第28話 妹と屋上の一時

 本人の預かり知らぬところで決定された昼休みの予定。

 

 本日は妹たちと昼食を共にする日となっている。

 

 そのため俺は、普段ならゆっくりと行動をする四時間目終わりに、急いで片付けと次の授業の準備を済ませ烈華れっか白咲しらさきを迎えに行った。

 

 ついでにこれは、二人からの要望だ。

 

 一つ下の、去年まで俺たちが使っていた階へ久々に赴き、教えてもらった教室へと向かう。

 

 

「おい、あれって二年生だよな」

 

「あぁ、なんで一年生の階にいるんだ?」

 

「ナンパとか?」

 

「えー、そんな大胆なことできる顔じゃなーい」

 

 

 やはり一年の階に二年生がいるのは目立つわけで、廊下を歩く中そんな会話が聞こえてきた。

 

 というか最後のやつ、めっちゃ失礼だな。まぁそこまで顔に自信があるわけでもないが……。

 

 

 後輩たちのヒソヒソ話に若干ダメージを受けつつ廊下を歩むこと少し。烈華と白咲の教室に辿り着き、開いている教室前の扉から中を覗き込む。

 

 そこで目撃したのは、クラスメイトに囲まれた二人の姿。

 

 主に女子が中心となり烈華と白咲に話しかけ、男子が遠巻きにしている光景はなかなかに新鮮だ。

 

 昔から二人は俺と一緒にいたがる節があり、家に友達を呼んだことがない二人がこうして人と話しているのを見ると、感動で涙が出てきそうである。

 

 お兄ちゃん、嬉しいよ……っ。

 

 そう涙ぐみながら二人を眺めていると、ふと周りからいぶかるような視線を向けられていることに気づく。

 

 それもそうだろう。俺と二人が兄妹ということを考慮しても、下級生の教室を覗く上級生という構図は完全にアウト。不審者以外の何者でもない。

 

 向けられる多くの視線に冷や汗を流していると、教室の中から「あっ!」と聞き親しんだ声が聞こえてきた。

 

 振り返ってみれば、クラスメイトに囲まれていた烈華と白咲がこちらに目を向けていた。どうやら俺の存在に気づいたらしい。

 

 二人はクラスメイトたちを分けて出てくると、可愛らしい弁当包みを片手に着く駆け寄ってきた。

 

「お兄ちゃん、遅い!」

 

「ん、待った」

 

 烈華と白咲はぷくーっと頬を膨らませ、可愛らしく怒ってくる。

 

 怒る姿も可愛い。なんて空気も読めず和むことができたら、どれだけ幸せなことだろうか。


「……チッ」

 

「烈華さんと白咲さんに馴れ馴れしくしやがって……」

 

「あんな感情豊かな表情見たことないぞ!」

 

 教室や廊下から、男子の嫉妬に染まった視線が複数突き刺さってくる。

 

 うん、まぁ……烈華と白咲は超絶美少女だからな、仕方ないよな。

 

 なんて渋々頷いていると、今度は女子たちの楽しそうな会話が耳に届いてくる。

 

「あれが烈華ちゃんの話してたお兄さん? なんか普通よね」

 

「うん。でもすごい優しそう。二人もさっきより明るいし、お兄さんのことが好きなんだね」

 

「なんか甘い空気よね。もしかして……な関係だったり?」

 

「キャー!」と黄色い声を上げる。なんとも楽しそうだ。

 

「お兄ちゃん? 話聞いてる?」

 

「ん、人の話はちゃんと聞く」

 

「あー、ごめんごめん。それじゃあ行くか」

 

 ムスッとした表情の二人が俺の顔を覗き込んでくる。

 

 うーん、可愛い。

 

 どうやら俺は空気が読めない、能天気野郎だったようだ。

 

 それはさておき。

 

 様々な視線が向けられメンタルがボロボロになっているので、俺は「そろそろ昼飯食べようか」と二人に提案する。

 

 すると二人は拗ねた様子を一転させ、嬉しそうに「うん!」と頷いた。

 

