第一章 山脈に囲われた大地

第一節 途切れる歴史、動き出す歴史

プレイヤーの森 1

 ゆっくりと扉を押し開く。木と金属の擦れる音が聞こえる。ふと蝶番に該当する部分を見ると金属部品だ。

 ふむ、金属加工できる技術はあるか。

 そうなると、辺鄙な場所って線が濃厚かな?

 後は政治体系か。貴族社会とかだったら色々と気を付けないといけないかな。

 現代同様の物だったら、民主主義か共産主義とかか。独裁制とかも考慮に入れないといけないか。

 まー、これに関してはどこかしら村なり町なりに出ないと何とも言えないな。

 さて、周囲を改めましょう。

 洞窟の周りは雑草こそ生えてはいるが、比較的固めの地面だな。

 後方に視線を向けてみればかなりの勾配、崖と言って良いだろう。直角ではないが登るには一般人であれば登攀用の道具が無ければ難しいだろう。

 そして、周囲には大きめの石や岩。・・・改めて崖を見る。視線を上に上げる。落石の心配は直ちには無いと思う事にする。

 森に生えている木はなかなかに立派な大きさだ。植生は熱帯雨林という感じではないのが救いか。幼木はほとんど生えていないな。

 森の中は成木の影に覆われている。地面はシダやコケ系の植物が生い茂っている。

 成木の葉の形は広葉だ。パッと見では道らしい道は無しか。それっぽい草葉の生えていない獣道じみたものはあるが。

 獣道かー、遭遇しない事を祈って通るか?余程の相手でない限り何とかなるかと思うが。

 そうなると、洞窟内は全てを見た訳ではないが、脅威となる生物はいないと思って良い。そんな生物が居たら、こんな粗末な掘立の木の衝立のような物は無くなっている筈だしな。

 ここを拠点にして、探索範囲を広げつつ、食料を確保していくのが良いか。

 腹・・・下さない事を祈るしかないのが辛いな。最悪毒となるようなものでなければ問題ないだろうが。

 それを確かめる術が実際に食べる事ってのがな。いやはや中々厳しいな~。


 名前を忘れたプレイヤーのタレントを持つ彼が、洞窟の中から出てきてこれからの事について悩んでいる頃。森に分け入る為に軽装の装いながら、立派な鎧を身に着けた四名の騎士の出で立ちの女性が歩いている。

 彼女達は終始無言で森の中を歩きながらも、自身が与えられた命令を完遂する為に、一歩一歩着実に歩を進めていく。

 この森はこの国に残る伝承からプレイヤーの森と名付けられている森。

 王を頂きに置く王国で伝説に残るプレイヤーが転移してくる洞窟がある森だ、故に彼女達のようなプレイヤーと接触する為の騎士が定期的に訪れている場所である。

 だが、前のプレイヤーの転移からかなりの時間が流れていると表向きにはなっている為に、今現在このプレイヤーとの接触任務を受けた者は、何も起きないという事が日常となっている。王国の軍部では扱いの困るお転婆な貴族の騎士様と思われている彼女達。

 だがその実ここにいる四人の女性達は、新たなプレイヤーの降誕に期待しているスデュエステン公爵の思惑によって、この地へと派遣された元貴族の令嬢達だ。


 さて、ここで悩んでいてもしょうがない。

 まずは食料を探す。焚火に使えそうな乾燥した枝・・・、いや火を起こす手段を確保できていないか。これは後回しだな。

 何かしらの果実があれば良いんだが。季節柄というのもあるだろうしな。その辺りは探さないと分からないか。

 とりあえず・・・

 ん?あれは人か?それも鎧を着ている。

 ん~、言葉通じるかな?というか、こっちに向かってきてるな。急いだ感じで。

 なら、ここで待たせてもらいましょう。

 女性の騎士?なるほど、この国では男女の格差というのが無いのかな?

 さて、取り合えずは挨拶からだな。

「こんにちは。」

 彼女達が森から出てきて、声を掛けるには適当だと思える距離に達したと思い声を掛けてみた。すると彼女達はその場に跪いた。

 え?ナニコレ?


 私達が言い渡されている命令はただ一つ。

 プレイヤー様と接触してスデュエステン公爵領へとお連れすること。

 プレイヤー様が何時来られるか解りませんが、今までこの国で秘密裏に行われた来た事を思えば、この命令を完遂する事の難しさは推して知るべしです。

 本来ならばもっと沢山の騎士を随行させないといけないでしょうが、それだと他の派閥を刺激してしまいます。

 プレイヤーに憧れる、頭の中がお花畑の貴族の令嬢という仮面を被っていなければ、私達スデュエステン公派閥の人間がここに派遣される事など無かったでしょう。

 今回の様に執事やメイドまでをこちらの派閥で固められる機会が、今後も得られるとも限りません。出来るならばこの任期中にプレイヤー様がこの地へと来られることを祈るしか出来ないのが歯痒い所です。

 ですが!なんとプレイヤーの森の洞窟の前に、見たこともない生地の服を召した男性がいらっしゃったのです!

 私は隊員達に駆け足を指示しました。出来るだけプレイヤー様の下に早く参上する為に。

「こんにちは。」

 あー、お声を掛けてくださいました。

 私は自然とその場に頭を垂れて跪きました。他の隊員たちも同様にしているでしょう。


 あー、そのなんだ・・・、悪意は感じないな・・・うん、初対面の相手に頭を下げて膝を着く・・・。

 えー、なんだ。いきなりすぎるな~。

 そして、視線の隅の方で自己主張する文字があるがそれは一旦無視して。

 これ、こっちから話しかけないとダメだやつだよな?

「え~、状況を教えてもらえますか?」

「はっ!私たちはプレイヤー様をお迎えする為にこの地に派遣されたものです。本日、プレイヤー様がこの地に降誕して下さったことを、この国の民に代わりまして私クリスタが述べさせていただく栄誉を賜り、感激の極みに御座います!」

 あー、これ感激しすぎてアカン状態やー。ここまで一切顔を上げずにしゃべってるよー。

 少し落ち着いてから話を聞かないといけないな。

「それは良かった。君たちの長年の想いに応えられて私もうれしいよ。」

 だっ大丈夫?なんかプルプル震えてるけど。

「有難きお言葉。」

 落ち着け落ち着け~。ここでこの感情に流されたらダメダゾー。

「ここでこのまま話すのもなんですし、何処かゆっくりと話せる場所に案内してもらえませんか?」

「すっすいません!感激のあまり。」

「いやいや、こう言った事は上の立場の者が考えることですよ。」

 上から目線だが・・・、ヘタに下手に出ると面倒なことになるだろうしな~。当分はこんな感じかな・・・。

「すばらしい・・・、では!こちらへどうぞ。私たちが詰めている場所にご案内いたします。そこにはプレイヤー様を、お迎えるする為の準備も整えられております。エルネスティーネ!先触れとして先行しなさい!」

「はっ!」

 クリスタさんから一歩程後で一列に並んでいる女性騎士達の左手にて跪いていた人が立ち上がる。彼女がエルネスティーネさんね。

「御前失礼いたします!」

 そう言って駆け足で森の中へと消えていった。

 鎧を着て駆け足で移動するって結構大変そうだなー。

「では、ご案内いたします。こちらへどうぞ。ロミルダ、ヴィルマ前後の警戒を任せます。」

「はっ。」

 クリスタさん自身は俺の左手でやや先行する形で案内役と直護衛役を担うようだね。

 じゃ、気楽に行こうかね~。


 プレイヤー様。それはこの国に於いては王以上の権威をもって迎えられるべき存在。

 そんな尊いお方がこの地に降り立ってくださいました。

 そんな素晴らしい瞬間に出会えるとは光栄の極み。しかし、今はまだそんな感動に身を任せてはいけません。このプレイヤーの森は過去に降りたったプレイヤー様の遺したアーティファクトのお陰で、魔物の発生率は低いですが無いとは言えません。

 それに、今のこの王国の状態を考えると・・・。

 なので、私たちのような存在が、この地に降り立ったばかりのプレイヤー様を見つけるために派遣されているのです。そんな私が任務に集中しないという事はありえない事です。

 しかし、目の前のプレイヤー様はすごい自然体でいらっしゃいます。

 その上で周囲への警戒も怠っていないご様子。

 そんなプレイヤー様は今現在クリスタ隊長にこの森の脅威度の確認をされて御出です。

「洞窟の中にはスライム・・・、この核を持ってる存在が居たのですが、この森で何か脅威になるような存在は他にいますか?」

「いえ、この森には過去この地に降り立って下さった、プレイヤー様が遺されたアーティファクトがどこかに存在しています。そのアーティファクトの力によってこの森での魔物の発生を抑えているとのことです。」

「あー、そうなるとここ以外の森は結構危ないのかな?」

「はい、場所にもよりますが。私たちのような訓練を積んだ者以外で森に迷い込めば生存は望めない程です。」

「なるほど、有難う。」

「それと、魔物以外にも危険な存在が居りますので。」

「盗賊とかかな?」

 プレイヤー様のその言葉遣いから、とてもお優しい方というのが伝わってきます

 ただ、他の派閥が今後どのような手を使ってくるのかが問題です。


 魔物発生を抑えるアーティファクトか。どのような手段で以って抑えているかの部分はクリスタは分からないらしい。

 この辺りについてはそのアーティファクトとやらを見ない事には何とも言えないか。

 まー、色々と考える前に対処しないといけないというね。今の俺の置かれた状態も掴めていないのに。

 は~、これは付けられてるな。彼女達は気づいた素振りは無し。

 とりあえずは様子見か、話はこのまま続けるとして、どうしたものかな。


 その後、彼女達が熱心な新プレイヤー派閥を取り纏めるスデュエステン公爵派閥よりこの役目を任される為に派遣されている事、その任期期間は一ヵ月で今は三週目に入っている事や、今現在館に詰めているのが自分たちのお世話をするメイド四名と、もしプレイヤー・・・俺の事だな、が降誕した場合に対応する為の執事とメイド長がいる事と彼らの名前などを教えてもらった。

 そして、さてこの辺りの村や町などの話を聞こうとした段になった時、俺の耳に異変を知らせる金属同士がぶつかり擦れる音。剣戟が交わる音が聞こえてきた。


現在の主人公の状態

―――

種族

ヒューマン


職業

格闘家


タレント

プレイヤー


スキル

平常心

五本貫手

隠形歩法


持ち物

スライムの核×六個


装備

ティーシャツ(下着)

ジャージ(ズボン)

パンツ(下着)


従士にしますか?

クリスタ(隊長)

エルネスティーネ(先触れとして先行)

ロミルダ(プレイヤー護衛中・前)

ヴィルマ(プレイヤー護衛中・後)

―――

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