プレイヤーの森 2

「御前失礼いたします!」

 俺は隣でこの場を見張っている同僚とハンドサインを交わす。

 同僚は、この情報を本体に届けた後、御屋形様の所に情報を届けに行く事に、おれはこのまま後を付けることになった。

 まったく、趣味で騎士なんざやってるようなお貴族様の淑女の為に、こんな面倒なことをしなくちゃならんというのがな~。


 私が森をプレイヤー様降誕の知らせを館に伝え、お迎えするに足る準備を整えるよう言づける為に先行して数分、目の前には三人の少し汚れた格好をした者たちと遭遇した。

「何者だ!ここを王直轄の御料林というの知らぬのか!」

「・・・」

 特に話をする気が無いようですね。無言で剣を構えるとは・・・。これがプレイヤー様を暗殺してきた部隊の者達なのでしょう。

 野盗のような格好ですが明らかに訓練を受けている者の動きです。

 さて、ここは派手に動いてクリスタ隊長たちにここで戦闘が行われていると解るように立ち回りましょう。

「特に話すことも無いと来ましたか。では、こちらもお役目です。御料林に無許可で侵入してきた狼藉者を見逃す訳には行けません。」

 私はここまでですね。


 前方の方から剣戟の音が響く中、俺は後ろからついて来ている存在へと意識を向ける。特に動く気配は無し。こちらが隙を見せるのを窺っているのか。

「プレイヤー様、申し訳ありません。不測の事態が起きている様です。少し遠回りになりますが迂回する動きを取ります。」

 クリスタはあくまでこちらの安全を優先するか。なら、信用していいかな?

「後ろから誰かが付いて来ているのだけど。君たちの仲間?」

「えっ?」

 ふむ、その反応がブラフでなければ、普通に考えれば敵だな。

「なるほど、では少々待っていてください。」

 こちらがクリスタに話掛ける内容が聞こえたのだろう。姿を隠して行動するのを諦めたようだ。こちらへと駆けて近づいてくるようだ。今までの動きから一変して、音や気配などを一切隠蔽する様子も見せずに近づいてくる。

 やれやれ、良い耳を持っているようですね。

 呼吸を整えオドの流れを早くして戦闘状態へと移行させる。

 後は何時も通りに動きに意味を持たせて発動するだけ。

 いつも通りか、記憶がないのに自然とこんな考えになる辺り、まっとうな生活はして無かったんだろうな。


 ドン!っという音が急に聞こえたかと思うと、目の前にいたはずのプレイヤー様は、私の横から急激に離れていきました。

 やっとのことで目線で終える程の速さで以って移動するその様は、まるでフォレストタイガーファングの如き、いやそれ以上の暴力を伴なった速さでした。

 次の瞬間には何か肉を打つ音が森の中を響き渡っており、その後特に交戦し合うような気配がなかったので、たった一撃で相手を無力化したというのが解りました。

 ですが、プレイヤー様が何をやったのかはまるで解りません。

「急ぎます。」

 そういって、私が迂回しようと判断する原因となった剣戟の音の鳴る方へと、プレイヤー様は向かってしまうのでした。

 私は、いえ・・・私達はそんなプレイヤー様を唖然とした面持ちで見ている事しか出来なかったのです。


 二合、三合・・・撃ち合うたびに体力が削られていくのが解ります。

 遠くの方でドン!っと音が鳴りましたが、おそらく後方のプレイヤー様の近くで何か有ったのでしょう。でも、今の私にはそれに対処する術がありません。隊長達を信じてこの者達を合流させないようにするだけです。気休め程度でしょうが何もしないよりはましでしょう。

 相手と私の技量の差は歴然。こちらは防ぐことに専念してやっと打ち合えているのに対して、相手はセキヒの輝きを強烈に湛えながら着実に詰めて来ています。

 ふと気づくと他の二人の姿が有りませんでした。

「あっ。」

 そんな間抜けな私をあざ笑うかのように、目の前には振り下ろされる剣が有りました。

 その時先ほど聞いたドン!という音が聞こえました。そして気付くと私に叩き付けられようとしていた剣は見えず、目の前にはプレイヤー様が立っていました。

 なぜ、クリスタ隊長が守っている筈のプレイヤー様がここにいるのか解りませんでしたが、一つだけ言えることがあります。この身を捧げて仕えなければと。

「怪我が無いようでよかった。」

 私がプレイヤー様に対して決意を新たにしている中、周囲へと警戒を切らさずに心配の念を向けてくれています。

「は、はい。」

 私は自分の顔が赤くなっているのを自覚しながら、そんなプレイヤー様の黒髪黒目の精悍なお顔を眺める事しか出来なかったのでした。


 森の中で隠密活動をするために、この辺りの植生に合うよう造られたであろうギリースーツの様な物を着ている男を無力化する。

 これでこちら側の脅威は排除できたはず。先ほどから剣のぶつかり合う音が聞こえてきている。エルネスティーネはまだ生きているようだが、向こうがどういった戦況なのかは木々に遮られていて良く分からない。

