｢なっ何だ！何が起きてんだっ！上じゃぁよ

　う！てぃへんだ！！てぇへんだ！！｣

　レンチ処（ﾄﾞｺﾛ）の話では無くなった彼は､大声で周りに喚（ﾜﾒ）き散らす｡

｢何だ！何だ！どうした！！大声で喚いたりして！！｣

　作業中の人々が手を止めて､大勢クレーンの周りに集まって来た｡

　しかし､余（ｱﾏﾘ）りにも凄惨（ｾｲｻﾝ）な光景が､一同から言葉を奪う｡

　車椅子は､その中をカラカラと進み､まだ荷が吊られているクレーンのフックに少女が掴（ﾂｶ）まると､そこへレンチで一撃｡

　すると､ワイヤーで吊られていた建材の束は外れ､重りを解かれたそれは､彼女を連れ､元来た場所へと勢い良く巻き戻って行った｡

｢ガラガラゴロゴロガッシャーン！！｣

　建材が乱れ落ちる音に､ハッと我に返った

　一人が､

｢ああっ｣と空を指さす！

　少女は､弾かれた様に､グングンと加速し､天高く夜空に吸い込まれた｡

｢シュルシュルシュルシュルシュル！！｣

　フックのワイヤーが唸（ｳﾅ）り挙げながら､最上階に近づいた時､パッと､それから手を離し､前方へと飛んだ｡

　勢い良く放り出された彼女は､山なりに弧（ｺ）を描いて屋上へと強く着地する｡

　床に車輪が､めり込み煙（ｹﾑ）り立つ｡

　頭上後方では､クレーンフックが､収納口に速度を保ったままで衝突したのか､

｢ゴガシャーン！！｣

　火花を撒（ﾏ）いて､大型クレーンを上下に激しく揺らす｡

　ビル最上階にも同じく大型クレーンが鎮座（ﾁﾝｻﾞ）し､未だ半分の鉄骨が剥き出しになった床に､風が吹き抜け､ヒューヒューと､あちらこちらで鳴いているのだった｡

｢ガン！ガン！ガシ！ガシ！ガン！！｣

　爪を打ち込み､打ち込み､とうとう屋上に登り着いた｡

　降りしきる雷雨は､益々､この建物をギリギイガヤガリと執拗に揺らす｡

　彼は､その床から､片腕を伸ばし這（ﾊｲ）い上がろうとすると､何やら靴（ｸﾂ）の先らしき物に触れてしまう｡

　反射的に海老反（ｴﾋﾞｿﾞ）りとなり､後方へと跳ね退（ﾉ）け､屋上床に伏（ﾌ）せた体勢から周りを覗（ｳｶｶﾞ）った｡

　前方には､雨に打たれ､ジッと､こちらを見据（ﾐｽｴ）える車椅子の少女が確認出来る｡

　とは言え､彼女の瞳は､未だ閉じられたまま…

　屋上の建設用ライトで照らされ､初めて車椅子の少女の姿が､今､分かる｡

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