二幕   祭と玄武の巫女

 風呂ふろからがり、自室じしつもどるとベッドにこしけるゆい



  ドサ



「んんん・・・さっぱり」

 パジャマ姿すがたで、くつろぐゆいにおもむろに晴明せいめいくちひらく。

ゆいよ、はなしがある」

「どうかした?」

 肩越し《かたごし》にると、真剣しんけん面持おももちの晴明せいめい

「これは大事だいじことだ」

「そのはなしってながい?」

みじかながいとかでなく、らねばならんのだ。その宿やどした四神しじん・・・白虎びゃっこ巫女みことなったものとして」

 そうじて陰陽おんみょう四神しじん巫女みこについて晴明せいめいかたる。

みやこ守護しゅごするため、東西南北とうざいなんぼく四神しじんはいして結界けっかいり、あらゆる病魔びょうま呪術じゅじゅつ魑魅魍魎ちみもうりょう脅威きょういから人々ひとびとまもやくを・・・」

 二時間以上にじかんいじょうわたり、こうずる晴明せいめい

おもすのう・・・姉上あねうえは、とてもうつくしく聡明そうめいひとであった。なのにだ・・・宿獣しゅくじゅう借初かりそめのからだ)の世話せわわする、わしの邪魔じゃまばかりしては、よく姉上あねうえひざうえあまえよって!」

 と私情しじょうはいり、おもわずあつくなる。

「おっと・・・余計よけいはなしだったか、やや!」

「スーー、スーー・・・」

 いつのにやら、寝息ねいきてているゆいだった。

「そうだな、いまはゆっくりねむるがよい」

 かみ出来でき人形ひとがたふところからすと、口元くちもとつぶや晴明せいめい



  ブツブツ・・・



 それをはなつ。



  クワワ



 と形代かたしろおおきさをしてゆき──



  ピト



 ──部屋へやかりをけるひもいた。



  カチンッ



 人形ひとがたかりをすと、ベッドからり、暗闇くらやみなかある晴明せいめい。またも忍《しのる、ふたつのひかひとみ



  ベシッ



「ふごっ!」



  ニャオーーーーン!



 月夜つきよに、ねここえ小霊こだまする。

 そうしてあさ──

ゆいっ、きなさい!いつまでてるつもりなの!」

 こえに、きるゆい



  ズッキィーーン!



「ううっ・・・!?」

 全身ぜんしんはしいたみ。

いたたたた・・・」

当然とうぜんじゃ」



  クイ



 くびだけうごかして、部屋へやなか陣取じんど晴明せいめいゆい

なんでーー?」

四神しじんちからは、自身じしん能力のうりょくたかめ、限界げんかいまでこと可能かのうじゃ。また、それ以上いじょう出来できよう。同時どうじに、それは諸刃もろはでもある」

「で、なに?」

「ただの筋肉痛きんにくつうじゃよ」

「でしょうね」



  ・・・モゴモゴ バク バクッ



 ふと晴明せいめいが、なにかをくちにしていることづくゆい

「キャットフード?」



  タタタ



 そこへヒヤヤッコがやってた。

「ご苦労くろうじゃ」

 キャットフードをってこさせ、晴明せいめいはヒヤヤッコを手懐てなずけていたとである。

「いつのに・・・」

 とおもいつつ朝食ちょうしょくをすませ、いそいで学校がっこうかうゆい

ってまーす!」

 今日きょう学校終がっこうおわりに、ゆいあおい約束やくそくをしていたのだ。そのため晴明せいめいには、さわぎをこさないという条件付じょうけんつきで、校内こうない自由じゆう行動こうどうすることゆるした。一限目いちげんめ体育たいいく授業じゅぎょう、グランドでの授業風景じゅぎょうふうけいながめていた晴明せいめい



  ワーーッ

  ゆいっ、たよ

  まかせて


  ドン!


  ガン!


