第13話 なんで生徒が教室整備しなきゃならんのだ
春休み終盤の某日。俺はクリーニングから返ってきてまだきれいな制服に身を包み、学校に来ていた。
今いるのは、ほんの数週間前まで俺たちが使っていた教室。床はきれいにワックスがけまでされ、黒板もチョークの粉がすっかり落とされている。
そんな教室に、俺を含め十人程度の生徒が召集され、三日後に迫った入学式に備え教室の整備をしているのだ。
そして現在は、机運びなどの労働を課せられていた。
また一つ、机を運び込んで俺はため息を吐く。
「はぁ、なんでわざわざ俺たちがやらないといけないんだ」
「まぁまぁ、落ち着けよ。去年は先輩たちがやってくれたんだし、今年はオレたちがしてやる番だろ?」
一人ぼやいていると、肩をポンと叩かれそう
振り返るとそこには、俺の親友──
「うるせぇ、今の俺にイケメンは逆効果だ。しっしっ」
手で払うような仕草をすると、博隆「ひっでぇなー」とケラケラ笑う。
「それにオレはイケメンじゃないぞ?」
「あ?」
博隆の言葉に、俺は脊髄反射で威嚇した。
親友
街頭でアンケートを取れば、十人中十人はイケメンだと答えるくらいイケメンだ。
「まったく、何度言ったらわかるんだ? お前は誰がどう見ようとイケメンだ。さっさと認めろ」
「はははっ、
「はぁーっ、これだからリア王は。その謙遜は嫌味だぞ?」
「いや、オレは謙遜してるつもりはまったくないんだが。あとリア王ってなに?」
「リア充の王。俺が作った」
質問されたのでわざわざ説明してやると、博隆は「やっぱ穂高はおもしれぇな!」と爆笑する。
もう漫才師目指してやろうか。
「というか、まぁオレには彼女いるけど、言うほどリア充か?」
「はーっ、惚気んな、あとお前そんな高スペックでよくそんな口叩けたな」
わけがわからないと言わんばかりに呆けている博隆は、身長183センチと恵まれた体躯を持ち、文武両道を体現したような頭脳と身体能力を有する。
加えて先輩や教師からも信頼を置かれる社交性に、誰とでも仲良くなれるようなコミュ力を兼ね備えた対人スキルの高さ。
中学の頃なんて後輩や同学年、先輩、更には他校の女子まで参加しているファンクラブができていたほどにモテモテだ。
そして本人の口からでた通り、高一の現在で彼女持ちである。
これをリア王と呼ばずして、なんと呼ぶか。
そんな力説を博隆は「はいはい」と聞き流し、また空き教室へと旅立った。
「あいつ……はぁ、ボイコットしたい」
なんだか精神的に疲労が溜まりすぎてもう働きたくない。
そう朝っぱらからため息を量産していると、
「じゃあもう帰ったら?」
そんな提案と共にお尻を蹴られた。
「ちょっ、俺のプリティーなヒップになにしてくれてんの!?」
「うわー……ちょっとそれは、いくらヒロの親友でも引くわー」
まるで博隆のように背後から声をかけてきたのは、先ほど話に出た博隆の彼女──
女子の中では割りと背が高く、口調からわかる通り気が強い。かと思えば優しい一面もあり(俺は未経験だが)、博隆のように人望が厚い。
容姿も年相応に大人びて落ち着きがあり、平均的な成長が伺える。
……まぁ、博隆が絡んでくると一気にポンコツになるんだけどな。
梓は本当に博隆のことが好きというか、もう呆れるくらいベタ惚れしているのだ。
なにかあろうがなかろうが、博隆の話になるといつもの落ち着きを忘れ、目を輝かせて語り出す。あの勢いはそう、例えるなら嵐とでも言おうか。
まぁ、美男美女のお揃いカップルとは思うけどね。……はぁ。
「ちょっと、ため息ばっか吐いてないで仕事したら?」
「さっき俺に帰れって言ってませんでしたっけ?」
「はいはい。早く机持ってきてねー」
「話を聞け」
パタパタと手で払ってくる梓に抗議するが、「は?」と素で返されたので俺は大人しく博隆の後を追うのであった。
女子怖い。
─ ◇ ♡ ◇ ─
朝の八時半から続いた重労働は、昼前にはどこのクラスも終了していて、元担任から連絡事項や注意事項を長々と聞かされ本日は解散となった。
ホント、無駄としか思えない。もう自由解散でいいじゃん。
なんて不満はもう過ぎたことなのでため息と一緒にどこかへ吐き捨て、先に帰るやつらや部活に赴くクラスメイトたちと挨拶を交わして教室を出る。
廊下に置いてある鞄を回収し帰ろうとしたところで、博隆に呼び止められた。
「穂高、このあと予定あるか?」
「いや、特にはないが」
そう答えると、博隆は嬉しそうに「よっしゃ」とガッツポーズをする。
え? なにその反応……まさかそっちの気でも? なんて半目を向けていると、それに気づいた博隆は「なんか変な誤解してないか?」と首を傾げた。
「いや、まさか超ハイスペック彼女持ちリア王の博隆に、そっちの趣味があるのかと」
「そっちってどっちだよ」
「いやぁ、それは、ねぇ?」
なんて茶番はともかく。
「で、用件はなんだよ」
「いや、久々に会ったことだし、一緒に昼飯でもどうかって誘いに来たんだよ」
「やっぱお前そっちの気が……?」
「おまっ、親友の気遣いを邪推するとかひでぇやつだな」
「ははは、冗談に決まってるだろ」
「ならなんで少しずつ後ずさってるんだよ」
チッ、バレたか。
露骨に舌打ちしてみせると、博隆は「ったく」と呆れたように頭を抱えた。
「で、奢ってくれんの?」
「割り勘に決まってんだろバーカ」
けっ、優しさの欠片もないやつだな。
なんて冗談を吐きながら笑っていると、不意に博隆が振り向いて「ってわけだから、いいよな?」と誰かに尋ねた。
「……まぁ、ヒロが誘ったんだし、アタシは気にしないけど」
博隆の背後に隠れていたのは、明らかに不満そうな梓だった。
そんな梓を博隆は「まぁまぁ」と
けっ、廊下のど真ん中でイチャイチャしやがって。
なんて皮肉を込めた視線を送っていると、梓に睨まれた。怖い。
そんなことはいざ知らず、博隆は高笑いを上げながら廊下を歩いていく。
「……ねぇ穂高」
「ん? なんだ?」
小声で梓に呼ばれ尋ね返すと、般若の如き形相で睨まれ、
「邪魔だけはしないでね?」
「う、うっす」
やっぱ女子怖い。
「おーい二人ともー! 早く来いよー!」
「お、おう」
「うんっ、すぐ行くよ♪」
そうして俺たちは、博隆を先頭に学校を後にするのであった。
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