第11話 妹と季節外れの水着回 2

烈華れっかっ、どういうこと──うぇっ!?」

 

 慌てて尋ねようとすると、白くきめ細かな手に口を塞がれてしまった。

 

「しーっ、あまり大きな声出しちゃうと気づかれちゃうよ?」

 

 大きな声を出さなくても気づかれてると思うのだが。

 

 なぜかこういうときだけ頭が働かない烈華に呆れていると、烈華が試着室の壁を軽く叩いた。

 

 なんなんだ? そう首を傾げる間もなく、試着室に第三の人物が入り込んでくる。

 

「ん、お待たせ」


 狭い試着室に乱入してきたのは、隣で着替えていたはずの白咲しらさき

 

 そうか、さっき壁を叩いたのは白咲に合図を送るためだったのか!

 

 なんて貧弱な探偵風のセリフを心の中で吐きながら、どうすればいいのか必死で考える。

 

 だが狭い試着室に三人もいると窮屈すぎて、体のどこかが二人と密着してしまい冷静になれない。

 

「お兄ちゃん、水着に着替えたよ。どう?」


「ん、感想求む」

 

 なのにどうして、二人はこんな冷静なのだろうか。

 

 改めて妹たちの異常っぷりを感じさせられる。

 

 というか、暑い。

 

「あははっ♪ お兄ちゃん汗掻いてるー」

 

「ん、しょっぱいけど良い匂い……♡」

 

「ちょっ、汗を舐めるなっ、嗅ぐなぁあっ──むぐっ」

 

「だからぁ、大きい声は出しちゃダーメ♪」

 

 制止しようとしても、また烈華に口を塞がれてしまう。

 

 くそぅ、どうすればいいんだよぉ!

 

 昨日みたいに逃げ道はなく、かといって力ずくで二人を剥がしてもお客さんや店員さんに通報されてバッドエンド。

 

 ……あれ? 昨日より詰んでね?

 

 絶望的な現状に半ば放心状態になっていると、ふと烈華と白咲に手を掴まれ、現実に引き戻された。

 

 

「お兄ちゃん、せっかく水着の妹たちといるんだから、感想くらい言ってよぉ」

 

「ん、じゃないと寂しくて泣く」

 

 ならもっと普通の状況でそうさせてくれよ。そんな文句が口から出かかったが、ギュッと抱きつかれたことで頭が真っ白になってしまう。

 

「ねぇ、感想言って?」

 

「ん、そしたら出して上げる」

 

 もっと普通な状況なら感想なんてすんなりと言えるのに。

 

 そう思いながら、俺は二人の肩を掴んで、狭い試着室でできるだけ距離を取り、二人の姿を観察する。

 

 烈華が身につけているのは、赤を基調とした三角ビキニと、水色がかったシースルーの水着シャツ。

 

 シースルーのシャツから中のビキニが透け、まるで雨に打たれたあとのような光景が再現された。

 

 健全なはずなのに扇情的で、腰横に映える赤い飾りリボンが妖艶さトッピングして、よりエロスの香りを醸し出している。

 

 健康的な肌を露出させた肢体はほどよく肉づいて、昨日さんざん誘惑された太ももについ目が行ってしまう。

 

 モデル体型と水着が相まって、ちょいエロセクシーな烈華が完成した。

 

 総評:エロ可愛いと思います。

 

「えへへっ、お兄ちゃんったらぁ♪ そんな熱々な視線向けられると濡れちゃうよぉ……っ♡」

 

「頼むからそれだけは止めてくれ」

 

 もじもじと太ももを擦り合わせる烈華にそう言うと、「じゃあ早く感想言って?」と返されてしまった。

 

 うぅ、恥ずかしい。

 

 そんな羞恥心も、ここから出るために一旦封印し、俺は烈華の目をまっすぐと見つめ、

 

「よく似合ってると思う、めちゃくちゃ可愛い」

 

「お、お兄ちゃん……っ、えへへっ、結構恥ずかしいねっ」

 

 言われた通り素直に感想を述べたのだが、烈華は照れた様子で赤くなった顔を手で扇いだ。

 

 珍しい反応をする烈華だったが、すぐにからかうような笑みを浮かべ、

 

「お兄ちゃん、これがお兄ちゃんの好みなんだね。……お兄ちゃんのえっち」

 

「実の兄に襲いかかる妹に言われたくない。単に似合うと思っただけだ」

 

 そう、似合うと思ったから選んだ、それだけだ。他意はない。

 

 けして俺が濡れ透け好きだからとか、そういうわけではないのだ。

 

「まぁ、お兄ちゃんは濡れ透けシチュ結構好きだからね~♪」

 

「……」

 

 そうだった。二人は俺のコレクションを知ってるんだった……はぁ。

 

 人のプライベートをズカズカと侵害してくる水着姿の実妹いもうとが、やっぱり可愛くて毒気を抜かれてしまった。

 

 

 だが、最初に見せた恥じらいを俺は忘れていない。

 

 もしや素直に褒めれば何事もなく脱出できる!?

