第7話 シスターズ ファッションショー 1

 メロブを出禁になった俺たちは、駅に戻って次の場所へ電車で向かった。

 

 秋葉原駅から電車に揺られることしばらく。降りたのはアキバよりお洒落な場所。

 

 駅を出て辺りを見渡してみると、アキバと違ってオタッキーな人たちはあまりおらず、大抵がよく似合ったファッションで自分の魅力をこれでもかと表現している。

 

 そんな明らかに場違いな空間で、平凡な俺は美少女すぎる烈華れっか白咲しらさきに挟まれていた。

 

 

「さて、どこに行くか」

 

「んー、あたしはお兄ちゃんと一緒ならどこでもいいよ~」

 

「ん、私も兄さんと一緒ならラ○ホでも人気のない路地裏でも、人に見つかりそうな公園の茂みでも構わない」

 

「待てこら白咲、それは違うというかいい加減そのネタ止めろ!?」

 

「ネタじゃない、私は真面目」

 

「余計にタチ悪いわっ!」

 

 機関銃のように連射されるネタ(本人曰く真面目)を捌いていると、拗ねたように烈華が頬を膨らませ目尻に涙を浮かべていた。

 

「もぅ、だからあたしを除け者にしてイチャイチャしないでよ……っ」

 

「ごっ、ごめん! けど、けしてイチャイチャしてるわけじゃないぞ?」

 

「ん、兄さん照れなくてもいい。ホントは今すぐ私とシたいんでしょ?」

 

「照れてないから少し黙ろうか?」

 

 ぜんぜん止めない白咲に少し牽制して、俯き震える烈華の頭を軽く撫でてやる。

 

 すると烈華は一瞬で機嫌を良くして、可愛らしく微笑んだ。


「えへへっ、気持ちいい~♪」


「そうか、よかった」


「ん、私も撫でてほしい」


「はいはい、わかったよ」


 猫のように喉を鳴らす烈華に和んでいると、ちょっと拗ねぎみな白咲が頭を差し出してくる。

 

 苦笑しながら二人の頭を撫でつつ、改めて「どこに行きたい?」と尋ねると、少し悩みながら二人は口を開いた。

 

「ショッピング、かな?」

 

「ウィンドウショッピング」

 

 ほぼ同じ返答をする妹たちを微笑ましく思いながら、俺は「そうするか」と頷く。

 

 こうして、俺たちのデート(仮)の指針は定まった。

 

 

 

 それから三人仲良く歩くこと数分。到着したのはB1Fから7Fまである某大型ショッピングモール。

 

 少し離れて見ているだけで目まぐるしく人が出入りするこの場所に、なんだか俺は気後れしていた。

 

 さっきから入っていく人たちほとんどイケメン美女ばかりで、烈華と白咲はともかく俺みたいな凡人が入って本当に大丈夫?ってくらい胃が痛い。

 

 そんな心配に気づいているかはわからないが、二人は楽しそうに微笑んで俺の手を引っ張る。


「ねぇ、早く行こっ♪」


「ん、楽しみ」


「……あぁ、そうだな」

 

 うん、まぁ気にする必要ないか。どうせ俺なんて誰にも見向きされないし、二人がこんなに楽しみにしてるんだから、な。

 

 少し自虐を混ぜつつも、二人の笑顔に落ち着いたのか、自動ドアをくぐる頃には心配も薄れていて。

 

 とりあえず俺も楽しもうと二人の手を握り返した。




   ─  ◇ ♡ ◇  ─




 そうして始まったデート(仮)の様子を、一部語ろうと思う。



 例えば一階のガーリー系のお店では。

 

「お兄ちゃん、こんな服はどう?」

 

 胸を強調するようなVラインの襟とフリルのあしらわれた花柄のワンピースを体に当て、「可愛いでしょ?」とどこか自慢気に尋ねてくる烈華。

 

「まぁ、可愛いけど」

 

「けど?」

 

 どうしたの? と言わんばかりに首を傾げる烈華へ事実を突きつけるべきか、俺は頭を悩ませる。

 

