今日もソレは伝わらない
唯之凪
今日もソレは伝わらない
いくらソレを重ねても、あなたに少しも伝わらない。
* * *
それはいつもの事で、もう慣れたもの。
それでもこうするのは、少しだけでも、なんていう私の期待が含まれているからなんだろう。
ことりと別れてからの短い短い帰り道。
そっと引かれる、私の手。
ぎゅっと握られたその手をそっと握り返して、ほんの数秒、見つめ合って。
どちらともなく、微笑み合う。
ほんの一瞬、その見慣れた笑顔に私はときめいて、ちーちゃんの目から逃げるかのように前を向く。
「まったく……いくら寒いからって他人で暖をとらないで」
「えー!いいじゃんいいじゃん、だって寒いんだもん!」
そう言ってぶんぶんと振り回す手のように、いつも私はちーちゃんに振り回されてばかり。
でもそれも、本当は嫌いじゃない。
「まあ……ちーちゃんの手、温かくて好きだからいいけどさ」
そんな私の言葉に反応するように、私の手を握るちーちゃんの手の力が一瞬強くなる。
「……えへへ!私もさっちゃんの手、大好きだよ!」
そんなちーちゃんの言葉に、私の手の力も、一瞬強くなる。
ねえ、ちーちゃん。違うんだよ。
本当はね、手だけなんじゃ全然なくて……――
思わず自分の口から飛び出しそうになった言葉に恥ずかしくなって、私は先程よりもほんの少しだけ歩を早める。
こうやってちーちゃんへの想いを口にすることなんて、何度も何度も重ねてきた。
けれども、本当に言いたい言葉は一度も言えなくて。一度も、伝わらなくて。
ずっとあなたと一緒にいたいと、ずっとあなたの隣にいさせてと、そればかりを考えているのに。
今日みたいな綺麗な夕暮れの中。
何度も何度も、繋いだ手。ずっとずっと、繰り返してきたやりとりを、今日も重ねる。
夏であれば、暑さに唸るちーちゃんの手を引っ張るためで。
冬になればちーちゃんのホッカイロになるため。
きっとちーちゃんのためにあるこの手は、離さない。――離せない。
* * *
ほんの少しだけ、引っ張られる私の手。
いつだってさっちゃんはこうで、私もこうだ。
きっと最初は私がさっちゃんの手を引くんだけれども、結局はこうやってさっちゃんが私を引っ張ってくれる。
こっちって、いつだって私を励ましてくれるんだ。
あのね、さっちゃん。私はね、そういうさっちゃんの事がね、
「さっちゃん、だーいすき!」
「きゃっ!もう、ちーちゃん!?」
ぎゅうっと想いを込めて、さっちゃんの腕に抱きついて。
危ないでしょ、なんて怒ってるのに、くすくすと笑うその顔に、どきんと私の胸ははねて。
きっといくらも伝わってやしないんだろうけれども、それでもいいよ。
それでも私は、さっちゃんのことが本当に本当に好きなんだ。――大好き、なんだよ?
二人っきりの帰り道。
いつもと一緒の帰り道。
手を繋いで、ぎゅっとぎゅっとくっついて。
この鈍感な大切な人に、いつかこの想いが届いてくれたらいいななんて考えながら。
夏であれば、暑さに唸る私の手を引っ張るためで。
冬になれば二人分のホッカイロになるための、今はまだそんな意味しかないのかもしれないけれども。
ぎゅっとぎゅっと想いを込めたこの手は、離せない。――離さない。
* * *
「あーあ、家についちゃうね」
「ええ、後もう少しだけです」
あーあ、ほら。
今日もソレは、伝わらない。
今日もソレは伝わらない 唯之凪 @nagi_suke
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます