第18話 無限ループって怖くね?
「
繰り返し聞こえてくる
というのも、ただ博隆の声が聞こえたから焦っているのではなく──
なんで近くに来てるんだよ!?
そう、博隆の声はこのプリクラ機を越えてすぐのところから聞こえてきたのだ。
もちろん明確な距離はわからないが、博隆があまり声を張っていない状況でここまで聞こえているのだ、然程遠くないことは確かだろう。
「おーい、穂高ー」
「ちょっと、いるなら返事しなさいよ」
──って、
博隆に続いて聞こえてきた梓の声に、動揺を隠せない。
あれだけ邪魔するなとか人をお邪魔無視扱いしてたのに、なぜ俺を探す?
まぁ普通に考えれば、博隆が心配しているからだろう。
それでもこう梓に探されると、ちょっと気味悪い。
なんて顔をしかめていると、抱きついてきていた
「あの、お二人さん?」
恐る恐る尋ねてみると、二人は鬼も逃げ出しそうな形相に笑みを浮かべ、
「なに? お兄ちゃん」
「ん、どうかした?」
「ヒッ」
いつもと変わらない口調ではあるが、全身から放たれる殺気が尋常じゃない。
一般人が感じれるほどの殺気って、どれほどのものなのだろうか。と一周回って冷静になりそうなほど、俺は恐怖を感じていた。
「な、なぁ、どうしたんだよ二人とも。そんな怖い顔して」
それでも俺は、声を上擦らせながら二人に尋ねる。
すると二人は狂気的な形相を一転、拗ねたように頬を膨らませた。
「だって、お兄ちゃんが女の人と仲良くしてるから……」
「ん、どういう関係か知らないけど、兄さんが女と話してると嫉妬する」
「二人とも……」
叱られた子供のように語る二人が、どうしようもなく可愛かった。
二人は梓が博隆の彼女とは知らない(というか、二人とも梓とは会ったことない)とはいえ、あの会話で俺と梓が仲良いと勘違いされることは誠に遺憾だ。
だが、焼きもちを妬く二人が可愛すぎてどうでもよくなった。
そうか、ちょっと愛が狂気的でも、ちゃんと焼きもちとかするんだな……お兄ちゃん安心したよ。
妹たちの一般的な感情に安堵しつつ、俺は「大丈夫だから」と頭を撫でる。
「いいか? 梓は博隆の彼女で俺のこと毛嫌いしてるから、二人が気にするようなことはなに一つないぞ」
「ホント?」
「嘘じゃない?」
烈華と白咲は俺の腕をギュッと握りながら、疑い深く尋ねてきた。
ちょっと痛いと感じながらも、俺は「ホントだから」とよりいっそう二人の頭を撫でてやる。
「わかった、お兄ちゃんを信じるよ」
「ん、兄さんは嘘吐かない」
いやそこまで信じられても困るのだが。俺だって状況に応じて嘘は吐くし……。
妹の重い信頼に苦笑を浮かべていると、「穂高ー?」と博隆の声がまたいっそう近くから聞こえてきた。
しまった! 二人を
というか、博隆はなぜこんなに近くまで来てるんだ? 俺にGPSでもつけてんの?
なんて疑問を抱きつつ、俺はどうすればこの状況が博隆たちにバレないかを模索する。
そしてその方法はすぐに思いついた。
通話で適当なこと伝えて先に帰ってもらえばいいじゃないか!
そう思い立った俺は、すっかり放置していたスマホを手に取りトークアプリを起動する。
「あっ、もしかして通話しながらシちゃう?」
「ん、それは楽しみ」
「しないからな!?」
外に聞こえない程度の大声で否定する。
そうだ、二人は通話してるからといって待ってくれるわけじゃない。
少し邪魔されるだけなら耐えようもあるが、もし
チラリと視線を下ろしてみると、嬉々として目を輝かせる烈華と白咲が上目遣いで無言の催促をしてきていた。
いや、正確には「はぁはぁ」や「んっ」と荒く息をしているが……聞かなかったことにしよう。
「黙っててくれるか?」
「「ヤダ」」
興奮気味な二人に、ダメ元でもと尋ねてみるが結果はこの通り。
「早くシよ!」と目で訴えてくる二人に、俺はため息を溢す。
二人に静かにしてもらうにはどうすればいいか。俺はしばらく頭を悩ませ、
「ちょっとだけ黙っててもらうぞ!」
俺は空いている左腕で二人を抱き締めた。
「むぐっ!?」
「んっ」
もごもごと口を動かし喋ろうとするが、全力で抱き締めることでそれを阻止する。
多少抵抗を見せるも、力の差もあって二人は俺の拘束から抜け出せなかった。
よし、これで博隆に通話ができるぞ!
俺は速やかに博隆とのチャットを開き、受話器のボタンをタップする。
『おー穂高、今どこだ?』
するとワンコールも待たず博隆と繋がった。
「あー、今ちょっとお腹が痛くてな、トイレに籠ってる」
なるべく小声でそう伝えると、博隆は『大丈夫か?』と心配してくれた。
こんな心配してくれる親友に嘘を吐くのは心が痛む。
だが今は妹たちのことがバレてはいけないから、と自分に言い聞かせた。
「大丈夫だ。ただまだ出れそうにないから、俺のことは気にしないで梓とイチャイチャしとけ」
『いや、お菓子はどうすんだよ。お前に言われたから千円分溶かしたんだぞ?』
「あー……二人で食べてくれ」
『いらねー』
「そうか、ならトイレ前のベンチの下に置いといてくれ。出たら回収するから」
『りょーかい。じゃお大事にな』
「おう」
そうして何事もなく通話は終了し、俺は安堵の息を吐く。
そういえば、烈華と白咲途中からまったく身動きもしてなかったけど、大丈夫か?
スマホを置き抱き締めたままの二人に目を向けると、
「ふーっ、ふーっ♡」
「んっ……はぅ♡」
熱い吐息が当たる。
二人はシャツに埋もれながら
無限ループって怖くね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます