第20話 新たな一歩
ゲーセンでの一件から数日が経ち、ついに新学期が始まった。
そして今日は本校の入学式。
早朝、身支度を整えリビングに向かうと、
「あっ、おはようお兄ちゃん♪」
「ん、おはよー」
「おはよう、烈華、白咲」
烈華は制服エプロンという姿で、そしていつもはギリギリまで起きない白咲もしっかりと制服を着込みソファーに腰かけていた。
うちの高校の制服は、襟に金のラインが入った紺色のブレザーに、男子は細かなチェックのズボン、女子は学年に応じた色のチェックスカートとなっている。
ちなみに、スカートの色は一年が青、二年は暗い赤で三年が緑といった具合だ。
制服が全体的に落ち着いた色合いのため、クール系美少女の白咲はもちろん似合っていて、活発で明るい烈華もどこか大人びて見える。
なんというか……可愛いな。
新鮮すぎる二人の姿に、俺は見惚れてしばらく立ち呆けてしまった。
「やーん、お兄ちゃん視線がえっちぃよー♪」
「ん、そんなに見られると発情しちゃう……」
……うん、あれだな。二人は〝黙ってたら美人〟もとい〝黙ってたら美少女〟ってやつだよな。
見た目は見違えるほど大人びているのに、中身がいつも通り残念でため息が溢れる。
「……まったく、もっと中身も大人になってくれたらいいんだが」
「えー? あたしたち充分大人だよ?」
「ん、大人。心も……体も」
そう言って白咲はスカートを
白く弾力のある太ももが朝日に負けないくらい輝き、その奥には水色の布が姿を覗かせていた。
今時の女子はスパッツとか穿いてると思うんだけど……大丈夫なのか?
少し意識が緩い
「はいお兄ちゃん、持ってってー」
「おう、いつもありがとな」
朝食を作り終えた烈華に感謝の気持ちを伝え、渡された朝食をテーブルに並べていく。
するとちゃっかり、先程までソファーでくつろいでいた白咲が席に着いて「早くー」と催促してくる。
早く食べたいなら少しは手伝えや。
胸中でそんな突っ込みを溢し、ため息を吐くのであった。
「お兄ちゃん、美味しい?」
「あぁ、すっげぇ美味しい」
烈華が朝食に作ってくれたベーコンエッグは塩加減がよく、黄身は半熟。簡単な料理なのに、感嘆してしまうほど美味しい。
どうにも乏しい俺の語彙力では上手く賛美することもできず、俺は「いつもありがとな」と烈華の頭に手を伸ばし気持ちを込めて撫でてやる。
「にへへ♪ お兄ちゃんに頭撫でてもらうの好きだなぁ♪」
少し気恥ずかしそうにはにかむ烈華が可愛すぎて、ちょっと直視できそうにない。
なんてことをやっていると、ふと白咲からジトーっとした視線が送られていることに気づく。
「不公平だ」と言いたげな瞳を向けられ、仕方なく俺は白咲の頭も撫でてやる。
「ん、兄さんの手気持ちいい」
どこか満足気に頷く白咲が、子供っぽくて可愛い。
なんて妹たちを愛でながら朝食を摂っていると、思いの外時間を労してしまい、家を出るのがギリギリになったのはまた別の話だ。
─ ◇ ♡ ◇ ─
家から徒歩十数分。二人と雑談を交わしながら通学路を歩いていると、あっという間に校舎が見えてきた。
同級生や先輩に交ざって、新品の制服に腕を通した一年生たちが緊張した面持ちで登校している。
あー、初々しいなぁ。去年の俺もああだったのだろうか。
自分が入学したときのことを思い返しながら眺めていると、不意に左右から袖をキュッと握られた。
どうしたのだろうかと目を向けてみると、先程まで楽しげに話していた烈華と白咲が緊張で顔を若干強張らせていた。
妹たちの珍しい姿を微笑ましく思いながら、俺は「大丈夫だぞ」と二人に言い聞かせる。
「そんなに緊張することなんてないぞ、俺だっているわけだし。それに、二人はもう子供じゃないんだろ?」
少しからかうように尋ねると、二人は頬を緩ませ「もぅ」と柔らかく笑った。
「そうだね。あたしたちもう大人だし!」
「ん、今更緊張するわけない」
いつもの調子を取り戻し、二人はえっへんと胸を張る。
スカーンとたゆんっ。
悲しきかな、胸囲の格差社会。
「お兄ちゃん?」
「ごめんなさい」
ここまでテンプレ。もう烈華が俺の心を読んで怒ることなんて、容易に想像できる。
いい加減学習しろと思うだろうが、どうにも烈華と白咲が並ぶと比べてしまうというか。
そう、これは仕方ないことなのだ。言い換えるなら定め。
そんな茶番劇も校舎前で幕を閉じ、別々の教室へと向かうのであった。
どうして入学式やらは体育館で行われるのだろうか。
校長の長い話をそんな疑問半分に聞き流しながら、暇潰し程度に烈華と白咲の姿を探しているうちに気づけば入学式は終わっていた。
学年ごとに教室へと戻り、様々な説明事項や明日に控えたテストの注意でHRを消費し本日は解散となる。なんとも楽な一日だ。
「よっ、
「おっす
担任(去年と同じだった)が教室を出ると、真っ先に博隆が俺の席にやって来た。
親友が同じクラスというのは心強い話なのだが、
「二年も一緒だな、ニーナちゃん!」
「ニーナちゃん呼ぶな。俺の名字は
「うへぇ、今年も稲穂は尖ってるな」
「その呼び方も止めろやコラ」
博隆が挨拶してきたのを切っ掛けに、他の
外国人女性の名前のように聞こえる名字と、名字の終わりと名前の始まりがきれいに繋がるせいで、去年入学してきた頃からずっといじられているのだ。
まぁ本気で嫌なわけではないし、内輪ノリのようなモノだから割りと俺も楽しんでいる。
「べつにいいだろー、ニーナちゃんよー」
「お前、ちゃんづけはマジでキモいから止めろ」
「稲穂、そんなに怒ったらいい米ができないぞ?」
「そうだぞニーナちゃん。そんなんじゃヒロインになれないぞー!」
「よし、お前らそこに座れ」
そう定型化した内輪ノリで笑い合っていると、
「穂高くーん、お客さんだよー」
突如呼ばれ教室の後ろへと向かう。
「お兄ちゃん♪」
「兄さん」
そこには、忠犬のように俺を待った烈華と白咲がいた。
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