第34話 妹七変化!

 第一の試練誘惑裸エプロンを耐え凌いだ俺は、コーヒーを飲みながらテレビを見ていた。

 

 だが朝の番組はどれもニュースばかりで、様々な問題が取り上げられるばかり。

 

 うぅむ、また煽り運転か。学習しないなぁ。

 

 聞き慣れてしまったその単語に呆れため息を吐いていると、両サイドの烈華れっか白咲しらさきが揃って口を開いた。



「ホント、大人って揃ってバカしかいないね」


「ん、愚かすぎ」

 

 同感だが、そういう発言はなるべく控えた方がいいのではないだろうか。

 

「だってホントのことだし」

 

「ん、問題を起こす時点で罵倒されても仕方ない」

 

「考え方が過激すぎない?」

 

 やけに辛口な二人に少し震えつつ、またコーヒーを一口すする。

 

 注記しておくが、このコーヒーは自分で淹れたものだ。以前のように睡眠薬でも盛られては困るからな。

 

 それと、

 

「近くない?」

 

 まるで定位置と言わんばかりに密着して座っている二人に、ため息を呑み込んでそう尋ねる。

 

 だが二人はきょとんとした様子で首を傾げ、

 

「お兄ちゃんの勘違いじゃない?」

 

「ん、適切な兄妹の距離感」

 

 え、なにこのデジャブ。

 

 というか、二の腕に胸が押しつけられる距離が適切とか冗談にもほどがある。

 

 まぁ二人がこうなのは慣れたことなので、諦めてため息と一緒に不満を吐き出す。

 

 それに裸エプロンのようにせいへ……好みをピンポイント狙われるよりは、こうしてくっつかれる方がまだマシだ。

 

 べつに二の腕に当たる感触に役得だとか思ってない。

 

 ただ比較してマシというだけで、他意はない。他意はないのだ。

 

 なんて言い訳を誰に言うわけでもなく自分に言い聞かせ冷静を保つ。

 

 この調子なら、十日間くらい余裕で耐えられるな。

 

 

 ──だが、そんな平穏はそう長くは続かなかった。

 

 

 ニュース内容に酷評を連発していた二人だが、突如として立ち上がるとリビングから出ていってしまった。

 

 あまりの唐突な行動に唖然としてしまう。

 

 それから数分。廊下の方から聞こえてくる音に耳を澄ませていると、勢いよく扉が開かれた。

 

 そこには先程出ていった二人がドヤ顔で佇んでいた。……メイド服で。

 

 空いた胸元やミニスカ、フリルといった萌えを重視したメイド服を身にまとった二人は、笑顔のままきれいな足取りで俺の前までやって来た。

 

 そして床に膝を突き、繊細な指をソファーと俺の太ももに這わせると、欲望に染まった顔で──



「「ご奉仕させてください、ご主人様っ♪」」



「ダメに決まってるだろ!?」


 なんとも薄い本のような展開に、俺は空かさず突っ込みを入れる。


 すると二人は「えー」と不満が籠った声を漏らす。


「お兄ちゃんのコレクション通りにしたんだけどなぁ」


「ん、これならイけると思った」


「知らん、そんなものは知らない。というかそれどこで買った?」

 

 相変わらず侵害されるプライバシーのことは諦めて、凝った意匠のメイド服を指差して尋ねる。


「もちろん通販だよ」

 

「ん、ゴールド会員の割引で安く買えた」

 

 そうブイサインする理由がよくわからない。


 もしかすると、以前監禁されたとき手足にめられていた手錠も、そこのサイトで買ったのではないだろうか。


 それに〝ゴールド会員〟ということは、相当買っているのだろう。


 中身が気になるがそれはさておき。


「いつまでそうしてるつもりだ?」


 いまだ俺の足元で膝立ちになっている二人にそう尋ねる。


「えー? メイド服ダメだったー?」

 

「ん、ダメ?」

 

「いや、ダメじゃない、むしろすごく似合ってて可愛いけど」

 

 そう感想を口にすると、烈華と白咲はしょぼんと垂れた瞳を輝かせた。

 

「だからって手を出すわけないだろ?」

 

「「むー」」

 

 だがすぐに頬を膨らませ拗ねてしまう。

 

 そんな姿も可愛いのだが、今言ってしまうと調子に乗るので我慢しておく。

 

