第2話 徳川の亡霊

「ここを進むでござる。」

 第16代将軍のはずだった徳川家々の案内で江戸城に行くことになった、ちい、ペリー、楓の三人。しかし江戸城に入る道は、汚くて暗い水路の細道からであった。

「水路!? こんな所に江戸城に続く隠し通路があったなんて!?」

「気持ち悪い!? もっとましな道はないの!? しかも暗いし!?」

「楓、明かりを持ってるよ。」

 楓は懐から小さな明かりを出す。明かりの正体は、蛍だった。無数の蛍が飛び出し、暗い水路を照らす。

「むむむ!? お主、なかなか、やるな!?」

「楓だよ。やったー! 褒められた!」

 無邪気に褒められて喜ぶ楓。

「楓、すごい!」

「どうして楓は、明かりを持っているの?」

「うちは電気屋さんなの。桜お姉ちゃんが蛍ちゃんと結婚して、義理の兄の蛍ちゃんが蛍の電気屋さんを始めたの。だから楓は、蛍を持っているの。」

 実は、蛍の家は蛍電気でガッチリ儲かっている。

「桜先生の旦那さんか。いいな。私も素敵な男と結婚したい。」

「蛍ちゃんは、蛍の集合体だよ。」

「桜先生も、やまとなでしこって感じよね。」

「桜お姉ちゃんは、死んでるから幽霊だよ。」

「キャッハッハ!」

「楓、おもしろい! 冗談ばかり!」

「本当だよ! 楓、嘘つかないもん!」

「おまえたち! せっかく第16代将軍徳川家々直々に、江戸城を案内してやると言っているのだ! 早くついて来い!」

 家々は、ちい、ペリー、楓のガールズトークが盛り上がり、江戸城潜入ツアーが進まないことにイライラしていた。家々は自分のことを偉いと思っているので、物語が自分中心で進まないことにイライラする。

「口の利き方に気をつけろ! 殺すぞ!」

「はい。江戸城の中を見たいです!」

「お腹空いた。お城で伊勢海老が待っている!」

 文句を言いながらも家々の後をついていく、ちい、ペリー、楓。


「これが江戸城だ!」

 水路の細い道から地上に出てきた家々たち。

「なんだか殺風景ね。気持ち悪い。」

「なんだか、これが日本の城だ! っていうより、お化け屋敷みたい。」

「帰ろう。こんな所に美味しい食べ物は無いよ。」

 誰にも使われていない江戸城は荒れ果てていた。見た目が崩れているというよりは、薄気味悪さから、妖怪や怨霊が出てきそうな、霊気が溢れていた。

「うおおおー!? なんということだ! 徳川家の由緒正しき江戸城が、こんな有様になるなんて!? なんとご先祖様にお詫びすればいいのやら!? お許しください!? ご先祖様!?」

 家々は、荒れ果てた江戸城を見て、荒れ狂って叫んでいる。

「こんな所にデッカイお墓がある?」

「邪魔ね。みんなで蹴り倒しましょう!」

「せーのっ! 腹減った!」

 ドカーンっと大きな音を立てて、ちい、ペリー、楓の三人は墓石を蹴り倒した。

「うわあああー!? なんということを!? それはご先祖様たちが祀られている大切なお墓だぞ!? なんと罰当たりな!?」

「帰ろう。面白くない。」

「ガッカリです。もっと日本のお城は美しいと思いました。」

「お腹空いた。お家へ帰ろう。ご飯が待っている。」

「こら!? おまえたち!? ご先祖様の祟りが怖くないのか!?」

「ちい、怖くないよ。だって、悪い奴はお兄ちゃんが殺してくれるから。」

「私のお父さんは宣教師です。神のご加護があります。アーメン。」

「蛍ちゃん妖刀使いで、かなり強いよ。お腹空いた。」

「なんという罰当たりな者たちだ。」

「じゃあ、家々。あなただけ残れば?」

「バイバイ。」

「さようなら。」

「待ってー! 僕も帰るでござる。」 

 こうして初めての江戸城見学を終えた、家々たちであった。

「いやー、無事で良かった。」

「まったく困った家々様たちだ。」

 黒子達も江戸城を後にする。

「だ・・・誰だ・・・私の眠りを妨げた者は?」

 徳川家の先祖を祀る墓石が倒されて、徳川の先祖たちの霊が長い眠りから目を覚ます。そして江戸の街に怪奇現象が起こり始める。

 つづく。

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