第8話 風雲急を告げる

「ねえねえ、のっぺらぼうって捕まったんだって。朝の瓦版に載っていたわよ。」

「きっと私たちが口から泡を吹いて気絶した姿にビビったのよ。」

「ということは、私たちがのっぺらぼうを捕まえたってことね。」

「その通りでござる! これで少年少女剣客隊は三戦三勝でござる! ワッハッハー!」

「家々! おまえが笑うな! 殺すぞ!」

「なんかムカつく! 大砲をぶち込むわよ!」

「お腹空いた。」

「どうしてそうなる!? 僕たちは同じ少年少女剣客隊の仲間じゃないか!?」

「静かにしなさい!」

 いつものように寺子屋の家々たちの話から始まり、騒いでいると桜先生が教室に現れる。

「そして、さようなら。」

「桜先生。たまには授業しますか?」

「え? ええー!? やめてよ!? いつものように終わりの挨拶だけと思ったから、授業の用意なんかしてないわよ!?」

「じゃあ、やっぱり帰ろう。桜先生、さようなら。」

「みんな! さっさと帰りなさい!」 

 こうして家々たちは寺子屋から授業を終えて帰って行った。


「この物語って、私たちが主役よね? なんか私たちって、ショートカットが多くない? それに主役の私たちよりも、サブキャラの説明が多いことに疑問があるんだけど。」

「それを言っちゃあおしまいよ。どうせ私たちの人生なんて、飾りなんだから。」

「桜お姉ちゃんが大活躍過ぎて、楓の出番もないよ。」

「待つでござる! 一番文句を言いたいのは僕でござる! 徳川第十六代将軍、徳川家々という題名で始まったのに、僕の出番が一番少ないとは何事だ!? これではご先祖様に顔向けできないではないか!?」

 そう、本来は家々たちが江戸城に侵入して、由緒正しき歴代の先祖を祀っている石碑を蹴り倒して、先祖の徳川十五将軍の悪霊たちが目覚めるというストーリー展開の予定であった。

「なんと哀れな家々様だ!?」

「若!? ここは耐えるんです!?」

「きっと陽が当たる時がきますって!?」

 ストーリーがズレた原因は家々を陰から支える黒子達の性である。予定外の登場で意外に面白かったので、キャラ化してしまったのが脱線の始まりであった。

「あ、お父さん。」

「おかえり、ペリー。みんなも、いつも娘と遊んでくれてありがとう。」

「こんにちわ。」

 ペリーの父親の教会の神父のザビエルである。

「お紅茶とクッキーを御馳走になってもいいですか!」

「いいよ。なんなら西洋のカステラもあるけど、楓ちゃん、食べるかい?」

「いいんですか!? 悪いですね。まるでお願いしたみたいで。」

「いいんだよ。いつも教会に来る子供たちにお菓子をあげているからね。」

「私も入教します! だから、毎日おやつを下さい!」

「はっはっは。いいよ。」

 よだれを垂らしながら、毎日のおやつを夢見る楓であった。

「まずい!? このままでは、また僕の悪い妖怪を倒すというストーリーが進まない!?」

「家々くんも紅茶とカステラを食べていくかい?」

「いただきます!」

 子供の家々の決意など、砂場の城の様に簡単に崩れ去った。家々たちは教会にティータイムに消えていった。

「家々様!? 徳川家再興の夢はどこへ!?」

「怒りを抑えて下さい!? 黒子頭様!?」

「ええ~い!? 離せ!?」

「所詮、若は、まだまだ子供です。」

 家々に呆れる黒子達であった。しかし、ドヨーンと教会の上空に暗雲が渦巻き始める。

「黒子頭。」

「はあ!? この声は!? 殿!? 徳川家康様だ!?」

 なんと黒子頭は、初代徳川家将軍、徳川家康公の頃に生きていた。ということは、黒子頭は死人で霊体である。全身黒タイツの下は、ガイコツと予想される。

「我々は、第二話で石碑を倒されてから、ずっと上空で待機しているのだが、いつまで待てばよいのだ?」

「申し訳ありません!? 殿!? 次話で家々様の枕元にご登場ください!?」

「そういうことなら許してやろう。だが、これ以上は待てないぞ。」

「はあはあ!」

 暗雲は去り、晴天の江戸の空が戻ってきた。

「カステラは美味しいな! ワッハッハー!」

 家々は、先祖たちの魂が現世に甦ったとは思いもしていなかった。

 つづく。

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