  ナイスセーブ



「ほう、蹴鞠けまりか?しかし・・・ゆいなにをやっているのだ。かおたまったりと、あれは・・・たのしいのか」

 それから授業じゅぎょう一緒いっしょいたり、校内こうないめぐあるいたりと、それなりにたのしむ晴明せいめいであった。



  キン コン カン コン・・・



 そうしてひるになり、つくえならべクラスの女子じょしはじめるゆい

今日きょうは、はやくにおなかいたから、お弁当べんとうどおしかったよ」

 はしち、べようとした、そのとき

「わしのぶんは、どれだ?」

 け、弁当べんとうのぞ晴明せいめいおもわずさけゆい

わすれてた!」

 売店ばいてんへといそぐと、ゆい校内こうない人気にんきのない場所ばしょた。

「はい、これべて」

 売店ばいてんったコロッケパンときそばパンに、いちご牛乳ぎゅうにゅう晴明せいめいわたした。



  バク バクン



「うほっ、これは美味うまい!」

 晴明せいめいべているよこで、ってていた弁当べんとうべる。

「なんか・・・べるだけでつかれたよ」

 ゆいは、いきをつく。



  キン コン カン コン・・・



 午後ごご授業じゅぎょうわり、放課後ほうかごになると、足早あしばや学校がっこうゆい



  スタタ



 河川沿かせんぞいをみちなりにあるいてくと、川辺かわべたたず少女しょうじょえてた。河川敷かせんじきかうスロープをくだり──

「おおーーい、あおいちゃーーん!?」



  ブン ブン



 ──声高こえたからかに、ゆいる。とあおいこたえて、ちいさくかえす。あおいとなりると、ゆいたずねる。

あおいちゃん、体痛からだいたくない?」

いたいですけれど、わり平気へいきです」

「そうなんだ、私朝起わたしあさおきると体中痛からだぢゅういたくて・・・一限目いちげんめからサッカーだったから、キーパー立候補りっこうほしてらくかとおもえば、ボールがばんばんくるから最悪さいあくだよ」

 二人ふたりはなし夢中むちゅうになっているなか、晴明せいめい苛立いらだっていた。



  イラ イラ・・・



「ふぬう・・・」

 時間じかんにして五分ごふんぎようかとしたときゆいのブレザーのポケットから、晴明せいめいかおす。



  ガバァッ 



ゆいよっ、いつになれば、わしにはなしをさせるのだ!?」

「ごめん、わすれてた」

「これは晴明せいめいさん、昨日きのうは、たすけてくださってありがとうございます。ちいさなひと存在そんざいするなんて。しかも、平安時代へいあんじだいからやってた、かの有名ゆうめい陰陽師おんみょうじ安倍晴明あべのせいめいというではありませんか!」

 ゆいひら晴明せいめいに、あおいは、興味津々きょうみしんしん

「こらっ、やめんか!つまむでない。おまえさんたちといい、まごといい、どうしてひとはなしかぬのだ!」

「え?なになに晴明せいめいってまごいるんだ!」

 ゆいく。

「もしかして、おまごさんもちいさいのでしょうか!」

 あおいく。

 つい余計よけいことくちすと、ぎゃく質問攻しつもんぜめに晴明せいめい

「いい加減かげんにせんかっ、大事だいじはなしがあるとったはずだぞ!」

 ちいさながらも、あまりにもの剣幕けんまく二人ふたりはしゅんとなる。 

「・・・ごめんなさい、晴明せいめいさん」

「ごめん、ごめん、そんなにおこらないで、ちゃんとくから」

 すこ大人気おとなげないとおもったのか、咳払せきばらいをする晴明せいめい

「こほんっ、その・・・なんだ、わかればいい、わかればな」

 三人さんにんは、いてはなせる場所ばしょへと移動いどうする。そこはおな河川敷かせんじきにある、簡素かんそ屋根付やねつ休憩所きゅうけいじょゆいあおいは、ベンチにすわり、晴明せいめいは、テーブルのうえつ。

「えーー、それでははなそう・・・」



  カクカク シカジカ・・・



 ゆいはなしをしたことを、より簡潔かんけつあおいにも説明せつめいした。するとあおいが、みじかげる。



  パッ



質問しつもんです?」

なんだ?」

「そのみそぎとか、修行しゅぎょうをしなくてならないのでしょうか?」

「そうだな、本来ほんらいならば・・・しかし、おまえさんたちは、巫女みこ術士じゅつしになりたいわけでもなかろう」

たしかに、将来しょうらい・・・巫女みこはないよね」

 当然とうぜんのように、ゆいこたえる。

「それはそうですが・・・」

「かとって、このままうち四神しじんとどめておくわけにいかんしな・・・」

「それに、まだるんだよね、ほかに四神しじんって?」

玄武げんぶに、朱雀すざくのことか?」

「もしわたしあおいちゃんとおなじなら、友達ともだちになれそうだよね」

わたしも、それはになります」

 自分達じぶんたちおなじく、四神しじん宿やどしているかもれない巫女みこについて、二人ふたりは、興味きょうみきない。だが晴明せいめいには、気掛きがかりなことがあった。