 念のために周囲へと意識を通しながら、クリスタの居る場所まで戻り声を掛ける。

「急ぎます。」

 少し時間を掛けて広げたから見落としは無いはず。こちらの感覚を欺けるほどの手練れの場合はどうしようもないが。などと考えている間に前方から二人の少々汚れ草臥れた革鎧を着た男達が。

 先ほどの隠密活動をしていた男もそうだが、なぜ、こんな森の中でこうも訓練を積んだ相手に出くわすのか。

 何故の部分は分からないなりに目的は俺なんだろうなと思いながら、先ほどの彼女達が俺に傅いていた光景を思い出す。

 おっと。相手の動きを観察する。

 お互いに剣のリーチなのだろう距離を放しながら、油断なくこちらへと向かって来ている。正面から向かうのは悪手だと思うだろう。だがここは正面から向かう。

 先ほど一回跳躍歩法で大きな音を出した。向こうは何かしら音がでる行動があるというのは予想しているだろう。だからここは音を出さずに行くとしよう。

 相対不歩法あいたいせずほほう

 目線を見る、呼吸を読む、相手は二人で少々面倒だがそれだけ。相手が無意識に行っている相手を認識する為の行為。それを把握したら後はずらすだけ。

 相手は俺を見ているし、追えていると思っているが、。その実無意識上では認識出来ていないために対応できない。

 この歩きは少しだけタイミングをずらす簡単な歩き方。だが、簡単が故に殆どの者はこの術中に容易く嵌る。行う方は大変なんだけどね。

 後は相手に触れて内気を乱して終了。視線を向けると何事も理解できなかったように地面へと倒れ込む男達。


 意識では見えていても無意識では見えていない。たったそれだけの歩法。

 この呪縛から逃れるためには意識と無意識への高い理解度が必要である。

 そして、それが理解できるほどの知識なり経験があれば対策も自ずと解る。自分が無意識で行っている行動をずらせばよい。その方法は様々あるが、最も簡単なのが不意に息を止める事だ。

 たったそれだけのことで歩法は破られる。何の魔術も何も含んでいない純粋な武道の極みの技。


 後はこの先で未だ戦闘中の場所を鎮圧すればこの騒ぎは収まるかな?


 プレイヤーである彼がそう思いながら森の中を進むと、そこには凶刃に晒されている、エルネスティーネが居た。


 かなり際どいが、攻撃の瞬間は最大の隙!


 ドン!強烈な踏み込みと瞬間に足裏から放たれる体内の気によって跳躍する歩法。

 跳躍歩法によって一瞬で二人の間へと身を翻す。


 持ち手を抑え剣を流しつつ丹田に触れる。後は乱すだけ。

「怪我が無いようでよかった。」

 何処かぼうっとした目線のエルネスティーネは「は、はい。」と言いながら呆然と俺の顔を見ながらその場に力なく座り込んでいく。

 何度も打ちあった所為だろう、やや上気した頬と汗ばんだ肌。見るからに消耗している。相手は格上の相手だったのだろうな。


 見るものが見れば、明らかに助けてくれたプレイヤーに思いを寄せる一人の女性が、熱い視線を向けているというのは分かるだろうが。今のプレイヤーの思考は戦闘に偏重している為にその事に気付けないでいた。

 だが、後で合流する三人の貴族令嬢の騎士たちは一目で理解するのだった。


現在の主人公の状態

―――

種族

ヒューマン


職業

近接格闘魔術師


タレント

プレイヤー


スキル

平常心

五本貫手

掌底

操気法

跳躍歩法

隠形歩法

相対不歩法あいたいせずほほう


持ち物

スライムの核×六個


装備

ティーシャツ(下着)

ジャージ(ズボン)

パンツ(下着)


従士にしますか?

クリスタ(隊長、唖然とする)

エルネスティーネ(斥候、謎の敵と遭遇一人を引き付けることに成功。改めてプレイイヤーに身を捧げることを決意する。)

ロミルダ(プレイヤー護衛中・前、唖然とする。)

ヴィルマ(プレイヤー護衛中・後、唖然とする。)

―――

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