師おんみょうじであるぞ!」

 ゆいいかけに得意顔とくいがおこたえると、晴明せいめい身形みなりただす。そうしてゆいあおい正面しょうめんすわり、晴明せいめいひとごとのように呪文じゅもんとなえ、いんむ。



  ブツブツブツ・・・・・・



二人ふたりともじて、こころうち意識いしき集中しゅうちゅうさせるのだ」

 晴明せいめい二人ふたりかって、またひとごとのように呪文じゅもんとなえ、二人ふたり意識いしき自分じぶん意識いしきわせる。



  ゆいあおいよ わしのこえこえるか?

  こえる!

  おどろきです!

  これでお前達まえたちも 白虎びゃっこ青龍せいりゅうはな

  ができよう

  晴明せいめいノ手ヲリナケレバ ロクニはな

  シガデキントハナ


  ゆいにしろあおいにしろ 巫女みことして修行しゅぎょう

  をんでいるわけではない できなく

  てたりまえであろう


  ソレハ仕方無しかたなイハネ ケド ゆめなか

  デナラはなシクライデキルワヨ

  ネ あおい


  そうでしたね


  そうか あおいゆめ青龍せいりゅうったか

 

 わたし全然ぜんぜんだけどなんで?


  ゆい あきらメナサイ アアイウ性格せいかくダカ

  ラはなシシテモツマンナイワヨ


  ツマラナイダト・・・ゆい はなシガアル

  ナライテヤルはなセ!


  はなせって・・・いきなりわれてもわ

  かんないよ


  ウフフフフ


  なに可笑おかシイ モトヲただセバ青龍せいりゅう

  貴様きさまガイケナイノデハナイカ!


  コレダカラ白虎びゃっこはなシシテルト はな

  シガすすマナイカラこまルノヨネ


  ナンナラワッテ オまえトノ決着けっちゃく

  ツケテモイインダゾ!


  ホラ スグコウナル


  なにをくだらんことめておるのだ!


  クダラナイ!青龍せいりゅう 晴明二人せいめいふたりマト

  メテブッバシテヤル!


  いい加減かげんにしてください!!


  シーーーン・・・


  あおいちゃん・・・


  みなさん おおきなこえしたりしてご

  めんなさい


  いや こっちこそたすかったぞ おかげ

  ではなしができる


  わたしこそ 神様かみさまえらそうなことを

  てしまいもうわけありません!


  ニシナクテイイワヨ サッキハ

  サセテわるカッタワ アリガトネ


  とんでもないです


  そんなことより どうしてわらん

  のだ?


  ダッテ・・・ネエ


  玄武げんぶヤ いずみトカイウむすめナイノデ  

  ハ肝心かんじんはなしケナイ ソレニ朱雀すざく

  ノことモワカランノデハドウシヨウモ

  ナイ クマデモナイトおもッタ

  カラナカッタマデダ


  ほう 白虎びゃっこにしてはごもっともな 

  けんだな


  ウルサイ!


  結局けっきょくどうするの?


  ソレハダナ・・・オ前達まえたち二任まかセタ


  ソウネ まかセルワ デモ必要ひつようナラ

  テクルカラ心配しんぱいシナイデ


  そうなるか・・・わかった



 晴明せいめい意識いしき解放かいほうすると、ける。

「ふうーーー・・・・・・ゆいあおいよ、意識いしき順番じゅんばんはらあしけ、ゆっくりけよ」



  パチクリ

  パチパチ



もどったあ!」

もどりました!」

「それでどうなされましたか、晴明殿せいめいどの?」

 宗矩むねのりたずねる。

「そのことであるが・・・わりにわしらでことになった」

 白虎びゃっこ青龍せいりゅうったことを、晴明せいめいつたえることはせずにいた。

「そうでありますか」

「それでいたところによると、もんさきおそわれたというのだが・・・どうなのだ?」

「それは事実じじつでございます」

「なぜじゃ?としでいえば、そこにゆいあおいわらぬ子達こたちであったはず」

「それについてはってもらいたいことがございます。わたし現在げんざい土御門つちみかど当主とうしゅですが、うらこと陰陽道おんみょうどう神道しんどう先程さきほど修験者達しゅげんじゃたち統轄とうかつしておりますのは、あねである静音しずねでございます」

静音しずねもうもの頭目とうもくであるか」

「ただ静音しずねめいは、もんからものらえよ、とのことだったといており、場所ばしょ日時にちじっていたとおもわれます」

「やはりっておったか」

おそらくでありますが・・・土御門家つちみがどけには大巫女おおみこつとめるものだけにがれる古文書こもんじょ存在そんざいし、そこに此度こたびことしるされていたとかんがえられます」

「そのような書物しょもつがあると・・・」

「はい、それともうひとになる報告ほうこくがありまして、静音しずねめいけた者達ものたちなからないものまぎんでいたといています」

らぬもの?」

目撃もくげきしたものによると、まだ年若としわかかたなゆみ薙刀なぎなたっていたと・・・人数にんずう四人よにんだったと確認かくにんされています」

「そのものらがもん青龍せいりゅう巫女みこや、白虎びゃっこ巫女みこおそったというのか!」

「かなりうで者達ものたちだったとおもわれます」

「それでどうなった?」

二人ふたりられ、一人ひとり不明ふめい、そのときいた会話かいわでは、なにかをわたせとっていたとか」

わたせ?それは四神しじんちからことであるか?」

「そこまではわかりねないですが」

「それだけではわからんか」

「ちづる殿どのなら、御存ごぞんじかとおもわれますが・・・なにせもんて、今居いまおられるのはちづる殿どのだけですから」

「そうであるが・・・くわしいこと一切言いっさいいわないのではどうしようもない」

「そうでしたか」

ってください、ちづるちゃんは平安時代へいあんじだいからたのですか!?」

「そうなの!?」

 晴明せいめい宗矩むねのりはなしから衝撃しょうげき事実じじつ二人ふたりる。

むかし、わしがわかころに、あねした修行しゅぎょうをしていたもの一人ひとりであった」

「どうしてだまってたのよ!?」

「それはだ・・・ちづるにだまっててくれとたのまれたから仕方無しかたなかったのだ」

「ちづるちゃんが・・・」

悪気わるぎはなかったのだ・・・はやくにうべきとわかっていたのだが・・・すまぬ」

たしかにひとえないことはあるよね」



  ウンウン



 自分じぶんったことに、ゆい納得なっとくしていると、おもいあたる者達ものたちた。

わたしむすめえないことがありますからな・・・わははははっ!」

「わしもこのとしになると・・・いろいろとな」

「まだ、なにかあるんだ」

「ま、まあ・・・」

あおいちゃんもある?」

「そうですね(ありました)」

「そうなんだ」

「そんなことより、静音しずねとやらにうこと出来できるか?」

「それは大丈夫だいじょうぶかと、あね晴明殿せいめいどのってみたいとっておりました」

「なら出来できるだけはやえるようはからってくれ」

承知しょうちしました。それでなのですが連絡先れんらくさきおしえていただきたくぞんじますが・・・よろしいですか?」

わたしほう連絡れんらくください」

 電話番号でんわばんごうとメールアドレスを、ゆいおしえる。

あとのことは・・・ちづるにくしかなかろう。ではかえろうとするか」

かえられるのでありましたら、くるまおくりましょう」

 くるまいて、ゆいおそおそく。

「あのー、くるまことですが・・・あしんでしまって・・・そのー・・・」

 白虎びゃっこくるまうえがり、自分じぶん意思いしではないもののへこませたことになった。

「そのことなら心配しんぱいなさらずに、こちらこそみなたすけてくださっておれいがしたいぐらいですよ!」

「もう十分じゅうぶんいただいています!」

馳走ちそうになった」

「いえいえ、つぎもまた美味おいしいもの用意よういいたしましょう」

「それはたのしみじゃ」

今日きょうは、大変たいへん世話せわになりました」

 唯達ゆいたちはおれいうと、むかえに女性じょせいくるままで案内あんないされてく。



  ・・・スタスタ

  トコトコ・トコ



 唯達ゆいたち応接室おうせつしつると──



  プルルル・・・



 ──ポケットからスマホを宗矩むねのり



  ピ



姉様あねさまですか・・・今帰いまかえったところです」

「どうであった?安倍晴明あべのせいめい・・・」

流石さすが歴史れきし名立なだた御仁ごじんですな、まったそこえません」

「まあ、うちかすようなことはしないであろう。ところでいずみはどうしている?」

病院びょういんかと」

「そうか、いずみはあのものだれであるからないとっているが・・・おそらくは四神しじん巫女みこ一人ひとりであろうて、まあかまわんさ。いましばらくは様子ようすをみよう」

「わかりました」



  ピ



「さて、どう安倍晴明あべのせいめい・・・」




 




















 







 

  

  













 










 






























































 




 









 




 



 




 









 


 
































 













  








   





 



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