 ふぅ、これで後輩(特に男子)から逃れられる。

 

 そう安堵しながら、俺は二人と共に一年の教室を後にした。

 

 

 ……余談だが、一年の間で様々なうわさが立っていたらしい。

 

 

 

   ─  ◇ ♡ ◇  ─

 

 

 

 場所変わって、オタクなら誰しもが憧れる屋上。

 

 うちの高校は近辺でも珍しく屋上が開放されていて、生徒教員問わず自由に立ち入ることができる。

 

 俺たちのように昼飯を食べに来る生徒も多いらしいが、今は俺たち以外誰もいない。

 

 だからといって自由に屋上を使うわけでもなく、フェンス近くのところに三人集まる。

 

「ふー、これでお昼が食べれるよ」

 

「ん、お腹空いた」

 

 ため息を溢しながら二人は弁当箱を取り出す。

 

 もちろん作っているのは烈華なので、おかずもなにも全て一緒だ。

 

 

「ところで、二人はいつもああなのか?」

 

 食事中、おかずを飲み込んでそんな質問を投げかける。

 

「うん、まぁそうだね」

 

「ん、いつも質問責めにされる」

 

 苦笑を浮かべる烈華と、げんなりとため息を吐く白咲。

 

 多少は困っているが、嫌というわけでもない。といったところか。

 

「もー、あたしたちのことはいいから、イチャイチャしよー!」

 

「ん、濃厚な昼休みを過ごす」

 

 そう言って、二人はおかずが溢れないよう器用に俺の両隣に移動してきた。

 

「えへへ~、お兄ちゃん好き~♪」

 

「ん、兄さん、愛してる……♪」

 

 いつものような誘惑ではなく、妹らしく甘えてくる二人に、抱き締めたい衝動に駆られる。

 

 しかも今の二人は制服。二人が体育座りをすることで、膝上くらいのスカートがめくれ男子を誘惑する光景を作り出す。

 

 加えてフェチの中でも鉄板なニーソ(今回はハイソ)が魅力を倍増させている。

 

 あれ、おかしいな。制服なのになんかエロい。

 

 妹たちに誘惑されすぎて認識が侵食されているのか、そんな感想が思い浮かんだ。

 

 

「ねぇお兄ちゃん、制服姿のあたしたちエロい?」

 

「ん、校則の範囲で兄さんの好みに寄せてみた」

 

 なるほど、だから魅力的なのか。

 

 そう納得してしまう自分が恐ろしいが、今はそんなことどうでもいい。

 

「まぁ、なんだ……可愛いと思うぞ」

 

 エロいかエロくないかはともかく、俺は率直な感想を口にする。

 

 すると二人は少し期待外れといわんばかりに唇を尖らせ、だがすぐに柔らかくはにかんだ。

 

 

 そうして話しているうちに弁当の中身は空になっていき、昼休みも残りわずか。

 

 フェンスに身をゆだね心地よい風に吹かれていると、不意に二人が寄り添うよう肩に頭を乗せてきた。

 

「お兄ちゃん、頭撫でてー」

 

 無邪気にお願いしてくる烈華に、俺は苦笑しながら要望通り綺麗な髪を撫でてやる。

 

 すると烈華は気持ち良さそうに「んぅ~♪」と喉を鳴らす。

 

 まるで猫みたいだな。

 

 そう烈華の様子に和んでいると、反対側の袖がクイクイと引っ張られた。

 

 そちらを向いてみると、白咲が頬を膨らませジト目を向けてきていた。どうやら拗ねているらしい。

 

 無言の訴えに、俺は「わかったよ」と頷き烈華同様、頭を撫でてやる。

 

「ん……♪」

 

 無言ながら、白咲は嬉しそうに目を細める。

 

 烈華も白咲も可愛すぎるんだが。

 

 久々に可愛らしく甘えてくる妹たちに、俺の精神はゆっくりと癒されていった。

 

 

 結局俺は、両手に花もとい両手に妹の状態で残りの時間を過ごすのであった。

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