第17話 密室での攻防
「お兄ちゃんっ♡」
「兄さん……っ♡」
すっかり理性の抜けきった瞳で俺を見つめ、
多少の冷房が効いているとはいえ、こんな狭い空間でこうも密着していると、暑くて汗が流れてくる。
そのせいなのか、せいぜい高校生が五、六人入るであろう空間に、脳を溶かすような二人の甘い匂いが充満し始めていた。
気を抜けば俺の理性も吹っ飛びそうだが、そうなるとバッドエンドが確定してしまうため、意地でも理性を保たねばならない。
俺は小さく深呼吸をして、抱きついている二人の肩に手を置き無理矢理に引き剥がす。
すると二人は残念そうに表情を曇らせ──だがすぐにいつもの(?)発情しきった
「えへへぇ~♡ そんなに照れなくてもいいじゃん~♡」
「ん、ここなら見つかる心配はほとんどないから」
「照れてねぇよ。あと下手したら普通に見つかるからな?」
いくらここがゲーセンの端だからといって、他にプリクラを撮ろうとやって来た人がいればすぐにばれてしまう。
それに、ゲーセン内が騒音に満ちているとしても、慣れれば多少音の区別はできるようになるから、絶対にバレないという保証はない。
「もぅ、お兄ちゃんは頑固だね。あたしたちを抱いても問題ないのに」
「ん、十三歳はとうに過ぎてるから、両者同意で問題なくできる」
「問題大有りだわ! というか俺が同意してねぇよ!」
妹たちの暴論に反論すると、なぜかクスクスと笑われてしまった。
「同意してないって、お兄ちゃんあたしたちのこと好きでしょ?」
「ん、隠さなくてもわかってる」
いや確かに好きだけども、それは家族愛の方で異性愛じゃないんだよ!
そう力説してみるも、「照れなくていい」とか「わかってる」と流されてしまう。
ダメだ……都合のいい解釈しかしない!
二人の馬鹿っぷりに呆れていると、二人はおもむろにブラウスのボタンを外し始めた。
目を惹く鎖骨のラインから流れるように、その下へと視線が誘導される。
だが続けて現れたのは、もう何度も拝んでいる魅惑の果実ではなく、華やかさもなにもないただの肌着。
なんだか残念な気分になるが、すぐさまそんな思考を殴り飛ばして、深呼吸で心を落ち着かせる。
「くふっ♪ お兄ちゃん期待したでしょー♪」
「い、いやっ、そんなことない!」
簡単に心を見透かされ、俺は慌てて否定する。
そ、そりゃ思春期男子としては女子に興味持つのは当然だけど……妹をそういう目で見るのはダメだ!
「なんて言ってるけど、さっきから視線があたしたちの胸に釘づけだよ?」
「ん、視線があつあつ」
烈華と白咲に指摘され、俺はゆっくりと視線をどこか別のところへと向ける。
そんな俺の様子を見て、
「お兄ちゃんは素直だなー♪」
「ん、素直で可愛い」
烈華と白咲は愉快そうに微笑む。
俺は動物園の客寄せパンダかよ。なんて突っ込みが浮かんだが、口には出さないでおく。
「はぁ……ほら早くボタンを留めろ」
ため息を吐きつつそう促すと、烈華と白咲は満面の笑みで「ヤダ」と断られてしまう。
「だってお兄ちゃんを誘惑できなくなっちゃうでしょ?」
「ん、こんなチャンスを見逃すことはできない」
やたら意志の強い二人に、ため息が量産される。
さて、どうしたものか。そう次の案を練っていると、烈華が「でも」と口を開いた。
「お兄ちゃんが今すぐ家に帰ってあたしたちを抱いてくれるなら、今は我慢するよ?」
「烈華、それは妙案」
烈華のぶっ飛んだ提案に、白咲がグッジョブと親指を立てる。
なんというか、もう……はぁ。
「しないに決まってるだろ?」
「そっかぁ。じゃあこうするしかないよねー♪」
俺の返答を聞くと、烈華は嬉々としてスカートに手を向かわせる。
そして裾を摘まむと、躊躇いもなくたくし上げた。
やや肉づいた魅惑の太ももは、蒸れたからか仄かに火照っていて、その表面には汗が伝っている。
そしてスカートの後ろから微かに姿を覗かせる下着は、どこか見覚えのある桜色だった。
「ちょっ、なにしてんの!?」
「なにって、お兄ちゃんを誘惑してるに決まってるでしょ?」
当然のように答えると、烈華は摘まみ上げたスカートをパタパタと煽る。
するとギリギリ隠れていた下着が完全に現れて、俺は咄嗟に目を逸らす。
「──ぶふっ!?」
だがなんということだろう。逸らした先には、烈華に倣うようにスカートをたくし上げた白咲の姿があるじゃありませんか。
烈華よりもむっちりとした肉感ある太ももに、これまた見覚えのある黒い下着。
あまりにも官能的すぎる光景に、俺はいつかのように目眩を覚えた。
あぁもう……ちゃんと教育してくれよぉ!
