第35話 妹に洗われ

 烈華れっか白咲しらさきのコスプレショーが終わり、二人はエプロンを身につけ夕食の調理を始めた。

 

 夕食が完成するまでの間、俺は自室で出された課題の消化に勤しむことにした。

 

 どれも授業でやった内容で、そこまで難しいものではない。

 

 そうして課題のプリントを何枚か終わらせて時間潰しにラノベを読んでいると、不意に扉がノックされた。

 

「兄さん、ご飯できた」

 

「あぁ、わかった」

 

 読んでいたページに栞を挟み、呼びに来てくれた白咲の頭を撫でて一緒にリビングへと戻る。

 

 するとちょうど、エプロン姿の烈華がテーブルに夕食を並べていた。

 

「手伝うよ」

 

「ありがと、お兄ちゃん」

 

「ん、じゃあ私は休憩してる」

 

「白咲も手伝え」

 

 一人悠々と着席する白咲の襟首を掴み上げて、共に台所の方へと連行する。

 

 そうして三人で食卓を整えて、夕食となった。

 

 

 今夜の献立はオムライスとサラダ。

 

 なぜか俺のオムライスにはケチャップで『愛してる』と書かれているのは無視して、スプーンで一口分を口に運ぶ。

 

「どう? お兄ちゃん。今日は白咲と一緒に作ったんだよ」

 

「ん、頑張った、けど……美味しい?」

 

 二人に感想を求められ、俺は咀嚼していたものを飲み込んで頷く。

 

「あぁ、美味しいよ。白咲、料理下手なのによく頑張ったな」

 

 そう感想を伝え、少し不安そうだった白咲の頭を撫でてやる。

 

 すると白咲は安心したように柔らかく微笑んだ。

 

「もー、お兄ちゃん、あたしはー?」

 

「はいはい、烈華もいつもありがとうな」

 

 そうして頬を膨らませる烈華の頭も撫でてから、二人が頑張って作ってくれたオムライスをどんどん食べ進める。

 

「えへへ、お兄ちゃん美味しそうに食べるね」

 

「ん、見てて嬉しい」

 

「そりゃ美味しいからな」

 

 そう返すと、二人はまた嬉しそうにはにかむ。

 

 まったく、可愛いなぁ。

 

 可愛らしい二人に和みつつ、俺は舌鼓を打ちながら二人の作ってくれた夕食を頬張るのであった。




   ─  ◇ ♡ ◇  ─




 夕食後。ソファーでバラエティー番組を見ながらくつろいでいると、不意に後ろから抱きつかれた。

 

 ふむ……この感触は。

 

「どうしたんだ烈華」

 

「判断基準に異議を申し立てたいところだけど……まぁ今は許してあげる」

 

 相変わらず心を読んでくる寛容な実妹いもうとに「どうも」と返し、続けてもう一度「どうしたんだ?」と尋ねる。

 

「えっとね、お兄ちゃんお風呂入ろ~」

 

「ん、あぁいいぞ──って、え?」

 

 なんとも気軽に誘われ、つい了承してしまった。

 

「いや待て、ちょっと待って? 今なんて言った?」

 

「ふぇ? お風呂に入ろって言っただけだよ?」

 

「だけって、なにお茶飲む? みたいに軽く言ってんの?」

 

「あぁ、言っておくけどお兄ちゃんに拒否権はないからね?」

 

「ホワイ?」

 

 続けて告げられた内容に、つい英語が出てしまった。

 

 いや、べつに俺は外国人でもハーフでもないけど。

 

「これは昨日、お兄ちゃんが腹黒先輩とデートの約束をした罰だから」

 

「そうか……なんで?」

 

 デートの約束しただけで一緒に入浴とか、控えめに言って理解に苦しむ。

 

 正直、なぜそんなことで罰を課せられなければならないのかわからない。

 

 だが空かさず烈華が「だって」と心を読んだように口を開いた。

 

「あたしと白咲は、お兄ちゃんにちゃんと告白してるんだよ? それなのに他の女とデートなんて……」

 

 そう語っていくうちに、烈華の表情が徐々に暗くなっていく。

 

 その姿に、俺はやってしまったと罪悪感を覚えた。

 

 妹でも、恋する一人の乙女というわけだ。

 

 ……まぁ、今回は甘んじて受け入れてもいい、かな。

 

 俺は一つため息を吐いて、烈華の頭に手を乗せる。

 

「わかったよ。ただし、水着着用、絶対に襲わないこと、変なところを触らないこと。これが条件な」

 

「なんで罰なのにお兄ちゃんが決めるの? まぁいいけど」

 

 そうして、俺は烈華と白咲と共に入浴することとなった。




   ─  ◇ ♡ ◇  ─




 湯気の立ち込める個室。ほぼ全裸の格好でバスチェアに腰掛け、俺は胸中でお経を延々と唱えていた。

 

