第12話 下着はアウトです

 妹たちとのデート(仮)を終えた俺は、帰宅後すぐに自室へと籠りベッドで寝ていた。

 

 もう無理……マジで疲れた。

 

 途中まで普通のデートとして楽しんでいたのに、水着売り場で二人が暴走したせいで危うくバッドエンドを迎えるところだった。

 

 なんとか回避できたものの、精神的疲労は限界まで溜まり、もはやベッドから起き上がることができない。

 

 今日はもうこのまま寝てしまおうか。

 

 そんなことを考えていると、コンコンと扉がノックされた。

 

「なんだー?」

 

 俺はベッドで寝たまま、用件を尋ねる。

 

 父さんや母さんなら怒るだろうが、今は烈華れっか白咲しらさきしかいないので怒られる心配はない。

 

 いやぁ、楽だなぁ。

 

「お兄ちゃん? あたしだけど、少しいい?」

 

「いいぞー」

 

 疲れてるからダメ。なんて答えは出てこなかった。

 

 まぁ疲れているとはいえ、全身筋肉痛というわけではないし、可愛い妹の用件であれば大概OKだ。

 

 ……さすがに子作り云々うんぬんは全力で拒ませてもらうが。

 

「えっとね、お兄ちゃんに見てほしいものがあって」

 

「見てほしいもの?」

 

「うん」と返事をして、烈華は「部屋入っていい?」と尋ねてきた。

 

「もちろ──」

 

 もちろんと言おうとしたところで、なにか嫌な気配を感じ口を閉ざす。

 

 なんだろう。断言できないけど、今烈華を部屋に入れちゃいけない気がする。

 

 甦るのは昨日の出来事。ただの勘でしかないが、烈華を部屋に招いたら同じことが起こりそうだ。

 

 その勘を信じるか、兄として妹を信じるか。

 

 そんな葛藤をしていると、烈華は「入るよー」と気軽に扉を開けた。

 

「? どうしたのお兄ちゃん、ベッドに寝転がって」

 

「……疲れたんだよ」

 

 皮肉を込めた視線を送ってみるが、烈華は気づいていないのか、それとも無視しているのか呑気に「結構歩いたからねー」と口に出す。

 

「お兄ちゃんに見せたいものがあるんだけど、いい?」

 

「ん? まぁいいが」

 

 了承すると、烈華は「やった」と微笑んでみせた。

 

 くっ、可愛いなコンチクショウ。

 

「じゃあついて来てー」

 

「はいはい、わかりましたよ」

 

 俺は重たい体をゆっくりと起こし、烈華の後に続いて部屋を出た。

 

 なんというか、妹と階段を降りるなんて久々だな。

 

 

 階段を降りてすぐ、左手側に見えるのはリビングの扉。

 

 ドアノブに手をかけた烈華が、こちらを向いてニコッと笑う。

 

「それじゃあ、準備できたら呼ぶから、少しだけ待ってて」

 

「お、おう」

 

 それだけ言って、烈華は扉の向こうへ行ってしまった。

 

 見せたいものがあると呼ばれたのに廊下で待たされるとは。

 

 準備できてから呼んでもいいじゃないかとぼやきながら、俺は壁を背もたれにして呼ばれるのを待った。

 

 

 

   ─  ◇ ♡ ◇  ─

 

 

 

 廊下で待たされること数分。暇すぎて好きなアニソンを口ずさんでいると、扉の向こうから「いいよー」と烈華の声が聞こえてきた。

 

 リビングへの入室の許可が降りた俺は、ドアノブに手をかけ引き開ける。

 

「なぁ、見せたいものってなん──」

 

 俺の問いは、目の前の光景に遮られてしまった。

 

 

「お兄ちゃん、どうかな?」

 

「ん、我ながら良いモノを見つけれた」

 

 からかうような、それでいて照れているような笑みを浮かべ、烈華と白咲はまっすぐと俺を見つめる。

 

 布面積は小さく、ある程度しか隠せていないため、俺が選んだ水着より露出が多い。


 肌色成分多めの光景に、俺はただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

 

 

「お兄ちゃん? もしかして見惚れちゃってる?」

 

「ん、ついに兄さんの心を射止めた」

 

「違うからなっ!?」

 

 妄言を吐く妹たちに、つい声を荒らげる。

 

「いやもういろいろ突っ込みたいんだが」

 

「突っ込むなんて……お兄ちゃんのえっち」

 

「ん、兄さんはやっぱり変態」

 

「うっさい、この淫乱ピンクシスターズめ」

 

 勝手に意味を改変する妹たちに不名誉すぎる称号を与えると、二人は不満そうに「淫乱じゃない」と頬を膨らませた。

 

「あたしがここまでするのはお兄ちゃんだけだよ?」

 

「ん、私も兄さんが相手じゃないと興奮しない」

 

「充分淫乱だわバカ」

 

 機関銃の如きボケ(たぶん本人たちは真面目)に突っ込みを入れる。

 

 あぁもう、話がすごい逸れる……。

 

 俺は一度ため息を吐いて心を落ち着かせ、二人に切り出す。

 

 

「なんで下着姿なんだよ!?」

 

 

 マジでなぜ。全力で水着だと自分に言い聞かせていたけど、無理。あれぜんぜん水着じゃない。

 

「えへへ、可愛いでしょ♪」

 

 桜色のブラに手を当て、烈華は「桜の花びらが刺繍されてるんだよ♪」とわざわざ説明してくる。

 

「ん、運命を感じた。エロい?」

 

 なんと明記していいかわからない模様の描かれたブラと、布面積が限りなく狭い紐パンを手でなぞりながら、白咲は首を傾げてくる。

 

「とりあえず俺の質問に答えてくれないか……?」

 

 会話の通じない妹たちに頭を押さえる。

 

「もぅ、そんなことはどうでもいいからー」

 

「ん、早くイチャイチャしよ」

 

 そう言って烈華と白咲が飛びついてきた。

 

 一瞬避けようと考えるも、自分が避けたことで二人が倒れて怪我をしてしまったらどうしよう、なんて考えが脳裏をよぎり、

 

「わふっ♪ ……あれ?」

 

「んっ♪ ……ん?」

 

 俺は仕方なく、飛びついてきた二人を受け止めた。

 

 烈華と白咲は俺を見上げ「どうしたの?」と言わんばかりに首を傾げる。

 

「べつに、気まぐれだ」

 

「あはは♪ お兄ちゃんがデレたーっ!」

 

「ん、ついに兄さんがその気になった」

 

「違うからな? 受け止めてやるかーって感じで受け止めただけだからな?」

 

 けして倒れたら危ないとか、合法的に妹たちの柔肌に触れたいとか思ってないからな?

 

「にはっ♪ 今はぁ、そういうことにしてあ・げ・る♪」

 

「ん、素直じゃないデレ兄さんもイケる」

 

 なんて笑顔を浮かべながら、二人はギュッと強く抱き締めてくる。

 

 あぁぁぁあああああっ!? ちょっ、二人とも!?

 

「なっ、あっ」

 

「あははっ、お兄ちゃん照れてる~♪」

 

「ん、可愛くて興奮する」

 

「いや、ちょっ、離れてくれないか!?」

 

 二人は俺の反応を楽しんでいるようで、見上げたままイタズラに笑った。

 

「それにぃ、先に抱き締めてくれたのはお兄ちゃんの方でしょ?」

 

「ん、優しく包み込んでくれるように受け止めてくれた」

 

「そうだけどさぁっ、もういいろだろ!? 離れてくれよっ!」

 

 ホント! マジで!

 

 回されている腕はもちろん、下着姿なのでブラに包まれた胸や程よく肉づいたお腹、むっちりと弾力ある太ももの感触が服越しでもしっかり伝わってくる。

 

 それに心地良い、安心感のある温かな体温に、思考が止まりそうだ。

 

「はふっ、お兄ちゃん好きー♪」

 

「ん、兄さん、愛してる……♪」

 

「わ、わかったから離れてくれっ」

 

 と言いながら二人を引き剥がそうと奮闘するも、烈華と白咲はぜんぜん離れてくれない。

 

「ねぇ、お兄ちゃんは触ってくれないの?」

 

「ん、今ならどこでも触り放題」

 

「いや、触らないから」

 

「でも触りたいから受け止めてくれたんでしょ?」

 

「……」

 

「兄さんはもっと素直になるべき。触ろ?」

 

「……」

 

 妹たちの怒濤の攻撃。俺の理性は100のダメージを受けた。

 

「お兄ちゃん、ほら……」

 

「兄さん……」

 

「ちょっ!?」

 

 少しだけ放心していると、烈華と白咲は俺の手を掴み、おもむろに誘導する。

 

 ──ふにっ。

 

 ──むにっ。

 

「あっ」

 

「んっ」

 

 烈華は自らのお腹へ、白咲は太ももへと俺の手を当てさせる。

 

 柔らかい。

 

 そんな感想で頭がいっぱいになる。


「お兄ちゃん……もっと触って?」

 

「ん、揉みしだいてもいい」

 

 そんな甘味な誘惑に、俺は──

 

「あ、あぁぁぁ……」

 

 突如襲ってきた虚脱感に俺は為す術なく、

 

 

「お兄ちゃん? ──お兄ちゃん!?」

 

「兄さんっ」

 

 焦ったような妹たちの声音を聞き届け──俺は意識を失った。

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