もう何度目になるかわからない愚痴を吐露し、俺は静かに回れ右をする。
正直今の二人から目を離すのは危険すぎるけど、このまま直視するほうが危ない。俺の理性が。
一旦落ち着こう。そう思い深呼吸を繰り返していると──案の定、烈華と白咲に抱きつかれてしまった。
ブラウスがはだけているためか、背中に伝わってくる感触はいつも以上に生々しく、温かい。
二人の体温に侵食されるような感覚に、鼓動が速まっていく。
あぁあああああっ! 柔らかい! めっちゃ柔らかいんですけどぉおおお!
あまりの感触に羞恥で悶えていると、
「お兄ちゃん、わざわざ後ろ向くなんて、誘ってるの?」
「ん、もう襲うしかない」
「よし、一旦落ち着こうな?」
そんなまともな思考回路をしていない妹たちのお陰で、冷静になることができた。
ははっ、今さら胸押し当てられただけで、きょっ、キョドるわけないよな!
そう自分に言い聞かせていると──ふぅ、と耳に熱い吐息が吹きかけられた。
咄嗟に後ろを振り向いてみると、烈華と白咲が頬を紅潮させ瞳を潤ませている。
なんだか、背中に伝わってくる二人の体温も上がってきている気がした。
「えへっ♪ お兄ちゃん温かいー♪」
「ん、温かくて、気持ちいい……♪」
「いや、あの……お二人さん?」
子供のような舌足らずな口調に、謎の危機感が湧いてくる。
早く二人を引き剥がさねば。そう使命感に駆られるが、どうにも体勢が厳しく振りほどくことができない。
「お兄ちゃん……襲っていい? あたしもう、我慢できそうにない……っ♡」
「ん、そろそろ我慢の限界……兄さんっ♡」
「えっ、ちょっ、ここゲーセンだぞ? 人来るんだぞ?」
そう言ってみるも、二人は「大丈夫~」やら「気にしない」と答える。
大丈夫じゃないし、お願いだから気にしてくれよ……っ!
なんて叫びは妹たちに通じず、二人は俺を押し倒そうと体重をかけてきた。
一人一人は然程重たくないのだが、やはり二人同時に乗られると重たい。
ヤバい……倒れそう。
踏ん張ろうにも、なぜか先程から体に力が入らずよろけてしまう。
これを好機と見たのか、烈華と白咲は狩人のように目を光らせ、
──ピロリン♪
不意に鳴り出した着信音に、妹たちの動きが止まる。
もしやと思いスマホを取り出すと、予想通り相手は
今出るわけにはいかないが、助かった……。これで多少は二人も冷静になってくれたはず。
「にへへっ♪ 通話しながらってのも興奮するね♡」
「ん、兄さんがそういうプレイを望むなら、私は大歓迎」
逆だった。むしろ興奮した様子だった。
ヤバいヤバいヤバい。どうにかして二人を鎮めないとバッドエンド直行だ!
じんわりと汗が滲み、別の意味でドキドキしてしまう。
「お兄ちゃんっ♡」
「兄さん……っ♡」
二人は熱い視線を向けたまま、愛でるように俺の頬を撫でる。
そして二人は目を閉じて、まるでキスを迫るように顔を近づけてきた。
「ちょっ、やめ──」
「
「──っ!?」
突如聞こえてきた博隆の声に、俺たちは揃って固まってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます