第23話 昼休みの乱入者(妹)

 入学式の翌日。本校ではどの学年でも、小テストが実施される。

 

 春休み間にしっかりと復習していればどうということはないレベルなのだが、毎年数人は赤点を取り補習を課せられるらしい。

 

 もちろん、俺は程々に復習をしていたので問題はない。自己採点では中の上から上の中辺りだ。

 

 それからもう一時間授業に耐え、待ちに待った昼休みが訪れた。

 

 午前頭の三時間がテストだったためか、クラスメイトたちは机に伏せたり「疲れたー」とか「めんどー」といった言葉を飛び交わす。

 

 なんか、学校って感じがするなー。

 

 そんな風景に、俺は新学期が始まったことを改めて実感するのであった。

 

 

 

   ─  ◇ ♡ ◇  ─

 

 

 

「ねぇ穂高ほだか、クラス替わりなさいよ」

 

「残念ながら、それは無理な相談だ」

 

 あれから数分後。俺は博隆ひろたかあずさと一緒に昼飯を食べていた。

 

 そんな中で、唯一同じクラスになれなかった梓が恨めしそうに俺を睨んでくる。

 

 もともと目つきが鋭くて怖いので、是非睨まないでほしい。

 

「はぁ……ヒロと同じクラスになりたかったのに」

 

「まぁまぁ、休み時間は会えるんだし、放課後も一緒に帰るんだからいいだろ?」

 

 先程からため息を量産する梓に、空かさず博隆がフォローを入れる。

 

 サラッと口にしているが、内容がリア充すぎてヤバい。

 

 だが梓は「でも……」と表情を曇らせる。

 

「クラス行事とか一緒にできないし……」

 

 いつもは気が強い梓が、捨て猫のようにシュンとなって肩を落とす。

 

 なんとも珍しい光景に、俺はつい笑みを溢してしまう。

 

「あ? なに笑ってんのよ、殴られたいの?」

 

すねを蹴りながら拳を構えないでくれませんかね?」

 

 ゲシゲシとつま先で蹴られ、俺は降参の意を示すように両手を上げる。

 

 すると博隆が愉快そうに豪快な笑い声を上げ、「やっぱり仲良いなー」と口に出した。

 

「ちょっと止めてくれる? お前、それ言い続けたら死ぬよ? 俺が」

 

 殺意の波動に目覚めてそうな梓に睨まれながら、俺は博隆の頭にチョップをかます。

 

「穂高、なにヒロを叩いてんのよ。殴られたいの?」

 

「既に蹴られてるから殴るのは勘弁してくれ」

 

 再び拳を振りかざす梓に、俺はため息混じりに白旗を上げる。

 

 まったく、彼氏の友人を八つ当たりの対象にするんじゃない。

 

「梓、そんな怒ってばっかだと折角の美人が台無しだぞ? ほら、卵焼きでも食って機嫌直せよ」

 

 博隆は歯の浮くようなセリフを平然と吐きながら、自らの弁当に入っていた卵焼きを梓に差し出す。

 

 すると梓は乙女のように頬を赤らめ、恥じらいながら博隆の卵焼きを食べた。

 

 俺はなぜ、カップルの『あーん』を見せつけられているのだろうか。

 

 去年から思っていたのだが、俺場違いすぎじゃね?

 

 そんな疑問をおかずと共に咀嚼していると──

 

 

「お兄ちゃーん!」

 

「兄さん、お待たせ」

 

 

 二年の教室に、なぜか一年である二人の声が響いてきた。

 

 

 

   ─  ◇ ♡ ◇  ─

 

 

 

「……んで、なんで来たんだ?」

 

 烈華れっか白咲しらさきの登場に教室がざわめいてしばらく。やっと空気が落ち着いて、なぜか二人は俺の両サイドに、ピッタリと密着して座っていた。

 

 椅子はバカな男子が貸してくれた。下心が丸見えだが……あとで釘を刺しておこう。

 

 閑話休題。俺はごく自然に昼食を食べ始める烈華と白咲に、ため息を溢しながら用件を尋ねた。

 

 すると二人は箸を止め、キョトンとした顔で小首を傾げる。

 

「お兄ちゃんと一緒にお昼食べたかったからだよ?」

 

「ん、それ以外に理由はない」

 

 そう答え、二人は食事を再開する。

 

 あーもう……なんというか、あー……。

 

 色々と心配事が多すぎて、上手く言葉にすることができない。

 

 だがとりあえず、俺は一番の懸念事項について尋ねることにした。

 

「クラスメイトと一緒に食べなくていいのか? 昼食は絶好の交流する機会だと思うけど」

 

「大丈夫、もう友達できたし」

 

「ん、兄さんとお昼食べる日を決めて、それ以外の日に一緒に食べることにした」

 

「……え、待って。俺いつ一緒に食べるとか決めてないんだけど」

 

「勝手に決めたよ。いいでしょ、お兄ちゃん♪」

 

「ん、兄さんは基本暇だから大丈夫」

 

 兄の昼休みを暇だと確定しないでもらえますかね? いやまぁ、確かに暇だけども。

 

 だが、もうその方向で話がまとまっているなら俺が口を出すことはないだろう。

 

 ……俺の昼休みのことなのに、本人が口を出せないとはこれ如何いかに。

 

 そう渋々納得している間に弁当の中身は空になって、昼食を終えた。

 

 博隆と梓は完全に二人の空間に入り、イチャイチャしている。

 

 非リアには耐え難い空間だ……。

 

 そうげんなりしていると、不意に左手を掴まれた。

 

 俺の左側に座っているのは烈華。つまり犯人も烈華なのだが──

 

「っ!?」

 

 なにか用かと尋ねようとした寸前、掌に仄かに温かい熱を持った柔らかいモノが触れた。

 

 視線だけ下ろしてみると、烈華は大胆にも俺の手を自らの太ももに当てていたのだ。

 

 すべすべとしたきめ細かな柔肌は、少し撫でるだけで俺の思考を溶かしていく。

 

「安心して、向き的にあたしの体で外の人からは見えないよ」

 

 どこに安心すればいいのか。ちょっとお兄ちゃんわかんない。

 

「……」

 

「……。にへへっ♪」

 

 手を離してくれと目で訴えかけてみると、烈華は少し照れたようにはにかんだ。

 

 チクショウ、可愛いなぁ!

 

 学校でもイタズラ(?)を止めない烈華に呆れていると、今度は右手を掴まれ誘導された。

 

 行動を起こしたのは白咲。指先の感触でどこに触らされているのか想像してみるも、布だということしかわからない。

 

 仕方なくチラリを目を向けてみれば──俺の手は白咲のスカートの奥へといざわれていた。

 

 つまり、俺が触ってる布は──っ!?

 

 衝撃すぎる事実に、俺は言葉を失う。

 

「んっ、兄さん……大胆」

 

 大胆なのはどっちだと心の中で文句を呟く。

 

 さいわい、白咲も密着しているためクラスメイトに目撃されることはないが……それでもリスキーすぎる。

 

 バレないかという恐怖と妹たちの色々な熱にドキドキすることしばらく。

 

 

「穂高、顔真っ赤だけど大丈夫か?」

 

「……あぁ、大丈夫だ問題ない」

 

「まさか妹に欲情してんじゃないの?」

 

 むしろ妹が兄に欲情してるんだが。なんて言葉を呑み込んで、俺は「ちげぇよ」と適当に否定した。

 

「いひひ~♪ お兄ちゃん可愛いーっ♪」

 

「ん、濡れてきちゃう……っ」

 

 お願いだから止めてくれ。

 

 教室でスイッチが入りそうな妹たちに寿命を縮められ、新学期最初の昼休みは過ぎていったのであった。

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