 

 一縷の希望を見出だした俺は、続けて白咲の方へと目を向ける。

 

 白咲が着ているのは、名状しがたいねじられたデザインが特徴な、白と青のビキニ。加えて腰には、透けた翡翠ひすい色のパレオを巻いている。

 

 大きいサイズを選んできたはずなのだが、それでもたわわな果実は包み込んでいる水着をツンと押し上げ、その存在をこれでもか主張していた。

 

 その下には、つぶらなおへそと触り心地の良さそうなお腹が丸見えで、これはこれでフェチ心をくすぐられる。

 

 またパレオの結び目の下に空いた空間から、むっちり肉感のある太ももが姿を覗かせ、一種のチラリズムが誕生していた。

 

 水着によってロリ巨乳の背徳さは限界を超え、もはや白咲は背徳の権化と化した。

 

 総評:犯罪の臭いがする。

 

「ん……っ、兄さん、視姦するのもいいけど、私にも感想がほしい」

 

「べっ、べつにし……なんてしてねぇよ!?」

 

「ダウト。目がすごいえっちだった」

 

「……」

 

 すみません、確かにエロいとか思ってました。

 

 なんて謝罪しながら、俺は白咲の頭に手を伸ばし、感想を口にする。

 

「可愛いと思うぞ。ただ、外だと背徳的すぎて着せられない」

 

 というか、白咲に水着全般を着せてはいけない気がする。

 

「んっ、嬉しい」

 

 兄として失格レベルな感想でも、白咲は蔑む様子なく素直に喜んでくれた。

 

「それにしても、カシュクールビキニなんて、兄さんは良いセンスしてる」

 

「かしゅ……? その水着は、カシュクールって言うのか?」

 

「ん、前から気になってたデザイン。さすが兄さん」

 

「いや、俺はただ白咲に似合うと思っただけで」


「それでも、嬉しい」

 

 小さく笑みを浮かべる白咲が、最高に可愛い。

 

「でも、妹にエロいエロい言いすぎだと思う。私は嬉しいけど」

 

「言ってねぇし、兄に欲情する義妹いもうとに言われたくない」

 

 そう返すと白咲は「照れなくていい」とドヤ顔をする。

 

 くっ、可愛いな……っ。

 

 

 

 さてはて、いろいろあったものの、俺は二人の水着の感想を言い終えることができた。

 

 よし、これで出られる。

 

 そう安堵の息を吐いていると、烈華と白咲が顔を見合わせ、突然抱きついてきた!

 

「ちょっ、約束がちがっ──」

 

 必死に抵抗を試みるも、またもや烈華に口を塞がれ、更には腕ごと抱きつかれ為す術がなくなってしまう。

 

 だが俺も同じ手を喰らうほどバカではない。

 

 俺は少しだけ口を開け、舌を伸ばして烈華の掌を少し舐める。

 

「んっ」

 

 小さく声を漏らし、烈華は反射的に手を退けた。

 

「……お兄ちゃんのえっち」

 

「うるさい、さっさと出してくれ」

 

 そう言うが、烈華は「知らなーい」とそっぽを向いて、体をより一層密着させてきた。

 

 露出が多いせいで体温がじんわりと伝わってきて、女の子らしい感触に鼓動がうるさい。

 

 それに右腕には烈華の控えめな胸がこれでもかと押しつけられ、左腕は白咲の豊満な胸に包まれて、体温で腕が溶けそうだ。


「お兄ちゃん……っ、少しだけなら、いいよね……っ♡」

 

「ん、これ以上ガマンできない……だから、少しだけ♡」

 

 二人の感触に気を取られていると、いつの間にかスイッチの入った二人がゆっくりと動き出した。

 

「あっ、ふぅっ」

 

「んっ……んんっ」

 

 体を揺らすように上下させ、足をタコのように絡めてくる。

 

 というかこすりつけるなぁあああっ!

 

 もう完全に発情しきった二人に、俺の理性はゴリゴリと削られていく。

 

 俺は限界の近い理性をフル活動させ、なんとか二人の誘惑に抵抗する。 

 

 その間にも二人の喘ぎ声が試着室の中に木霊こだまし、耳から溶けてしまいそうな感覚に襲われた。

 

「お兄ちゃん……触ってぇっ、切ないのぉ……っ」

 

「んっ、兄さん……シてぇっ」

 

 発情した妹たちに迫られ、兄大ピンチ。

 

 というか、本当にヤバい。なんかさっきから甘酸っぱい匂いがしてるし、胸とか二の腕とか太ももとか柔らかいし……。

 

 意識が侵食されていくのを感じながらも、俺は「ダメだ」と二人を拒む。

 

「なんでぇっ」


「ガマン、できないっ」

 

 それでも迫ってくる妹たち。

 

 こうなれば、最終手段(その一)を使うしかない……っ!

 

 そう意気込んだ俺は、震える呼吸を整え、理性の欠片もない発情しきった妹たちの耳へ、優しく「ふぅ」と息を吹きかけた。

 

 

「ふぁぁぁ──っ!」

 

「んん──っ!」

 

 

 小さく悲鳴を上げた二人は、荒々しく息をしてへたり込んだ。

 

 完全に事後でしかない光景に絶望を覚えた俺は、無気力な状態で試着室から転げ出る。

 

 

「……」

 

「……」

 

 店員さんと目が合う。

 

「……」(ニコッ)

 

 あっ、終わった。

 

 店員さんの笑顔に、俺はすべてを悟った。

 

 父さん、母さん……教育の義務はちゃんと果たしてください……。

 

 バッドエンドを回避できなかったことを悔やんでいると、店員さんが笑顔のまま「大丈夫ですよ♪」と言ってきた。

 

 どういうことだ? と首を傾げていると、まるで心を読んだかのように店員さんは「見てましたから♪」と笑っ──え?

 

「お客様が連れ込まれるのも、全部見てましたから♪ 今回は不問にしますよ♪」

 

 見てたらな助けろや。

 

 なんて不満を呑み込んで、俺は「ありがとうございます」と頭を下げた。

 

 

 とまぁ、優しい(?)店員さんのお陰で、俺はバッドエンドを回避することができた。

 

 こうして、俺たちのデート(仮)は幕を閉じたのであった。

 

 もうしばらく一緒に外出したくねぇ……。

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