「(せぬ、さきもんとおっていたものや、四人よにん巫女みこに、姉上あねうえ・・・なにがあったというのだ)」

「それにしてもあおいちゃんが、たすけにてくれたときはびっくりだよ」

 ゆい言葉ことばに、きたいことがあったのをおも晴明せいめい

「おおっ、わすれるところであった。どんないきさつで、青龍せいりゅうったのだ?」

「そうでした、青龍せいりゅうさんとのはなしが、きたいとっていましたね」

 晴明せいめいたすけられ、廃工場はいこうじょうしてからのことを、あおいはなす。

「あのあと・・・ひたすらはしって、この河川敷かせんじきまでていました。」



「・・・はあっ、はあっ、はあっ」

 両膝りょうひざき、かたおおきくいきをしていると、あおいは、なにかしら気配けはいかんじた。



  チョポン



 一粒ひとつぶしずく水面みなもちて、波紋はもんひろがるように、あおいこころやすらいだ。

「・・・・・・」

「フフ、ドウヤラチツイタミタイネ」

「・・・こえ?」

 あたまひびこえに、自然しぜんけるあおい

だれ・・・ですか?」

「ソウネ、四神しじんいち東門ひがしもん守護しゅごスル青龍せいりゅうナンダケド・・・ワカルカシラ」

神様かみさま・・・でしょうか?」

「ソンナトコロネ」

「おねがいです、たすけてください!」

 あおいは、たすけをもとめた。

出来できこと出来できナイことガアルケド」

しんじてもらえないかもれませんが、友達ともだち・・・いのおんなが、その・・・植物しょくぶつおそって・・・わたしげて・・・」

 あたま混乱こんらんして、しどろもになり、上手うまつたえられない。

「フゥン、大体だいたいことハワカッタワ。ソレデアナタカラ、妖シノ気配けはいガスルノネ。デモいまハ、実体じったいニナレナイカラ・・・アナタノからだシテクレルナラ、なんトカシテゲテモイイワヨ」

からだを・・・ですか?」

「チョットリルダケヨ」

「・・・わかりました」

 躊躇ちゅうちょなく、あおいこたえる。

「アラいさぎよイワネ、ソウユウノキヨ」

 すると足元あしもと水際みずぎわから、ちいさなたまがってる。



  スーーーー



 それはとおったたまで、あおいむねあたりまでくと、青龍せいりゅうう。

リナサイ」

 ばし──



  ギュ



 ──しょううえたまを、あおいにぎめた。



「・・・そのたまによって、わたし青龍せいりゅうさんは、わったわけです」

「そうであったか」

「それでどうするの?」

 これからのことを、ゆいたずねた。

「そうだな・・・昨日きのうのようなあやかしが、また、んともかぎらん」

「ですが、あのようなことはじめてです」

「うん、うん」

 うなずく、ゆい

「あのようなこととは、なんだ?」

「だから、あんな化物ばけものるなんてびっくりだよ!」

なんと、こっちでは、あのようなあやかしはないともうすのか!?」

たら、テレビで大騒おおさわぎだよ」

「それにこわくて、だれそとなくてなります」

 晴明せいめい過去かこにおいては、しばしばれいあやかしなどが、横行闊歩おうこうかっぽするであったのだ。

「うーむ、どういうことだ。姉上あねうえ四人よにん巫女みここと気掛きがかりであるが・・・」



  ブツブツ・・・



 ひとことのように、晴明せいめいは、かんがはじめた。

「・・・晴明せいめい晴明せいめいってば、いてるの!?」

 こえてないのか、ゆいは、テーブルをたたく。



  バンッ バンッ!



「うおっ、どうしたのだ?」

「もお、これからどうするかっていてるの!?」

「すまぬ、ついかんがごとをしていた。そうだったな、このまま四神しじんを・・・おまえさんたちからだあずかってもらってだ。なにか、あったときは、たすけになるわけだが・・・また、昨日きのうとようなあやかしと、たたかことになるやもしれん」

 そのちいさなからだは、晴明せいめいにとって、なにかと不便ふべんであった。ゆいあおいり、もしものときは、四神しじんちからりる。晴明せいめいは、そうかんがえていた。

わたしいいよ」

わたしは・・・」

 ふた返事へんじ承知しょうちするゆいだが、あおいは、まよっていた。昨日きのうことこたえているのか、それをさっして、晴明せいめいう。

にせんでもよい、おまえさんたちには、おまえさんたちらしがある。これは・・・わしの問題もんだいであって、おまえさんたちにはかかわりなきこと」

「そうだよね、また、あんな化物ばけものおそわれたら・・・やだもんね」

正直しょうじき、それはあります・・・」

 晴明せいめい青龍せいりゅう協力きょうりょくしたいと、あおいおもっていた。しかし、今回こんかいいのちたすかったが、んでいたかもれない。そして昨日きのう今日きょうではあるが、ゆいたいしては、友達以上ともだちいじょうきずなかんじてまよっていた。