 白咲ならともかく、烈華だと胸が足りないというか、スカスカに──

 

「お兄ちゃん?」

 

「ヒッ」

 

 少しだけ烈華の胸と服の胸部へと目を向けていると、ふと烈華の冷たい声が耳に届き俺は情けない悲鳴を上げる。

 

 そんな俺を見てクスリと微笑を浮かべた烈華は、ヤンデレのように淀んだ瞳をこちらに向け首を傾げる。

 

「あたしの胸を見て、なにを考えてたのかなー?」

 

 なんだかくすぐったい声音なのに、頭に浮かぶのは恐怖という文字。

 

「ねぇお兄ちゃん? どうしたのかなぁ?」

 

 ゆらりと近づきくっついてくると、烈華は上目遣いで俺を見上げてくる。

 

 服越しだが烈華の柔肌と、ほんのりと染み込んでくるような体温を感じた。

 

 どうせなら腕を回して抱き締めたたた痛い痛い痛いっ!?

 

「れっ、烈華!?」

 

「お兄ちゃんのばか」

 

 拗ねたように唇を尖らせた烈華は、ぽふっと頭を押し当てるように頭突きしてきた。

 

「……どうせあたしは貧乳ですよーっだ」

 

「えっと、烈華、ごめん……?」

 

「なんで疑問系なのよぉっ! お兄ちゃんのばかぁっ!」

 

 ──なんて実妹いもうとのコンプレックスを刺激したり。




 例えば同じく一階のファンシー系を扱っているお店で。



「にゃーん」


 なんて鳴き真似をしながら、猫の仕草を真似する白咲に、俺は頭を押さえる。

 

 いや、正直めちゃくちゃ可愛いとは思う。だがそれは烈華みたいに整ったファッションから来る可愛さではなく、言うなればマスコット的な癒し要素を含んだ可愛さだ。


 なんて脳内で分析していると、無反応を否定的に受け取ったのか、白咲はしばらく考え、

 

「ん、じゃあこっち? ……にぁお」

 

 少しだけ首を傾げた白咲は、また猫の鳴き真似をしながら今度はご自慢の豊満な胸を強調するように前屈みになった。

 

 可愛いな……それにちょっとエロい。

 

 そんな感想を抱くが、それは一旦置いといて。

 

「なぁ白咲、ふざけてるのか?」

 

「ふざけてない、私は真面目」

 

「真面目にそんな格好するやつがいるか!?」

 

 なぜか自慢気に答える白咲に、俺は半ば発狂するようにそう返す。

 

 すると白咲は自分の頬に指を当て「ここにいる」と言った。

 

 これには俺も何度目になるかわからないため息を漏らす。

 

 白咲が今着ているのは、猫耳のついたパーカーとお尻に尻尾がついている着ぐるみパジャマ。

 

 白を基調としたこのパジャマは白咲と合っていて可愛いのだが、コレジャナイ感がすごい。

 

 銀髪義妹いもうとの残念さにため息を量産していると、白咲がポージングを止め「でも」と口を開いた。

 

「兄さんは少し勘違いをしている」

 

「は? 勘違い?」

 

「そう」と頷いた白咲は、おもむろに手をファスナーの引き手へと向かわせる。

 

「実はこの下に本命を隠してる」

 

「……あ、そういうことだったのか」

 

 つまり、本当に見せたい服はパジャマの下に着ていて、俺を少しからかったということか。

 

 はは、これはこれは……してやられたぜ。

 

 まんまと騙されたことに苦笑していると、白咲は引き手を少しだけ下げ「見たい?」と尋ねてきた。

 

「まぁそりゃ、その下が本命なんだろ? なら見せてくれよ」

 

「ん」

 

 小さく返事をした白咲は、少し深呼吸をしてお腹より上の辺りまで引き手を下ろした。

 

 露になったのは、とてもきれいな雪肌とたわわな果実を包むセクシーな下着。

 

