第1話 : 雨の秋葉街 ( 2 )




 まばらな街灯ガイトウの光を頼りに薄暗い路地を探り抜ければ、神田明神下カンダミョウジンシタの交差点に出る。


 追撃ツイゲキされる彼は、アセりからか、右方向、昌平橋ショウヘイバシから、スピードを上げ、走り来る貨物トラックに気付かない。


 運転手は「あっ!!」と、ブレーキを踏む間もなく突っ込んで行った。



「ゴガシャーン!!ゴゴーン!!」



 と、その瞬間、トラックは、厚い鉄板の壁に撃ち込まれた弾丸ダンガンとなり、彼の右腕一本で、グシャリ変形すると、衝撃音ショウゲキオンを立てながら、後方へと跳ね返される。


 それでも、肩に抱いた獲物は、少しも傷つける事なく、雷雨ライウの中を秋葉中央通りに向かって駆け抜けて行く。


 もはや、彼は人では無い…




 人では無いの…






 万世橋マンセイバシ交差点に接する、このビルでは、年末完成を視野に、悪天候にもかかわらず建設工事が進められているのだった。


 地上と屋上、共にえられている、紅白縞コウハクジマの長い腕を有するクレーンが、ゆっくりと、ランプを点滅させ作業を続ける。


 と、そこへ激しく水飛沫ミズシブキを蹴り上げけ寄る彼は、獲物を担いだまま、所々、外壁がき出す当ビルに、強靭キョウジンツメを打ち込み登り始めた。



 しばらくすると、その異変に気づいた作業員数人が、不安定な鉄骨を渡りながら、にじり寄り注意を与える。


「オイ!!この現場は、関係者以外は立ち入禁…!!!」


 言い終えぬ内に、彼等の首と胴の肉塊ニクカイが、ゴンガンガランと鉄骨にハジかれながら落下した。




 地上では、敷地内シキチナイに入って来た車椅子の少女が、テノヒラを建物の鉄柱に当て、しばらく、何事かを確認すると、静かに作業中の地上大型クレーンに近づく。


「オイ オイ!!駄目だ!駄目だ!危ねぇだろ!!」


 と地上作業員の一人が、両手で少女を制した瞬間、彼女はスッと彼のベルトにハサまれたレンチを抜き取った。


「オイ!!何すんだ!!俺のレンチを返しやが…!!」




(ドサドサ!ゴゴン!ドサッ!!)




 彼は背後からの、けたたましい音に驚きり向くと、上層階で作業中の、仲間数人と目が合う。

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