第二節 見捨てられた者達

オープニングムービー

 一人の少女が大勢の騎士達の前に居る。

 そしてその場にて跪き祈りを捧げていた。

「我が主よ!我に異教徒たる蛮族を浄化する力をお与えください!」

 そう言葉を紡ぎながら、胸元に光る赤色の宝珠へと手を伸ばす。

 次の瞬間その宝珠を起点として赤紫色の光が広がっていく。

 周囲にいる騎士達からは、感嘆の声が漏れ聞こえてくる。


「あれが神の力」「素晴らしいあれこそが神に魅入られしプレイヤーの力」


 様々な声を後ろに聞きつつも、祈りを捧げた彼女は自身の周囲に纏ったセキシ光赤紫の光に包まれて恍惚の表情を浮かべていた。

 その顔は先ほど神に祈りを捧げていた者とは思えない程の、とても煽情的なものであった。

 見た目少女と言っていい程の容姿からは想像も出来ない蠱惑的な表情。

 そして、自らの祈りの結果によって起こされたセキシ光の隆起現象に満足した彼女は、後ろを振り返ることなく声を張り上げる。

 「これより、我が主の名に於いて、このメアリ・ネルケが蛮族たる異教徒達の浄化を行います!皆の者!しかと神の奇跡をその眼に刻むのです!」

 本来であれば届くことが叶うような距離では無い、離れていた後方の騎士達の下まで届いた声。これはメアリが自らのセキシを利用して後方まで音を届けた結果だ。

 そして、次の瞬間メアリはふわりと宙に舞い踊ると、両の足に装備した一対二本の板で以って上へ上へと滑り上がっていったのだった。


 そんな光景を離れた本陣の天幕の下から、冷ややかに眺める者たちがいた。

「いやはや、血気盛んですなメアリ様は。」

「左様ですな。」

「ですが、これで野蛮人共は終わりですな。」

「やっと我等人の支配する時代が始まるな。」


 上空百m付近。

 眼下に展開しているリュンクスを眺めるメアリの表情は歪んでいた。

 先ほどまでの神に祝福され喜悦に歪んでいた表情ではなく、今は憎悪に歪んでいる表情だ。

 数多のリュンクスが統制も何もなく、唯々に前進するその様を見つつ、

「さあ、神の審判の光受けなさい。」

 そう声を漏らしつつ、その両腕で抱いた錫杖の先端を眼下のリュンクス達へと向けセキヒを練り上げ術式を封入、そして魔術を発動するための最後の動作を行う。

 錫杖に拵えられた鉄の引鉄を引く。

 次の瞬間上空百mから打ち下ろされたのは一条の光の柱。

 その光の柱は地上へと降り注がれると、リュンクスを薙ぎ払うかの如く無造作に振られていく。

 次の瞬間光が降り注いだ場所では大規模な爆発が引き起こされた。

 光に飲まれたリュンクスは、瞬く間に炭化しその場に頽れ、光の柱が通った周囲に居る爆発に巻き込まれた者たちは、四肢が千切れ強力な爆発という暴力に吹き飛ばされた。


 メアリがこの地に誕生する前はリュンクス優勢だった戦争は、彼女の登場によって劇的な変化が起こった。

 彼女が来る前は当事者同士の闘争だったのが、ナニカよく解らない強大な力を持つ個人の力によっての蹂躙に変わったのだ。

 この闘争とも呼べなくなった、戦争の様なものはすぐに閉幕することになる。

 リュンクス側陣営の全面降伏が行われたのだ。


「あー、皆様本日は実に良き日です。これから貴方達は神の僕となり、蛮族と言う穢れた罪深き種族と言う罪を禊るのですから!」

 憎悪の感情を以って幾人ものリュンクスを屠ってきた彼女の今の表情は慈愛に満ちたものだった。

 その光景は宗教画とするのに非常に良い光景であったのだが、先の蹂躙を経験していたリュンクスからしてみれば、「気持ち悪い」というただ一言に落ち着く。

 自分たちの同胞を嬉々として、憎しみを以って殺していた相手が、笑顔で話しかけているのだから。


 時は過ぎ、ここはこの地域の中心地域にある湖の畔。

 豪奢な城も、優美な街並みも存在していない自然豊かなこの場所で、王権神授が行われた。

 メアリを神として祀り上げた国家。サピエ王国の誕生を祝した神事である。

 メアリから授けられるのは四つ。

 一つ、この国を支配する権利。

 一つ、聖なる二枚の板。

 一つ、セキシの光を称える宝珠。

 一つ、引鉄の錫杖。

 これらは王を筆頭にして各公爵家に分け与えられ、この三つの神器と、メアリの宣誓によって、この国の王権を授けるものとしたものである。

 この年をサピエ暦元年とした、王国の歴史が始まる。


 時はさらに過ぎサピエ暦百二一年。

 メアリの崩御。

 国が公開した情報は老衰によるものとされているが実際には違う。

 毒殺である。

 本来のメアリであればこの時代に精製出来る毒物程度では命を落とすことは不可能である。だが、百年以上の長い時間を掛け、サピエ王国の王族と公爵家はメアリの行動を言葉によって雁字搦めに拘束していった。

 強大な力を持った狂信者は、自らの狂った信仰心を利用されどんどんと追い込まれていった。

 そして最後には、見た目はこの地に降り立った時同様の美しい姿でありながら、その心はひどく老衰してしまっており、碌に動くことが無い状況まで追い込まれてしまった。

 そんな中毒を盛られたメアリは、盛られた毒をレジストすることなく受け入れ死んだのであった。


 これ以降幾度もメアリの後に続くべくプレイヤーと言う存在がこの地へと誕生することになるのだが、彼らはサピエ王国によって秘密裏に処分されていってしまう。


 そして、サピエ暦二五四年。

 王国の魔の手を逃れプレイヤーの森を抜け出すことに成功したプレイヤーが現れる。

 そう、貴方だ。


 Dieディ unendlicheウンエンドリッヒ Geschichteゲシェヒタ Fantasieファンタジー Questクエスト

 終わりなき幻想の物語の探求に、今新たな頁が綴られる。

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ボツ・封印世界‘ストラトゥム・カルパー・テルミヌス’~妖精遊戯篇~ Uzin @Uzin

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