第8話 シスターズ ファッションショー 2

 二人に服を買ってからしばらく一階を歩いて回り、俺たちは二階へと移動した。

 

 こちらも一階と同じように店で埋め尽くされていて、軽く眺めているだけで頭が痛くなる。

 

 まぁここもある程度見て回ってから移動するだろう。そう呑気に考えながら烈華れっか白咲しらさきに引っ張られ着いたのは、日本人なら知らない人はいないであろう有名ブランドのお店。

 

 老若男女幅広い層の服を揃えデザインも悪くなく、しかも値段は良心的。

 

 これを一階に置けばいいんじゃないかと思いながらも二人に連れられ店の中へと足を踏み入れる。

 

 やはり対象が限定されていないからか、一階の店に比べ客層が豊かだ。

 

 

「次はここでお兄ちゃんに見てもらいます!」

 

「ん、お願い兄さん」

 

「おうわかった。最初は烈華でいいんだよな?」

 

 交互に選んでもらうという彼女たちの決め事に当て嵌めれば、次は烈華の番だ。

 

 一応確認の意味で尋ねてみると、二人は「んー」と曖昧な表情で目配せをして、烈華が「やっぱ順番とかなし」と言った。

 

「だって待ってる間暇だったし、なんなら勝負したいしねー」

 

「ん、こういうときこそ勝負のやり甲斐がある」

 

 勝負とか脳筋みたいなことを口にする妹二人に首を傾げていると、なぜか二人は火花を散らして不敵な笑みを浮かべていた。

 

 あれ? これって兄妹で仲良くショッピングするデート(仮)じゃなかったの? いつから勝負に?

 

 二人の意味を汲み取れない俺は、ただただ立ち呆けることしかできなかった。

 

 

 移動して試着室の前。店の規模が大きいから問題ないという烈華の意見で、申し訳ないが少しだけ試着室二つを占拠させてもらった。

 

 良い子のみんなは絶対にしちゃいけない。悪い子のみんなはまず良い子になれ。

 

 

「それじゃあお兄ちゃん、どういうのがいいか要望言って」

 

「……え? 二人が選んで着たのを見るだけじゃないのか?」

 

「そんなつまんないことはさせないよー?」

 

「ん、これを機会に、私たちを兄さん色に染めてほしい」

 

 白咲のは何かニュアンスがおかしかったが、まぁ二人の言いたいことは理解できた。

 

 だが、俺にできるだろうか。ファッションセンスなんてないに等しい俺が、超絶美少女の妹たちの服を選ぶなど本当にできるのか。

 

 そう自問し続け悩んでいると、ふと烈華と白咲が控えめに手を握ってきて、上目遣いでお願いしてきた。

 

「あたし、お兄ちゃんに服選んでほしい。……お兄ちゃんの〝好き〟に近づきたいの」

 

「ん、私も未来の夫の好みを把握しておきたい。その方が…………がはかどりそうだから」

 

 神経が痺れるような猫撫で声に少しドキッとしながら、俺は平然を装って「仕方ないな」と答える。

 

「やった♪ ありがと、お兄ちゃん♪」

 

「ん、嬉しい」

 

 手放しで喜ぶ二人を見て、やっぱり妹には敵わないなと思う。

 

 あーもう、可愛すぎだろうちの妹。

 

 

 

   ─  ◇ ♡ ◇  ─

 

 

 

 さて、俺が服の要望を言うと決まったのだが、ここで問題が発生した。

 

 何度でも言うがうちの妹たちは超絶可愛い美少女だ。肌だって白くてすべすべだし、体型もしっかりと管理されている。

 

 何が言いたいのかというと、何でも似合いすぎて特別言うような要望がないのだ。

 

 なんて贅沢な悩みだろう。そう考えながら俺は乏しいセンスと微妙な知識、そして己の感性をフル稼働させぼんやりとイメージを浮かべる。

 

 

「──烈華は黒系統の大人びたコーデがいいんじゃないか?」

 

「うん♪」

 

「白咲は……スカートじゃなくてパンツにしてみたらどうだ?」

 

「パンツだなんて……兄さんのえっち」

 

「下着じゃねぇよ、ボトムスの方だ」(ぺしっ)

 

 いまだにボケを止めない白咲に突っ込みを入れるが、なぜか白咲は恍惚とした表情を浮かべ「んっ」と声を漏らす。

 

「兄さん、もっとシて──」

 

「はいはい白咲、さっさと服選びに行くわよー」

 

 変なスイッチが入った白咲は、無事烈華によって連れ出された。

 

 振り返り親指を立てる烈華がかっこよくてときめいたことは、心の奥底に仕舞っておこう。

 

 

 二人が服選びに出て十数分。その間俺は試着室周りの服を眺めて二人を待っていた。

 

 メンズ、レディース共に近場の服屋より豊富で、なかなかに飽きない。

 

 それに何着か気になる服もあるし、俺も後で買おうかな?

 

 励ましてくれた店員さんを思い浮かべながらそんなことを考え、ふとスマホで時間を確認する。

 

 ふむ、昼前か。思いの外時間が経ってたな。

 

「はぁ……それにしても、二人とも遅いな」

 

 見渡せる範囲で探してみるが、二人の姿はまったく見えない。

 

 もしかして、またナンパでもされているのか?

 

 それなら兄として助けに行かねばならないのだが、電車のときと違って今はデート(仮)中、何かあれば連絡してくるはずだ。

 

 それにここは人の多いショッピングモール、そんな中で堂々とナンパするやつはあまり多くないと思う。

 

 でも、万が一ってこともあるし……。

 

 探しに行くか、ここで待っているか。長く葛藤を続け、俺は探しに行くことを決意した。

 

「よし、二人ともまっ──」

 

 

「お兄ちゃーん!」

 

「兄さん」

 

 

二人を探しに行こうと握り拳を作ったところで、突如後ろから抱きつかれ倒れそうになる。

 

 何とか持ちこたえて振り返ると、やはりそこには烈華と白咲がいた。

 

「お待たせ、お兄ちゃん♪」

 

「ん、時間をかけてじっくり選んできた」

 

「そ、そうか。とりあえず離れてくれる?」

 

 俺を押し潰す勢いで乗っかってくる二人にそう言いながら、俺は徐々に体勢を立て戻す。

 

 ふぅ、さすがに二人は重い……。

 

 

「ところでお兄ちゃん」

 

「私たちのこと心配してた?」

 

 俺から離れた二人は、少しイタズラな笑みを浮かべてそう尋ねてきた。

 

「べべべ、べつに心配してねぇし?」

 

「うっそだぁ♪ だってあたしたち見てたもん」

 

「ん、兄さんときどき辺り見渡してソワソワしてた」

 

「いぎゃぁぁぁあああああっ」

 

 見られてた!? まじで!? どこから!? というか恥ずかしいぃいいいいいっ!

 

 すっかり熱くなった顔を両手で隠し、俺はその場にうずくまる。

 

「もう顔合わせられない……」

 

「そんなに恥ずかしがらなくていいよ?」

 

「ん、心配してくれて嬉しかった」

 

 俺の肩に手を置き、二人は嬉しそうな声音でそう言う。

 

「そ、そうか?」

 

「うん、だってお兄ちゃんがあたしたちのこと大切だと思ってるから心配したんでしょ?」

 

「だから、私たちは心配されて嬉しい」

 

「ま、まぁな」

 

 なんかフォローされてるみたいで少し恥ずかしいけど、まぁいっか。

 

 

 少し落ち着いたところで、二人は選んできた服を抱え試着室に入った。

 

「じゃあ着替えてくるね、お兄ちゃん」

 

「ん、期待してて、兄さん」

 

 カーテンを閉める前にこちらを向いてそうはにかむ二人に手を振り、俺は近くの椅子に腰かける。

 

 次にカーテンが開かれたのは、それから数分後だ。

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