第6話 秋葉原で兄妹デート(仮)
ちょっとしたトラブルがあったものの、俺たちは無事目的地であるオタクの聖地──秋葉原へとたどり着いた。
んー、やっぱり人多いよなぁ。
駅を出て辺りを見渡してみるが、人、人、人。中にはコスプレをしている人もいて、なんだかアキバに来たんだなと実感が湧く。
「さて、行くか」
「おーっ♪」
「ん♪」
やけにテンションの高い
やっぱりアキバに来たらまずはここだろう。
店内に入れば、そこは既に同族で埋め尽くされていて。俺は妹たちを引っ張って奥のラノベコーナーへと進む。
文庫ごとに整頓された本棚を流し見しながらお目当ての本を探していると、ふと烈華にくいっと手を引っ張られた。
「お兄ちゃん、あったよぉ♪」
なぜかとても嬉しそうに笑顔を浮かべ、烈華は二冊の文庫本を渡してきた。
タイトルを確認すると、「妹がほしい 6」と「妹がエロ漫画家であることを俺だけが知っている」……うん、俺が今日買いに来た本だ。
マジで俺のこと把握されてんだな……お兄ちゃんちょっと怖い。
ニコニコと笑顔を浮かべる烈華に少しだけ恐怖していると、不意に背中をつんつんとつつかれた。
振り向いて見ると、達成感に満ちた笑顔を浮かべた白咲が「妹を買って国づくり!」を胸に抱いて俺を見上げていた。
いかにも「褒めて!」といった眼差しを向けてくる白咲に、俺は気恥ずかしさを感じながらもキラキラと煌めく銀髪を優しく撫でる。
「んふぅ♪ 兄さん、結婚しよ?」
「この流れで『はい、喜んで』と言うわけないだろ?」
「ならえっちしよ?」
「ダメに決まってるだろ!?」
ぜんぜん妥協していない妥協案に声を荒らげると、白咲は得意気に笑みを浮かべ、
「〝嫌〟じゃなくて〝ダメ〟なんだね、兄さん♪」
「……」
ぐぬぅ、この
ドヤ顔をする白咲の頬を引っ張ろうと手を伸ばしたところで、反対から烈華が「なに二人だけイチャイチャしてるのぉ!」と抱きついてきた。
「ちょっ、ここ店内! 周りに人いる!」
「兄妹愛の前に、ただの客なんて有象無象にすぎない」
「そうだよっ、お兄ちゃん以外に興味ないし!」
「そろそろ二人とも黙ってくれませんかね!?」
マジで出禁になりそうだし、他のお客さんから殺意の視線がヤバいから! マジで、止めて!
……さて、もう胃痛で倒れそうになったが無事アニメイトでお目当ての本を買うことに成功した俺たちは、呑気気ままにアキバの道を歩いていた。
本当はもう帰ってもよかったのだが、妹たちとの外出はここしばらくなかったから、もう少しこのままでもいいんじゃないかな、と思っただけだ。
けして久しぶりに妹たちと外出できてテンションが上がっているわけではない。
「さて、どこ行こうか」
一人言のようにそう呟くと、珍しく白咲が「ん」と手を挙げた。
「メロブ行きたい」
「ん? 構わないが……
初めてアキバのメロブに来たときのことを思い出しながらそう忠告すると、白咲はいつもと変わりない表情で「大丈夫」と口にした。
まぁ白咲がいいなら俺は気にしないが……。
「烈華はどうする?」
「え? この流れであたしだけ除け者にするつもり?」
「違う違う、ただ確認しただけ」
ムッと頬を膨らませる烈華をなだめ、結局三人でメロブに行くこととなった。
階段を降りた先に広がるメロブ。もうこの時点でいろいろアウトなタペストリーや薄い本が見えている。
うん、やっぱりここは未成年によくないなぁ……。
はぁ、とため息を吐いていると、言い出した張本人の白咲は一人で店の奥へと進んでいく。
なんというか、普段大人しい代わりに自分の意思を言ったときだけ行動力あるよな。
義妹の可愛らしいところを微笑ましく思いながら、俺は烈華の手を引いて一緒に店内を回り始めた。
「烈華はなにかほしいものあるか?」
一緒に並んで本棚を眺めている烈華に尋ねると、烈華は可愛らしく唇に人差し指を当て「むぅー?」と考えだす。
そんなちょっとした仕草すら可愛いとかチートかよ、なんて思っていると、特になにも思いつかなかったのか、すぐに「なにもなーい」と小さく笑った。
「じゃあ白咲の買い物が終わったら駅戻るか」
「えっ……もうデート終わりなの?」
先ほどまで明るかった烈華はいきなりしゅんと縮こまって、寂しそうに俺を見上げてくる。
「違う違う。ずっとここじゃ二人も楽しめないだろうし、別のとこ行こうかなっと考えただけだ」
そう言うと烈華はまたコロリと表情を変え、「お兄ちゃんは優しいね」と幸せそうな笑みを浮かべた。
向けられる笑顔に少しだけドキッとした俺は、つい気恥ずかしくなって前髪をいじる。
「アハッ♪ お兄ちゃん照れてる~♪」
「う、うっさい、照れてねぇよっ」
なんて明らかに照れている態度に、烈華は「にひっ♪」と笑顔を浮かべた。
あぁもう、可愛いなぁ……っ。
「──なんて落ちは私が許さない」
「うわっ!?」
「ちょっ、なんで良い雰囲気崩すの!?」
ほしいものを無事買ってきたのか、満足気に頬を緩める白咲は、けれどジトーッとした目を俺たちに向けてため息を吐く。
「二人だけでイチャイチャしないでほしい。べつに私は3Pでも構わないから、除け者はイヤ」
「だから公衆の面前でそういうこと言うの禁止!」
「ならあおか──」
「だから禁止!」
「じゃあラ○ホで兄妹せっ──」
「もういい加減黙ろ!?」
……なんて爆弾を連続投下する義妹に息を切らし、俺たちは騒々しくメロブを後にした。
余談だが、メロブ二ヶ月出禁になった。こんちくしょう。
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