「すぐにといかんが、うちなる四神しじんくには、いろいろと用意よういる。それまでってくれ」

 儀式ぎしき準備じゅんびととのあいだ晴明せいめいは、二人ふたりかんがえる時間じかんあたえた。

なにかあったら、電話でんわでもメールでもいいから連絡れんらくしてね」

「ごめんなさい、たすけてもらったのに、自分じぶんことばかりかんがえて・・・」

「そんなのにしなくていいよ、わたしあおいちゃんにたすけてもらったんだし。なんか、もう友達ともだち・・・だよね、れるけど」

「そんなことないです、友達ともだちです」

 そう言葉ことばにして、笑顔えがおになる二人ふたり



  ニコ



「またね、あおいちゃん」

「またね、ゆいちゃん」

 おうむがえしにわすと、二人ふたり家路いえじへとかう。



  トコ トコ トコ



 しばらくしてポケットから、かお晴明せいめい



  ヒョコ



「いいのか、わしとかかわれば・・・いのちすらあやういかもしれん。見離みはなしたとてうらみはせん、ぎゃく感謝かんしゃしておる。とくに・・・ロウルケエキとやらは格別かくべつじゃ」

「だったらたらいいよ、またロールケーキってるから」

「まことか!?い、いや、そんな高望たかのぞみしは・・・それにたかくつくであろう」

「それなら大丈夫だいじょうぶだよ、わたしのお小遣こづかいでえる値段ねだんだしね。ほかにアイスとかプリンとか、晴明せいめいべたことのないもの、まだまだたくさんあるよ」

「アイス・・・プリンとな、いただけでも美味うまそうじゃ」

「でしょ、それにほんとは、おねえさんにいたくて、ここまでたんでしょ」

「なぜ、そうおもう?」

「だって、おねえさんのはなしをしてるときって、とてもたのしそうにしてたからさ」

「けど、白虎びゃっこはなしときほうが、もっとたのしそうだったけどね」

「あれはちがう、おこっとるんじゃ!あやつは、いつもいつも悪戯いたずらぎるんじゃ!」

「ほらー、いまも、たのしそうにしゃべってるんだもん」

「だからちがうとっておる!」

「ほら、またあ」

 からかいかまゆいおもんぱかり、本当ほんとうるべきだと、晴明せいめい理解りかいしていた。しかしれ千年せんねんときながれは、晴明せいめい想像そうぞうえるもわであった。

「(このままあまえていものか・・・)」



 そのよる、すでにベッドでねむっていたあおいは、ふとました。

「・・・!」

 そしてづく、これはゆめであると、そこははじめて青龍せいりゅうった河川敷かせんじきで、あおいは、部屋着へやぎのままっていたからだ。



  グルリ・・・



 まわりをるとおもったより、現実的げんじつてきかんじることに戸惑とまどあおい

「・・・・・・」



  クル



 そのこえかえると、そこにたのは、制服せいふく自分じぶんだった。ているふくこそちがえど、瓜二うりふたつ。でもあおいは、かんづいたのである。

青龍せいりゅうさん!?」

たり」

 それは青龍せいりゅうったときに、かんづいたものとつうじるものだった。

「ここは、どこなのでしょうか?」

「そうね、簡単かんたんえばゆめなかかな。本物ほんもののあなたは、ベッドでているわ」

 青龍せいりゅうゆめわれたあおいだったが、自分じぶんは、いまここにっている意識いしきがある。

「あの・・・どうしてわたしは、ここにばれたのでしょうか?」

「あらはなしはやいわね、本音ほんねえば、晴明せいめいゆいってちからになってくれたほうがいい。わたしも・・・あなたにたよらないとちから発揮はっきできないしね」

「そうですよね、たすけてもらって・・・なにかえさないのは卑怯ひきょうですよね」

「けどってもないのに、義理立ぎりだてなんかしなくてもかまわないのよ」

「ですが・・・」

「ただえるのは、どちらをえらんだとしても、あなた後悔こうかいするわ・・・かならずずね」

「・・・」

 表情ひょうじょうさなかったが、あおいは、見透みすかされたおもいであった。

「ふふ、ことわっておくけど、神的かみてきちからなんかじゃないわよ。あなたのからだりたときに、記憶きおく感情かんじょうつたわってくるの、全部ぜんぶってわけじゃないけどね」

「そうでしたか・・・」

わたしなら、あなたより、あなたのからだ使つかって、あなたがのぞ以上いじょう結果けっかすことが出来できる。けど、それはわたし・・・青龍せいりゅうであって、あなたではない。それを、あなたはのぞまないでしょ」