 なにも考えずに褒めれたらなぁと考えていると、なにやら二人はブツブツと小声で話し合っていた。

 

「もー、これじゃダメかぁ」

 

「ん、次の服にする」

 

「え、まって、次って?」

 

 直後聞こえた単語に耳を疑い慌てて聞き返すも、烈華と白咲は素早くリビングを出ていってしまう。

 

 正直嫌な予感しかしない。


 そうげんなりとしながら着替えているであろう二人を待つことさらに数分。



「じゃーん! これならどう? お兄ちゃん」

 

「ん、これは自信作」

 

 

 今度はスク水姿で登場してきた。

 

 一見学校指定のものかと思ったが、デザインが少々萌えに走っており通販で購入したものだとわかる。

 

 それに加え、胸元には『れっか』『しらさき』と丸い字で書かれていて、それがオタク心を刺激してきた。

 

 それに白咲の方は、豊満な胸の谷間に布地が吸い込まれ、そのシルエットがはっきりと浮かび上がっている。

 

 これはエロい。

 

 あまりの姿に呆けていると、烈華と白咲が顔を見合わせ小さく微笑んだ。

 

「お兄ちゃん視線がえっちぃよー♪」

 

「ん、そんなに見られると感じちゃう」

 

 笑顔に少しだけときめくも、二人の発言で冷静になってしまう。

 

 これが俗に言う残念系美少女か。

 

「どう? あたしたちとシたくなった?」

 

「ん、私たちの方は準備万端」

 

「安心しろ、その気は一切起きてない」

 

 スク水姿で首を傾げる二人に、俺ははっきりと断言する。


 するとまた残念そうに肩を落とし、再び廊下へと消えていった。



 ……え? まだ続くの?




   ─  ◇ ♡ ◇  ─




 それから数時間。途中に昼食を交えながら烈華と白咲のコスプレは続いた。

 

 ナース、チアガール、バニーガール、巫女服、他にもアニメなどの衣装とレパートリーが豊富で、誘惑されているとわかっていながらもついつい見惚れてしまう。

 

 まさに眼福、役得だと楽しみながら二人の猛襲を回避して、気づけば夕暮れ。


 さすがに着替えを繰り返しすぎて体が冷えたらしく、二人のコスプレショーは幕を閉じた。



 今は冷えた体を暖めるという体で、二人は俺に抱きついてきていた。

 

 まぁ今まで受けた誘惑に比べれば大したことはないので、その建前に乗っておく。

 

「えへへー♪ お兄ちゃんあったかーい♪」

 

「ん、アソコまで温かくなっちゃう……♡」

 

 サラッと吐き出される発言は無視しつつ、猫のように頬擦りしてくる二人の頭を撫でてやる。

 

 すると二人は気持ち良さそうに喉を鳴らした。

 

「お兄ちゃんが優しいー♪」

 

「ん、ますます惚れちゃう」

 

 うっとりとした表情を浮かべる烈華と白咲。

 

 ある意味期待を裏切らない二人に呆れるも、可愛らしい笑みにつられて俺も気づけば笑みを溢していた。

 

 

「やっぱり可愛いなぁ」

 

 

「「っ!?」」

 

 一瞬、沈黙がリビングを支配した。

 

 ……もしかして口に出てた?

 

 思わず口を手で塞ぐも、時既に遅し。

 

 恐る恐る二人の様子を確認すると、揃って顔を真っ赤に染め上げぷるぷると震えていた。

 

 あ、れ? 発情して襲ってこない?

 

 そう首を傾げていると、烈華と白咲が震えた声で言葉を紡ぐ。

 

「ふ、不意討ちは卑怯だよぉ」

 

「ん、ちょっと恥ずかしい」

 

 再び浮き上がった二人のピュアな一面に、俺は思わず悶えてしまう。

 

 そして同時に、子供のようなイタズラ心が生まれたことを自覚する。

 

「照れてる二人も可愛いな」

 

 そして今度は意図して、そう口に出す。

 

 すると案の定、二人は耳まで紅潮させ、俺の腕に顔を埋めた。

 

「もぅ! お兄ちゃんのいじわるぅ!」

 

「ん、兄さんのドSぅ……っ」

 

 恨めしそうに瞳だけ覗かせて唸る烈華と白咲。

 

 珍しく二人に勝てて、俺は人知れず優越感に浸るのであった。

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