第21話 部活勧誘
「どうしたんだ? 二人とも」
クラスメイトたちからの注目を浴びながら、やって来た
すると二人は、いつもと違い純粋無垢のような明るい笑みを浮かべ、
「お兄ちゃんに会いたかったから」
「兄さんと一緒にいたかった」
と声を揃えて答えた。
うーむ、兄としては嬉しいことなのだが、初日から俺のところに来るというのは
入学して一週間くらいはグループがまだ落ち着かない頃だから、クラスメイトと交流した方がいいとは思うが……。
そんな俺の懸念を読み取ったのか、二人は「大丈夫」と笑ってみせる。
「クラスメイトとは充分話したから」
「ん、頑張った……」
褒めてと言わんばかりに瞳を輝かせる烈華に対し、白咲は心底疲れたようにため息を吐く。
コミュ力カンストのリア充気質な烈華はともかく、人見知りの白咲が初対面のクラスメイトと会話したのかと考えると、なんとも感慨深い。
お兄ちゃん、嬉しいよ……。
なぜだ……。
「そういえば、二人はクラス分けどうだったんだ?」
「あたしたち一緒だよ♪」
「ん、正直助かった……」
「あはは」
それぞれの反応を示す妹たちに苦笑が漏れる。
だがとりあえず、初日は何事もなかったようだ。
「──おいおい、ニーナちゃんが後輩二人を侍らせてるぞ」
「いや待て、あの二人は稲穂のことを〝お兄ちゃん〟や〝兄さん〟と呼んでる。たぶん妹だ」
「はぁ? あんな美少女二人が妹とか羨ましすぎるだろ」
妹たちとの会話を楽しんでいると、ふとそんな会話が聞こえてきた。
相変わらず使われるあだ名にため息を溢していると、烈華と白咲がふくろうのように首を傾げていた。頭上にはいくつもの疑問符が浮かんでいる。
戸惑っている二人に苦笑していると、男子グループから
「やぁ烈華ちゃん白咲ちゃん、お久しぶり」
必殺、イケメンの微笑み。
この笑顔を向けられた大抵の女子は照れたり赤面してしまう。
ケッ、挨拶するだけでその気にさせるとか、これだからイケメンは。
だが兄LOVE(俺しか知らないが)な妹たちにはそんな先制攻撃も効かず、むしろ頬を引き
そういえばゲーセンの帰りに聞いたのだが、二人は博隆のことがあまり好きではないらしい。理由はいつも俺を取っていくから、らしい。
つまりは焼きもち。可愛すぎるだろコンチクショウ。
そんな二人は、ここが学校だからと我慢しているのかぎこちない笑みを返した。
「お久しぶりです、
「……ん、どうも」
「あれ、なんか硬いな。もしかして緊張してる?」
「いえー、そんなことありませんよー」
「ん、心配ご無用」
声音こそ普通だが、明らかに棒読みで態度が素っ気ない。
これでも察せずにヘラヘラ笑っている辺り、博隆は鈍感なのだろう。
「──で、烈華と白咲はホントになにしに来たんだ?」
流れが落ち着き、俺は改めて妹たちに尋ねる。
するとどこか演技じみた恥じらいを見せて、とても甘ったるい猫撫で声で「あのね」と口を開いた。
「お兄ちゃんと一緒に帰りたいなぁって、思って」
「ん、早く兄さんと私たちの愛の巣に帰りたい」
人前で、しかも学校でぶっ飛んだ発言をした白咲にはあとでお仕置きをしなければならないが、
「部活勧誘があるだろ。二人はどこかに入部しないのか?」
うちの高校は入学式のあとに、校舎から校門までの道や部室棟で部活勧誘を行っている。
場所は広いが無作為に行っているわけではなく、毎年毎年話し合いの上どの部活がどこで勧誘をするかを決めているのだ。
だが大抵は人気な運動部や実績のある部活が校舎前で、文化部が部室棟となっている。
「んー、特に入部するつもりはないかな」
「ん、私も。部活なんて面倒」
まぁなんともやる気のない妹たちだこと。
「まぁまぁ、見学だけでも行ってみたらどうだ? そうだな、烈華には創作料理研究部とかいいと思うぞ。白咲は無難に文芸部辺りか?」
「創作料理かぁ……面白そうだけど、入部する気にはならないかな」
「ん、私を無法地帯に放り込むなんて、兄さんの鬼畜」
文芸部を無法地帯と呼ぶのは止めて差し上げろ。
「部活いいと思うよ。烈華ちゃんと白咲ちゃんなら、きっとすぐ人気者になれるだろうし!」
博隆の言葉に二人は渋い顔をする。この場合、嫌なのは部活なのか博隆なのか、よくわからないが。
「穂高が奨めた部活でもいいし、運動部でもいいと思うよ! うちは女子の運動部も充実してるし、卓球とか強かったよな」
博隆に同調を求められ、俺は「そういえばそうだったな」と軽く頷く。
さすがは運動部、押しが強い。
だが博隆の熱血な押しにも二人は動じず、むしろ冷める勢いですらある。
「お兄ちゃんとの時間が潰れるのは嫌だなー」
「ん、部活するくらいなら兄さんとイチャイチャしたい」
ただ断るのでは埒が明かないと思ったのか、二人は博隆の前でも恥ずかしげもなくそんなことを口にする。
それを聞いた博隆は「愛されてんな!」と俺の背中を強く叩いた。
痛いので是非とも止めていただきたい。
「でもそういうことなら、一緒に帰れないぞ?」
入部しないと意思表明した二人に、俺は「先に帰るか?」と尋ねる。
すると烈華と白咲は驚いたまま固まってしまった。
「ど、どういうこと?」
「部活勧誘があるんだよ」
「兄さんは新入生だから関係ないはず」
「いや、勧誘〝される〟側じゃなくて、〝する〟側だから」
どうして俺が勧誘される
「お兄ちゃん、部活に入ってたの?」
「あの兄さんが?」
「あの兄さんがどの兄さんかわかんないけど、俺は部活やってるよ」
そう答えると、二人は明らか様に「意外」と言いたげな表情を浮かべた。
「お兄ちゃんが入部してるのって、何部?」
「ん、私も気になる」
驚きながらもグイグイと尋ねてくる二人に、俺は「今から行くし、二人もついて来るか?」と提案する。
すると烈華と白咲はすぐに「うん!」と頷いた。
「じゃ、そういうことだから俺は行くわ」
「おう、いってら。オレも勧誘の手伝い行ってくるかな」
あぁ、女子がたくさん入部しそうだな。
そんなことを抱きながら、俺は教室を後にし部室棟へと向かった。
─ ◇ ♡ ◇ ─
教室から少し離れた部室棟の、最上階の奥。そんな人気のない場所に、部室はある。
勧誘者どころか看板やチラシすらなく、ただただ閑散とした廊下を歩き、一つの部屋に辿り着いた。
「お兄ちゃん、こんな人気のないところ来て、誘ってるの?」
「もしかして、制服姿の私たちに欲情してシたくなった?」
平常運転に戻った二人に「違うから」と否定を入れ、扉をノックする。
すると中から「どうぞ」と響くような綺麗な声音が返ってきた。
了承を得た俺は、烈華と白咲に「入るぞ」と確認し扉を開けた。
「──まったく、遅いじゃないか穂高くん。遅刻だぞ?」
そこには艶のある長い黒髪が魅力的な女生徒が、優雅に読書をしていた。
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