当然とうぜんです」

「いい返事へんじね、それきらいじゃないわ。でも、これはあなたがめることよ」

わたしは・・・どうすればいいのでしょうか?」

「あら、わたしめてほしいの?」

「そううわけではなく、ただアドバイス・・・助言じょげんをもらえるならとおもいまして」

「そうね、とりあえず・・・玄武げんぶ朱雀すざくつかるまで、というのはどうかしら」

のこりの神様かみさまを・・・ですか?」

「そう、四神しじんそろえば晴明せいめいたすかるだろうし、ゆいってあぶないこともなくなる。そうなれば、もうあなたたちりる必要ひつようもないわ」

 まよいがれたわけではないが、あおいなかで、ひとつのこたえがた。

「・・・めました、晴明せいめいさんや、ゆいちゃんのちからになりたいと思います」

本当ほんとうに、それでいいの?」

「はい」

「わかった、ありがとうね、れいうわ。さあ、じて・・・」

 あおいは、じた。



  クス



 一瞬いっしゅん意識いしき途切とぎれ、ますあおい

「ここは・・・」

 ベッドのうえだった。半身はんしんこすと、まだよる。ベッドからると、つくえいてあるスマホをった。



  ピ



「・・・」

 寝始ねはじめてから、時間じかんは、それほどっていない。キッチンかい、冷蔵庫れいぞうことびらけるあおい



  カチャ



 ミネラルウォーターをり、キャップをけ、一気いっきくちながむ。



  ゴク ゴク ゴクンッ



 それから二日ふつかぎ、五日いつかぎようとしたよる。が、スマホをつと、ベッドにこしけたりったり──



  ソワ ソワ・・・



 ──とかない。

「どうしよう」

あおいとは、河川敷かせんじき以来いらい連絡れんらくっておらずやきもきしていた。その様子ようす見兼みかね、晴明せいめいべる。

になるならけばよかろう」

「そんなことったって、どうけばいいのかわかんないよ」

「わからんのう、便利べんり道具どうぐがあって、とおはなれてもはなし出来できるというのに」

「タイミングってものがあるのっ!」

 そんなゆい不思議ふしぎおもうも、晴明せいめい不思議ふしぎかんる。



  カリ カリカリッ

  カリカリカリッ・・・



「かあっ、なぜじゃ!?これほどにまらん」

ひとなやんでるのに、なにやってんのよ!」

 菓子袋かしぶくろあたまみ、むさぼ晴明せいめい横目よこめに、スマホをけていたときだった。



  ♪♫♪ ♫♪



あおいちゃんからだ!」

 それはちにった、あおいからのメール。

返事へんじおそくなってごめんなさい。のこりの神様かみさまを、さがすのを一緒いっしょ手伝てつだいます。だって・・・」

「ほほう、めずらしいのう。わざわざのぞんでるとは・・・」

「もしかしてあおいちゃんとは、あんまりこと無理むりかなっておもってたけど・・・よかった」

 あおい様子ようすからして、ことわってくるとみてたゆい晴明せいめい

「(もしや青龍せいりゅうか・・・あざといやつじゃ)」



  ♪♫♪ ♫♪



 また、あおいからのメールがとどいた。

「P・S、来週らいしゅう日曜にちように、やま神社じんじゃのおまつりがあります。一緒いっしょきませんか?おまつり!?きたあい!」

まつり!?くぞ、わしも!」

「やだよ、どうせ出店でみせもの目当めあてなんでしょ」

出店でみせものとな・・・それはたのしみじゃ」

 べるたのしみがえ、いきおいをして菓子かしべる。



  カリカリッ カリカリカリッ・・・ 



 こちらの時代じだいてからというもの、B級グルメに菓子かしにジュースにと目覚めざめ。四神しじんについては、なん情報じょうほう手掛てがかりもなく、晴明せいめいべてばかりだった。



