館へ

 周囲に気配は無い。

 当面の危険は取り除けたと判断して良いかな?

 しかし、記憶が無いけど、こういうのって所謂体が覚えてるというやつなのだろうか。明らかに普通ではないのだが、俺自身にとっては出来て当たり前だというこの感覚。

 この事から考えると、俺は元居た場所では相当珍しい部類なのだろう。

 っと、そんな事を考えこむ前に色々と処理をしないといけないな。

 クリスタ達もこっちに来たようだし。男達を引きずりながら。

 うんうん、そう言った手合いを放って置かないのは感心だな。やはりそこは訓練を積んだ騎士様と言ったところか。

 とはいえだ、ここに倒れている全員をこのまま連れていくのは得策では無いな。

「さて、一つ確認です。こういった場合彼らの処遇はどのようにするのが良いですか?」

「はっ、ここは御料林となりますので、無許可でこの森に侵入してきた者は即刻捕らえることになっています。さらに加えれば、プレイヤー様を害しようとした行動を取ったので情状の酌量無しかと。」

 まー、先ほどのいきなりの膝立ちを思えば、彼女達の心情としてはそうなるのか。

「なるほど、そうなると彼らの処分はどのようにするのが適当ですか?」

「私としては、この者たちから情報を引き出したいと思っていますが。何分ここは森の中。危険が少ないとされているプレイヤーの森ですが。このような場所で悠長に情報を聞き出すのは憚られます。」

 それはそうだな。

「ですので、一人だけ残してこの場で命を絶ってしまい。残りの一人に関しては場所を改めて尋問をするのが良いかと思います。」

 いやー、さらっと殺すとかいうのね。見た目の可憐さからは想像できないが、覚悟あってその位に就いたのだろう。

「だが、現状では男一人を抱えて移動するのは困難だろう。全員ここで確実に殺しておこう。」

「はっ!」

 そう言ってクリスタは周囲で待機する三人に目配せをすると、今までその場にて周囲を警戒しながら待機していた四人が腰に佩いていた剣を手に持ち、気絶して倒れ伏している男達の下に向かって行ったのだった。


 本隊、とは言っても今回のこの面倒な状況の所為で、たったの三人しかいないのだが。そんな彼らにプレイヤーと思しき男が例の令嬢の騎士様と合流したことを告げた後、おれはズドステン公へと情報を届けるべく森の中を移動している。が、その前に念の為だ、屋敷にある馬車を壊しておこう。

 いや、馬が馬車を引けないようにするのが簡単か。それなら、厩に繋がれている所を一突きするだけでいいからな。


 手に残る感触・・・、皮を破り肉を断ち骨を砕いた感触が残っている。


 う~ん、初めて人を殺したのかな?もしくは殺し慣れてないとかか。

 一応表面上は平静を装っているけれども明らかに纏っている雰囲気が重い。

 フォローするにせよ落ち着いた環境じゃないとなー。


 そんな微妙な空気の中、黙々と森の中を歩いていく彼ら。その道中プレイヤーの彼は今の自分の状態に関して思考を向けて行った。


 さて、それはそれとしてだ。

 自分があれほど動けるとは思っていなかったし、それに何より人の死に対して明らかに慣れている。そういった事に慣れ親しむような職業だったのかもしれない。

 とはいえ、身体を実際に動かした今でも記憶が戻った訳ではない。

 だから、以前の自分というものが分からないという事は変わらないし、というか、より疑問が深まった、とも言える状況だ。

 俺の中では、平和な場所で暮らしていたという感覚があるのにも拘らず、こういった暴力に対して何か忌避感を感じる訳でもないというのが解らん。

 かと言って自分の事を犯罪者と思うのもな~。個人的な感情での落とし所としては、職業軍人と言った辺りだろうかね?

 何かしらの暴力を振るう立場にあった、そんなところだろう。

 ふー。


 ふと森の中を見回す彼。


 森の中は落ち着くなー。


 解らない事尽くめで現実逃避を始めていくのだった。


 その後四十分程森の中をクリスタ達に先導される形で進むと開けた場所に出た。

 そこには長い年月の中でも森に飲み込まれず存在し続けた風格をしっかりと漂わせている館が存在していた。

 そんな館の前には、ここの住人である六名の使用人がいた。。

「こちら側でも襲撃があったのか?」

「見たところ全ての者がここに集まっているので、怪我をした者などはいない様ですが。」

 プレイヤーとクリスタがこの状況について話しながら屋敷に近づいていくと、見るからに執事だと解る格好をした壮年の男性がそれに気づき近づいていった。

「お帰りなさいませ。このような所をお見せしてしまい申し訳ありません。」

 チラと視線をプレイヤーに向け、一瞬で状況を理解したのだろう。クリスタにではなくプレイヤーに向かい礼をし、状況の説明をし始める執事の男性ベンヤミン。

「お前たちの事は既にプレイヤー様に名前を伝えている。まずは状況を。」

 クリスタがベンヤミンに向けて事情を説明するように言葉を向ける。

「はい、先程この屋敷の厩舎に繋いでおりました、馬車馬が何者かの手により処分されておりました。」

「なるほど、それを確認している所に私達がここに到着したと。」

「左様でございます。プレイヤー様。」

「足止めか。」

「どうなさいますか?」

「足止めと言うなら、ここに留まることはしない方がいいな。」

 クリスタの質問に対してそう答えるプレイヤー。それを受けてベンヤミンは。

「畏まりました。至急荷物を纏めさせます。」

「強行軍になる可能性もあります。その間私と彼女達は少し休みます。」

「では、この屋敷のメイド長のインガをお傍に置いて下さい。」

「有難うベンヤミン。」

「では、インガを呼んで参ります。」

 プレイヤー達と四人の令嬢騎士たちは、インガに先導され屋敷の中へと入っていった。

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