「お兄ちゃん、ドキドキする?」

 

「ん、私たちはすごいドキドキしてる」

 

 背後から烈華と白咲の声が聞こえてきて、ついお経が途切れてしまうも冷静を装いながら「べつに、普通だ」と返答する。

 

「へぇ、ホントかなぁ?」

 

「ん、それにしては顔が赤い」

 

 壁かけ鏡越しに二人と目が合う。

 

 そこに映る俺の顔は誰がどう見ても赤面していて、背後にいる二人は愉快そうに目を細めている。

 

「えへへっ、お兄ちゃん可愛いー♪」

 

「ん、襲いたくなっちゃう」

 

「ホント、二人とも変わらないな……」

 

 男子のロマンである状況にドキドキしながらも、全然調子の変わらない二人に安堵する。

 

 ……いや、狙われる側の俺が安心していいのか?

 

 なんてちょっと自分を見失っていると、突如背中に柔らかい感触が二つ押しつけられた。

 

 振り返ったり、鏡で確認しなくても、二人が抱きついてきたということはわかる。

 

 最近はそういう機会が多いため慣れてはきていたのだが、さすがに現状だと互いに肌の露出が多いので、感触が生々しく心臓に悪い。

 

「にははっ、お兄ちゃん照れてるー♪」

 

「ん、そんな反応されちゃうと我慢できなくなっちゃう」

 

「ちょっ、いいから離れろよっ」

 

 慌ててそう声を上げるも、二人は腕を回して離れないと言わんばかりに抱き締めてきた。

 

「お兄ちゃん、そろそろシよ?」

 

「ん、もう我慢できない」

 

 耳元でそう囁かれ、名状しがたい衝撃が体を駆け巡る。

 

 その痺れるような感覚に戸惑いながらも、冷静を保つためにため息を一つ溢す。

 

「はいはい、なら早く体を洗ってくれ」

 

 諦めるようにそう言うと、二人は心底嬉しそうに「はーい」と返事をした。

 

 

「じゃあ洗うよ」

 

「ん、ちょっと冷たいかもしれない」

 

「大丈夫だ」

 

 二人の確認に頷くと、ペタリとぬめりのある感触が背中に触れた。

 

「お兄ちゃんの背中、ちょっと硬いー」

 

「ん、筋肉がしっかりしてる。濡れる」

 

 白咲の発言は無視して、俺は「中学のとき運動してたからなぁ」と答える。

 

「うん、知ってるよ。バスケやってるお兄ちゃんかっこよかったなぁ」

 

「ん、何度見ても惚れ惚れする」

 

 過去の自分を褒められ、気恥ずかしさに黙ってしまう。

 

「あははっ、お兄ちゃん照れてる~♪」

 

「ん、兄さん可愛い」

 

「はいはい、そういうのいいから」

 

 からかってくる妹たちをあしらいながら人知れずため息を溢していると、不意に大きな果実が背中に押しつけられた。

 

「あ、あ、ちょっ、白咲!?」

 

「おっぱいで洗う、兄さんのコレクションにあった」

 

 そうだけど! そうだけどぉおおお!

 

「んっしょ、んっ」

 

「ちょっ、白咲ぃ!? 上下に動かすの止めてくれる?」

 

「ん、私はただ兄さんの体を洗ってるだけ。問題はない」

 

「問題しかねぇよ!?」

 

 白咲の持つ凶悪な二つの果実がこすれ、電気ショックのような刺激が体を駆け抜ける。

 

 ヤバい、これはヤバい。

 

 白咲の胸の感触に危機感を覚えていると、しばらく動きのなかった烈華が目の前に回り込んできた。

 

 水着をつけているとはいえ、肌色成分が多くつい目を逸らしてしまう。

 

「もぅ、白咲が背中占領しちゃうから、あたしは前ーっ」

 

 そう言うと、烈華は白咲に張り合うよう抱きついてきた。

 

 浴室で、正面と背後から妹に抱きつかれる。なんて状況だろうか。

 

 あまりの状況に放心していると、烈華も白咲に倣って動き始めた。

 

 烈華の持っているものは、白咲に比べれば小さいものだが、それでも感触は柔らかく俺の理性を否応なく削ってくる。

 

「えへへっ、お兄ちゃん、気持ち良い?」

 

「んっ、私は興奮してきた」

 

 そんな二人の声が、どこか遠くに聞こえる。

 

 あれ、おかしいな。視界がぼやけてきて……。

 

 気づけば体に力が入らず、上手く頭が回らない。

 

 あ、これあのときと同じだ。

 

 朧気な思考の中で、春休みに気絶した日のことを思い出す。

 

 また、気絶する……のか。

 

 そう苦笑して──俺の意識は途切れた。

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