 数日後すうじつご──

 まつ当日とうじつひるあわただしく出掛でかける準備じゅんびをするゆい



  ドタ バタ



晴明せいめい、わかってるとおもうけどさわぎをこさないでよね」

 晴明せいめいことかんがえて、ゆいあおいは、昼過ひるすぎのあかるいうちにこうとめていたのだ。

「わかっておる、ほかものに、わしのことえんから心配しんぱいせんでも大丈夫だいじょうぶじゃよ」

「そうだといいけど」



  ニヤー



「おまえさんは留守番るすばんじゃ」



  ナデ ナデ



「うーん・・・」

 ついているのかしたがわせているのか、ゆいにはわからず。ゆいあおいにはえて、ねこのヒヤヤッコにもえている。



  トタ トタ



「あら、もう出掛でかけるの?」

 と、母親ははおやが、部屋へやはいってた。

「うん、そうだよ」

 だが母親ははおやには、晴明せいめいえていない。

「ヒヤヤッコ、おひるはんたべようね」



  ニャー



 用事ようじをすると、ヒヤヤッコをいて、母親ははおや部屋へやく。



  トタ トタ



 ゆいも、バスの時間じかんわしてようとする。

「もうくよ!」

「そうあわてなさんな、何事なにごとも・・・ゆとりが肝要かんようじゃよ」



  パサ パサ・・・



 ベッドのうえで、晴明せいめいは、ゆるりと身形みなりととのえている。

「ゆとりもなにも、バスの時間じかんてないの!」



  ズボンッ



 晴明せいめいつかむと、ゆいは、肩掛かたかかばんんだ。」

なにをするのだっ!?」

 こえさわ晴明せいめいを、ゆい無視むしして、玄関げんかんしてく。



  タタタッ・・・



 小走こばしりで住宅街じゅうたくがいけ、大通おおどおりにるとバスていえてくる。バスていでは、すでにあおいっていた。

あおいちゃん!ごめん、おくれたかな」

大丈夫だいじょうぶです」「よかった」



  ガババッ



「よくないっ!」

 かばんからかおして、晴明せいめいはなった。

かばんからちゃ駄目だめって、ったのに」

「あれほどに大丈夫だいじょうぶと、ってるはずじゃ。この時代じだいものは、いそいそとみやびやかさや風流ふうりゅうがない。わしら・・・ちゃたしなむのに、半日はんにちはかけるぞ」

 と、晴明せいめいは、ほこらしげなかおをする。

何言なにいってんの、カップめんそそぐだけで、すぐにべられるとはって感激かんげきしてたのって、とこのだれ?」

「うっ、それとこれとは・・・べつじゃ」

 そんなめのないはなしをしていると、あおいづく。

「バスがました!」

「じっとしててよね」

 くぎすが、はじめてるバスに興奮こうふんおさえきれない晴明せいめい

「ほうほう、これはおおきい駕籠かごじゃ!」



  キィィィ プシューッ



 バスにむと、ゆいあおい二人ふたりは、となわせの座席ざせきすわる。晴明せいめいはというといている座席ざせき天辺てっぺんへとうつり、車窓しゃそうからながれゆく景色けしきながめる。



  ブオオオー



「ほおー、はやいのう!」

本当ほんとうすごすぎです、ほか乗客じょうきゃくみたさんは、晴明せいめいさんにづいてはおりません。流石さすが天才陰陽師てんさいおんみょうじ、とうたわれただけのことはあります」

 あらためて安倍晴明あべのせいめいという人物じんぶつに、あおい感服かんぷくする。

「そうかなあ・・・ヒヤヤッコのご飯食はんたべてよろこんでいるいしんぼうな、おじいちゃんにしかえないよ」

「ですが数々かずかず逸話いつわもあり、それだけ努力どりょくもなさったとおもいます」

 いまのところ、ゆい目通めどおりであるが、そのじつ裏打うらうちされた知識ちしき経験けいけん日々ひび精進しょうじん賜物たまものだった。二人ふたり談笑だんしょうにひたっていると、バスは目的もくてき場所ばしょ到着とうちゃくする。



  プシュー ブオオオオーン



 そこはまつりのある神社じんじゃやまふもとのバスてい

ひと・・・すくないね」

 まだ、昼下ひるさがりというもあり、まつりにひとはまばらだった。まち一望いちぼうする由緒ゆいしょある神社じんじゃであるが、まち中心部ちゅうしんぶからはなれ、交通こうつう便べんわるく、近年きんねん人足ひとあしとおのくばかりである。

はやくせんかっ、出店でみせものが、わしをんでおるぞ!」

 かばんからし、号令ごうれいける。まだ神社じんじゃ辿たどいてもいないのに、晴明せいめいちきれないようだ。

「お金出かねだすのは、わたしなんだからね」

 そんな晴明そいめい不安ふあんかんじつつ、神社じんじゃつづみちあるく。



  トコ トコ トコ



 そうして階段かいだんのぼったさき──



  ピー ピーヒャラ

  トン トトン



 ──まつばやしり、参道さんどうならはなやぐ。



  ワイ ワイ

  ガヤ ガヤ



ひさり・・・ここのおまつり!」

わたしもです、ちいさいころ、おまつりがあるたびにははてました!」

 ここにるまで、ひととあまりすれちがうことはなかった。しかし、そこはまつり、かなりにぎわいをせていた。



  ジュー ジュジューッ

  カシャ カシャン


  きそば できたてだよっ!



美味うまそうなにおいじゃ!」

本当ほんとうに・・・美味おいしそうです!」

「あっちはきとうもろこし!」



  ジュワ ジュワー



べたいぞ!」

 あちらこちらから、できたてきたてのおとかおりがする。それはべたい気持きもちを、おおいに刺激しげきするものだった。

「まだだよ、ちゃんと御参おまいりしてからじゃないと」

 さき参拝さんぱいしてから、出店でみせまわろうとゆいはしていた。

なに呑気のんきなこともうしておるのだ。はやくせんとわしのぶんがなくなるではないかっ!」

「それは大丈夫だいじょうぶです、御参おまいりしてからでもおそくはありません」

御参おまいり?そのような面倒めんどうことせんでも・・・ばちたりはせぬよ」

 挙句あげくには、こんなこと晴明せいめいに、ゆいあおいおもった。



  そんなこと安倍晴明あべのせいめいが、っちゃ駄目だめでしょ



「でも・・・ねえ」

「ええ」

 二人ふたりは、かお見合みあう。結局けっきょく晴明せいめいべたいとしがるものい、ついには両手りょうて一杯いっぱい荷物にもつゆい



  ガッサ ゴッサ



「もう、やだよ、どれだけべるつもりなの・・・」

大変たいへん・・・ですね」

 それには、あおい苦笑にがわらい。



  ヒョイ ヒョヒョイッ



 そうなげゆいかたうつると、晴明せいめい耳元みみもとう。

「なあに?そこらへんべてるから・・・まつりをたのしんでい。だって、どうするあおいちゃん?」

「そうわれましても・・

 きゅう晴明せいめいわれ、どうしょうかとかんがえる二人ふたり。どこか目立めだたない場所ばしょさがして、まわりをゆい。」



  キョロ キョロ・・・



「そこらへんわれても・・・こまるんだけど」

たしか・・そうです!ちかくにちいさな御堂おどうがありました!」

 出店でみせなら参道さんどうはずれに、小道こみちがあったのをおもす。二人ふたりは、記憶きおく辿たどりながら、御堂おどうつうじる小道こみちる。



  トコ トコ トコ・・・



 しばらくあるくと、そのさきけた場所ばしょがあり、ちいさな御堂おどうがあった。

「あれだよね!」

「これです!」

 物置ものお小屋ごやのような建物たてもので、ちいさな階段かいだんいている。その建物たてものかこむように板敷いたじきの縁側えんがわがあった。



  ドサ ドサンッ



 縁側えんがわ荷物にもつくと、晴明せいめいうつる。



  ヒョイッ



「ほんとに一人ひとり大丈夫だいじょうぶなの?」

心配しんぱいいらん、それより全部出ぜんぶだしてならべてくれんか」



  ドン ドンドンッ

  ドドドーーーン!



 ふくろからしてならべてると、あきらかに晴明せいめい数倍すうばいはある大量たいりょうもの

「もうってもかまわんぞ」

 はやべたくて、うずうずしている晴明せいめいには、ものしかうつってないようだ。

あおいちゃん、こうか」

きましょうか」

 不安ふあんのこるもののまつりをたのしもうと、ゆいあおいは、小道こみちもどる。御参おまいりをすませ、二人ふたり出店でみせめぐあるく。



  トタ トタ トタ



「うわっ、なつかしい!」

わたしも、これやりました!」

 定番ていばん射的しゃてきに、ゆみとダーツに輪投わなげ。わったものでいえば、ドラムかんほどのバケツの水底みずそこ小瓶こびんならべ、その小瓶こびんくちねらって、御弾おはじきをとしれる。