 熱が籠っていたのかすべすべとした肌と柔らかな二つの膨らみは火照って赤らんでいる。

 

 …………………………。

 

「なぁ白咲? 服はどうした?」

 

「? 最初から着てない」

 

「はぁっ!? でもお前、下に着てるって──」

 

「そんなこと私は一言も言ってない。ただ〝本命を隠してる〟って言っただけ」

 

「……」

 

 そういえば。確かに先ほどまでのやり取りを思い返せば、白咲は一度も下に服を着ているとは言っていない。

 

 そう、すべては俺の勘違い、早とちりだ。

 

 なんだけど……釈然としない。

 

「あとさ、白咲」

 

「ん、どうしたの兄さん」

 

「いつまでそうしてるんだ?」

 

 俺はいまだに晒されている肌を指差しそう尋ねる。

 

 すると白咲はポンッと手を叩いて、引き手を一番下まで引き下ろした──

 

「ってなにやってんの!?」

 

 突然のことに声を荒らげると、白咲は「違うの?」と首を傾げる。

 

「私はてっきり全部見たいのかと思った」

 

「そうじゃねぇよ! 早く隠せ!」

 

 垂れ落ちそうになったパジャマを押さえ促すと、白咲は唇を尖らせ渋々とファスナーを閉めた。

 

「兄さんが襲ってくるかと期待してたのに」

 

「そんな期待は沼にでも捨て置け」

 

 ──なんて義妹いもうとに翻弄されたり。




 あとはそう、こんなこともあった。

 



 またもや一階、ガーリー系のお店。その試着室の前で烈華の着替えを待っていると、不意にカーテンが勢いよく開かれた。



「どう? お兄ちゃん」


 出てきた烈華はほんとりと朱に頬を染め、ちまっとスカートを摘まみ上げ可愛らしく尋ねてくる。

 

 パステルピンクの七分袖ブラウスはこれでもかと言うほど烈華に似合っていて、膝下まである淡いピンクのスカートも上手く噛み合っていた。

 

「うん、可愛いよ。よく似合ってる」

 

「えへへ♪ ありがとっ」

 

 思ったことをそのまま口に出すと、烈華は照れたようにはにかんだ。

 

 あー、うちの実妹いもうと可愛すぎだろ……。

 

 頭に手を当て天井を仰ぐと、烈華が「どうしたのお兄ちゃん?」と首を傾げた。

 

「いや、なんでもない。それ買うのか?」

 

 そう尋ねると烈華は「うん、そうしよっかな」と頷いてカーテンを閉めた。

 

 

 また場所変わりファンシー系のお店で。

 

 

 試着室から姿を現した白咲が、雪のような白い頬に朱色を散らし、宝石のような碧眼で俺をまっすぐと見つめてきて、

 

 

「どう? 兄さん」

 

 

 と控えめに首を傾げ感想を求めてきた。

 

 白咲が試着しているのは、中世ヨーロッパを彷彿とさせる白地のボタンフリルのブラウスと、グラデーションの利いた淡い水色のフレアスカート。

 

 ブラウスは全体的にシンプルで違和感なく、スカートもこれといった特徴はないがとてもよくまとまっている。

 

 率直に申し上げるなら、めっちゃ可愛い。

 

 烈華のように鮮やかさはなく、全体的に薄い色合いのためどこか儚い印象を受ける。

 

「似合ってるぞ、可愛い」

 

「ん、ありがと」

 

 素直に褒めると白咲は照れたのか頬を赤らめ、目線を逸らしてしまう。

 

 それでも嬉しそうに小さく微笑んでいるところが、やっぱり可愛かった。



 ──なんて可愛らしく着飾った烈華と白咲にドキドキさせられて。


 落ち着く時間なんてなかったが、気づけば居心地の悪さなんてすっかり忘れて、俺は二人とのデート(仮)を心から楽しんでいた。


 でもまだ、一階なんだよなぁ。


 ちょっとだけ、先が長いな、なんて思いながら、俺は烈華と白咲に振り回されるのだった。

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