第6話 提灯の次は傘

「ねえねえ、提灯のお化けさん、退治されたんだって。」

「きっと私たちの驚き顔に驚いて、提灯のお化けを心臓が止まったのよ。」

「じゃあ、提灯のお化けを倒したのは、私たちってこと?」

「そうでござる! 少年少女剣客隊の初出動! 初勝利でござる!」

「それにしても、ちい。あなたは、そういう情報はどこで仕入れてくるの?」

「お兄ちゃんが岡っ引きじゃなくて、警察で働いているの。」

「これで私たちの保護者の職業も決まったね。一安心だわ。」

「いいのう。おまえたちには家族がいて、僕は孤独な一人暮らしだ。」

 ちいの兄ライは警察官。ペリーの父親のザビエルは教会の神父。楓の義理の兄の蛍は電気屋。家々の黒子たちは、あくまでも影の存在なので、家族ではなかった。

「はい! みなさん! 席につきなさい!」

 そこに寺子屋の桜先生がやってくる。

「そして、さようなら!」

「桜先生、さようなら!」

「みんな、気をつけて帰るのよ!」

「は~い!」

 子供たちは授業が終わったので寺子屋から帰って行く。その様子を複雑な心境で見つめる桜先生であった。


「寺子屋で子供たちが勉強する場面が増えないと、私の出番がないじゃないですか!? がんばって教師になったのにあんまりだ!? 何が少年少女剣客隊だ!? 教師の私の立場になってみろ!? ヒック!? ウイッー!?」

 夜の居酒屋。寺子屋の女教師の桜先生はお酒をたくさん飲んで酔っ払っていた。

「まあまあ、桜ちゃん、そんなに愚痴らないで。私なんか第6話で、やっと初登場なんだから。」

「おみっちゃん!? 私の孤独を分かってくれるのは、おみっちゃんだけだわ!? ウエエエ~ン!?」

「ギャアアア!? くっつくな!?」

 居酒屋でアルバイトで働く桜先生の幽霊友達の癒し女のおみっちゃん。特技は、耳かきである。包帯も巻ける優れた幽霊である。

「ちょっと、おみっちゃん。さんま定食できたよ。運んでもらわないと困るんだけど。」

「すいません。女将さん。友達が酔いつぶれてまして。」

「お給金、下げるよ。」

「さんま定食ですね! 直ぐに運びます!」

 居酒屋の女将の妖怪ろくろ首。人間と妖怪が共存して働く街、それが江戸であり、東京である。

「私たちだって、人間を驚かして、落ちた小銭だけで生きていける時代じゃないんだからね。がんばって仕事してお金を稼がないと生きていけないんだからね。」

「は~い。」

「あんたの幽友の女の先生も寺子屋では困ってるんだよ。飲ましてやりなよ。幽霊だから内臓を悪くすることもないし、うちは儲かる!」

「女将さんは、そういう人ですよね。」

「先生、上玉だね。幽霊専門の遊郭に売り飛ばそうか?」

「やめて下さい!?」

「惜しいね。高く売れるのに。」

 ろくろ首の女将さんは銭の亡者、守銭奴である。

「あれ? 提灯のお化け、どうしたのさ? 提灯に穴なんか空けちゃって。」

「知るか!? 子供を驚かして気絶させて喜んでいたら、どこからか弾が飛んできて撃ち抜かれたんだよ!?」

「物騒な世の中だね。」

 妖怪が子供を驚かすのも、鉄砲の銃弾が飛んでくるのも、同じ位、物騒な世の中である。

「助けてくれ!? 殺される!?」

 そこに傘に切り傷を負った唐傘お化けが現れた。

「どうしたんだ!? 唐傘お化け!?」

「子供たちを驚かして遊んでいたら、いきなり男が現れて、「いつ蛍が光るか知っていますか?」って、カッコつけて聞くんだぜ? 「知るか!?」って答えると、「蛍は悲しい時に光るんだ!」って、男の刀が青く光り出し、凄まじい光を放ちながら斬りかかって来たんだ!? あれは妖刀だ!? 間違いない!?」

 ピクっと酔いつぶれている桜の耳が反応する。

「それは私の亭主です。帰らなくっちゃ。愛する亭主が待っている。ヒクッ。」

「居酒屋で愛を確かめられてもね。おみっちゃん、黒子の幽霊宅配便を呼んできておくれ。」

「は~い。女将さん。」

 酔いつぶれても一人勝ちの幸せそうな桜先生であった。

 つづく。

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