「いけいけっ!」



  ユラ ユラ ユラ



「ああっ、あとちょっとでしたのに!」

 アナログなあそびがたくさんあり、それをたのしむ二人ふたり。それから一時間いちじかんほどべたりして、たのしんでいるゆいだが、どこかうわそら



  ボー・・・



ゆいちゃん、そろそろもどりませんか?」

「え、でも・・・」

晴明せいめいさんも、あのちいさなからだ一人ひとりだとこまっているかもれません。それに、またもどってて、こんどは三人さんにんたのしめばいいんです」

「うん、そうだよね」

 そうして二人ふたりは、晴明せいめい御堂おどうもどることにした。

 それよりすこまえ──

 晴明せいめい出店でみせったものを、次々つぎつぎたいらげていた。



  パク ジュワ・・・



なんと!?この綿わたあまい!」

 くちなかで、あまける綿飴わたあめ感動かんどうする。

「よく、そんなにべれるわね。そのちいっちゃなからだで」

 突然とつぜんこえけられた晴明せいめい

だれじゃ!?」

 いくらものられていたとはいえ、ひと気配けはいづかず、さらに姿すがた見抜みぬかされことにおどろく。



 一方いっぽうゆいあおいは、御堂おどうかう小道こみちあるいていた。



  ザ ザ ザ ピタ



 御堂おどうえてくる手前てまえで、ゆいあしまった。

ゆいちゃん?」

 理由りゆうは、すぐにわかることだった。

「あのは・・・だれでしょう?」

 御堂おどうに、晴明せいめいとなりおんなることにづく。

「・・・だれだろう?」

いなのでしょうか?」

 御堂おどうちかづくことができず、しげみからのぞ二人ふたり



  ジィーー・・・



うわさをすれば・・・このことは秘密ひみつよ、わかってるわね」

「わかっておる」

 ゆいあおいづき、おんな手招てまねきする。



  クイ クイ



「どうしよう」

「これは・・・くしかないです」

 覚悟かくごめ、二人ふたり御堂おどうかってあるいてく。



  ザザ ザザ



 御堂おどうまえまでると、おんなこしけた縁側えんがわからりる。



  スタッ



「あのー・・・」

 おそおそゆいこえけると、おんな名乗なのる。

わたしは、明神みょうじん ちづる。玄武げんぶ巫女みこよ」

「そうなんだ・・・って、玄武げんぶ巫女みこ!?」

私達わたしたちおなじ、四神しじん巫女みこなのですか!?」

「そうよ」

「えええっ!」


さらりとったことに、ゆいおどろく。そして自分達じぶんたち四神しじん巫女みこであると、自己紹介じこしょうかいするなか、晴明せいめいだまったままでいる。

わたしあおいちゃんは、中学ちゅうがく二年にねんだけど、あなたは小学しょうがく・・・」

おなじよ」

 ゆい言葉ことばさえぎった。

おなじ?」

わたし二年にねん

「うっそー!?」

 身長しんちょうからして、ゆい小学生しょうがくせいだとおもんでいたのだ。

「これだからこまるのよ、この時代じだいものは・・・」

わたしも、そうおもってました」

 ゆいおなじように、あおいおもっていた。ふと、ある言葉ことばかるゆい

「この時代じだい?」

「ごほっ、ごほんっ!さあ、よかったではないか、玄武げんぶつかりよろこばしいことだ!」

 きゅう咳払せきばらいをして、指摘してきされぬよう晴明せいめいは、誤魔化ごまかそうとする。

「ほんとだね、のこるは一人ひとり!」

「これなら意外いがいはやくに、朱雀すざく巫女みこつかりそうです!」

 ろうせず玄武げんぶ出会であったことに、ゆいあおいよろこび、その言葉ことばまったづく素振そぶりはない。

朱雀すざく巫女みこならってるわよ」

 ぽつりとい、さりないかおをつきで、ちづるはリンゴあめ頬張ほおばる。



  パク



「えええっ!」

 ちづるの告白こくはくに、あおいおどろきのこえげ、このあとまつりをたのしむどころではなくなってしまった。けばちづるは、まつりがある神社じんじゃであるとう。朱雀すざく巫女みこについては、あらためてもうけると約束やくそくした。そしてかえさいにちづるから、出店でみせものをもらい、晴明せいめいおおいによろこんだ。しかし、かえりのバスのなかでは、そと景色けしきているようでてないような、晴明せいめい物思ものおもいにふける。



  ブオオーッ



「そなたは・・・」

ってるでしょ、それともわすれた?」

 そのものこえ姿すがたに、晴明せいめい脳裏のうりわか記憶きおくおもかえされる。

「ちづるとばれるこのものは、かつて巨大きょだいもんとおって旅立たびだった、四人よにん巫女みこのうちの一人ひとりであったのだ。」

姉上あねうえ姉上あねうえは、いまどこにるのだ!?」

「そうくるとおもった、残念ざんねんだけどわからないわ。私達わたしたちもんときには、麒麟様きりんさまなかったから」

「そうなのか・・・」

「それに・・・それどころじゃなかったのよね」

なにがあったというのじゃ?」

もんると・・・なぞ集団しゅうだんおそわれたのよ」

なぞ集団しゅうだん?」

「そう・・・あの、あの場所ばしょ、あのときってせていたみたい」

もんあらわれるのを、あらかじめっておったと・・・青龍せいりゅうおなことってたよえだが・・・」

「そうじゃないと可笑おかしなことでしょ」

馬鹿ばかな・・・わしがもんことったのはのちのこと。そのことについては、だれにもはなしとらん。それにあのもんさきは、わしですららなかったのだぞ!」

余計よけいことかもれないけど、麒麟様きりんさまってたみたい」

っていたというのか、姉上あねうえは・・・」

「そんなことより、予想外よそうがいだったのは白虎びやっこ青龍せいりゅうが、この時代じだいあらたたな巫女みこむかえれるなんておどろき」

ゆいあおいことっているのだな、ではくが、ほか巫女みこものはどうしている?」

きているわ、いまはね、それしかえない」

「それははなせないのか、それともはなしたくないのか、どちらだ?」

「それもはなせない」



 はなしからして、ちづるにはかくごとがある。それをけない以上いじょうは、どうしようもないことに、晴明せいめい歯痒はがゆおもうのだった。

















 








 


 













 











 



 




  




















 






  






 




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