館で

 白い石材をふんだんに用いて建造された、森の中に唐突に表れた館。

 ここは俺の様なプレイヤーを迎える為に造られた場所と言う話。

 そんな館の中で、使用人達が出立の準備を整える最中、四人の騎士とメイド長のインガと共に、身体を休ませながら今後の方針を話し合う為に、館の中にあるプレイヤーの為に用意されたという部屋へと向かっている。

 館の中はやや薄暗い印象だ。これは森の中という事と建物の中という事が原因だろう。そんな廊下を通り抜け部屋へと入るとインガはお茶を用意してまいりますと、一言残して部屋を出て行った。

 さて、一体何から話し始めたものか。俺はクリスタに勧められるままに部屋に設えれた執務机に備えられた革張りの椅子へと腰を落としながら考える。

 執務机の前にあるソファへとこちらに断りを入れて席に着いた四人を見ながら、戦闘中意識して消しておいたメッセージを再度表示させる。


―――

従士にしますか?

クリスタ

エルネスティーネ

ロミルダ

ヴィルマ

―――


 正直な話、初対面の相手をいきなり従士というものにするのは抵抗がある、

 従士という言葉から推測するに、俺に従うという事なのだろう。

 だが、そう予想した上で、彼女らの所属する国家なり組織と、こちらを襲ってきた相手の関係性。彼女達やその上の存在の思惑すらも今は解らない上に、彼女達を従士にするという事がどういった結果に繋がるか見当もつかない。

 ある程度以上の信頼を彼女達に感じることが出来てさえいれば、従士にすることも考慮に入れていたのだろうが、今目の前に居る四人は俺をプレイヤーとしか今まで呼んでいない。

 これは、俺個人を見ていない事だろうことが予測できる。つまり、プレイヤーという存在であれば俺では無くてもよいという事だ。

 そう仮定してしまえる行動を取っている相手を従士とすることが出来るかと言われれば、否と答えられる。

 なので、この件について今は保留とすることにしよう。

 そうなると、今現在俺たちが置かれている状況の確認をして、今後の動きなどをしっかりと確認しておくのが今やる事だろう。

「さて、今後の方針などを決める前に現状の確認をしたい。」


 戻ってきたインガが入れてくれた紅茶を飲みながら俺は今さっきまで交わしていた会話を纏めていた。


 今いる場所はプレイヤーの森。

 この森はこの地域でプレイヤーと呼ばれる存在が降誕する場所で、先代のプレイヤーであるメアリがダンジョンで発見したアーティファクトを使用して出来た森であり。何処かに存在するアーティファクトによってこの森での魔物発生が抑えられている事。

 さらに、この場所ではメニューウィンドウの力が著しく低下してしまい、かなりの能力制限が掛かってしまう事等を聞いた。

 そして、この館から最寄りの町を目指す道を通って、プレイヤー森を出る為には徒歩で五時間程掛かるという事。

 さらに、今いるプレイヤーの森はズドステン公爵領内にあり、この公爵は反プレイヤー派閥という事。表向きは親プレイヤー派の振りをしているらしいが。

 なので、確証は無いものの先ほどの刺客はズドステン公の手の者の可能性が非常に高いと思われる。

 そして、彼女達は使用人を含め全員がスデュエステン公爵に所縁ある者という事。

 彼女達の話を全面的に信用するならば、一刻も早くスデュエステン領に逃げる必要があると言って良い状況だ。

 なので、今の俺の心情などは一先ず置いておいて、ここは森を抜けてスデュエステン領に移動を開始するのが良いだろう。

「状況は分かりました。すでに準備も終わっていると先ほど報告もありましたし、今すぐにでもスデュエステン領へ向けて出発した方がいいですね。」

「はい、プレイヤー様。」

「では、すぐ出発しましょう。」

 インガとクリスタが俺の言葉に了解の言葉を返してくれる。

 あっ、そうそうここにいる使用人達は全員ある程度動けるようで、というか、四人の騎士よりもお強いそうです。

「その前にプレイヤー様の装備を整えましょう。」

 と、インガが言うなり、部屋の前で準備を終えていたのだろうメイド達が入って来て、無駄に豪奢な軽鎧を着つけられたのだった。

 インガ曰くこのプレイヤーの森では下手にスキルを使用した装備は使えないとのことで、この豪奢な軽鎧を含む装備一式はスキルを一切使用せずに造られた一品だ。

 なのでこの装備はプレイヤーの森を抜けるまでの間だけ装備する為に作られた物らしい。


 準備が全て整いプレイヤーの森の中を進む俺達一行は何ともおかしな陣形である。

 俺の周囲を四名の騎士達に護衛させ、その周囲をメイドで警戒し、執事が先導するというものだ。

 立ち位置逆じゃない?と警戒しながら進むメイドと、荷物を担いだ騎士を見ながら思うのだった。

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