第10話 妹と季節外れの水着回 1
昼食を某ファストフード店で済ませた俺たちは、一度別行動を挟んでショッピングモールの六階にやって来た。
俺はてっきり順番に各階を見て回るのかと思っていたから少し驚いたが、べつに行きたい階があるわけではないので二人に従う。
「なぁ二人とも、今はなんのお店に向かってるんだ?」
エレベーターという個室の中で、二人にちょっとした疑問を投げかける。
「さぁね~?」
「ん、内緒」
だがなぜか、妹たちは含みのある笑みを浮かべるだけで答えてはくれなかった。
はて、と首を傾げていると、目的の六階に到着したのか重い扉が静かに開く。
「それじゃあ行こっ♪」
「兄さん、こっち」
「ちょっ、二人とも?」
エレベーターから出た途端、二人に腕を引っ張られ俺はどこかへ誘導される。
そして見えてきたのは、マネキンに飾られる色とりどりの水着たち。
季節外れとも思える光景に冷や汗が止まらない。
「お二人さん? まさかとは思うけど……」
「うんっ、お兄ちゃんに水着選んでほしいなぁ♪」
「ん、お願い」
マジですか……。
嬉々として微笑む
際どいラインではあるが、兄として可愛い妹のお願いを断るのは気が引ける。
……でもなぁ、水着なんだよなぁ。それってつまり、下着と同じくらい露出があるんだよなぁ。
正直、昨日の今日で危ない気がする。俺の理性が。
「お兄ちゃん、ダメ?」
「兄さん……」
「よしわかった、選んでやるよ!」
潤ませた目で見つめてくる二人に、俺は二つ返事で了承した。
すると二人は表情を一転させ、満面の笑みを浮かべる。
「ありがと、お兄ちゃん♪」
「ん、嬉しい、兄さん♪」
あーもうっ、可愛いなぁっ!
妹たちの笑顔にドキッとしながら、俺は二人と店へ入っていく。
頑張れ、俺の理性☆
─ ◇ ♡ ◇ ─
まだしばらく出番が来ないであろう水着に囲まれ、俺は気まずい気持ちを抑えて妹たちに続く。
烈華と白咲はときどき陳列されている水着を手に取っては体に合わせ、互いに感想を言い合っている。
可愛い……けど、これはヤバいな。
さっきから二人が水着を当てる度に、水着姿を想像してしまう。
目を閉じれば、真夏の砂浜ではしゃぐ水着姿の妹たちが思い浮かぶ。
ビキニ、パレオ、ワンピース、水着シャツ……どれも似合いすぎて選べる自信がない。
そんなことを考えていると、ふと二人が笑みを浮かべてこちらを見ていることに気づく。
どうしたんだろうと首を傾げていると、二人はタッタッタッと軽い足取りで目の前までやって来て、
「お兄ちゃんのえっちー♪」
「ん、兄さんの変態」
「いきなりなんなの!?」
なぜかえっちだの変態だの言われ、俺は思わず声を荒らげる。
「だって、お兄ちゃんが真面目な顔でブツブツ水着の名前を口にしてたから」
「ん、傍から見たらただの変態」
「………………マジで?」
「うん」「ん」
首肯する二人を見て、俺は恥ずかしさで逃げたしたくなった。
穴があったら入りたいとは、まさにこのことか。
熱くなった顔を両手で覆っていると、二人は「大丈夫」と肩に手を置いた。
「あたしたちしか聞いてなかったから、安心して?」
「ん、私たちなら気にしない」
「二人とも……っ」
なんて水着売り場で妹たちに慰められる兄である。なんとも情けない。
それからしばらく三人で店内をぶらりと歩いていると、不意に烈華と白咲が立ち止まり、クルリと振り向いてきた。
「それじゃあお兄ちゃん!」
「選んでほしい」
「お、おう」
期待に目を輝かせる二人。
もう眩しすぎてお兄ちゃん直視できないよ。
なんてボケはさておいて。
俺は店内を見渡して、二人に似合いそうな水着を探していく。
烈華は……シンプルに三角ビキニでいいんじゃないだろうか。モデル体型だし、違和感なく着こなせると思う。
こういうとき烈華は選びやすいよな──
「お兄ちゃん? なにかあたしに失礼なこと考えてない?」
「……気のせいだよ、気のせい」
ゴォォォオオオ、と効果音が聞こえてきそうなほど目を見開いてくる烈華から目を逸らす。
ホント心読んでくるの止めてくれませんかね。
なんてことを考えながら、俺は白咲の方へと目を向ける。
さて、白咲はどうするべきか……。
身長140半ばで豊満な胸を持つ、いわゆるロリ巨乳の白咲に合うような水着。そう考えただけで頭が痛くなる。
できればあの大きい胸を活かせるような水着がいいんだが……もうワンポイントほしいな。
「兄さんが私の胸のことばかり考えてる」
「……人聞きの悪いこと言うんじゃない」
自分の胸を抱えるようにして身を
ホントそういうこと言うの止めてほしい。誤解を受けるから。
──なんて考えながら見渡すことしばらく。
ソレは本当に偶然目についただけなのだが、なぜか目が離せなくて。俺はなにも考えずその水着に向かっていた。
……うん、これなんか良いんじゃないだろうか。よく似合いそうだ。
壊滅したファッションセンスの、稀に見ない奇跡を信じて、俺はその水着を持って二人のところへ戻った。
「水着選んできたぞ」
「わーいっ、ありがとお兄ちゃん♪」
「ん、嬉しい」
満面の笑顔の二人に迎えられ、先ほどそれぞれに選んできた水着を渡す。
「それじゃあお兄ちゃん、試着してくるねっ」
「ん、なんなら兄さんが手伝ってくれてもいい」
「手伝わんぞ、俺は」
もう今さらな白咲を軽くあしらいながら、俺は二人に手を振る。
ニコッと笑顔を向けて応えてくれた妹たちが、最高に可愛い。
─ ◇ ♡ ◇ ─
二人を待つこと数分。俺は不審者の如きキョドりを発動していた。
当然だろう。こんな水着売り場の、しかも試着室前で男一人が佇んでるとか、場合によっては通報ものだ。
だがしかし、なぜか俺に向けられるのは生暖かい視線ばかり。
なんか「微笑ましいわね」みたいな会話が聞こえてくるし……もう止めて! 俺を見ないで!
「お兄ちゃん、ちょっといい?」
羞恥に染まった顔を両手で覆い隠していると、ふと試着室の中から
俺はなるべく平然を装いながら「どうしたんだ?」と返す。
「ビキニの紐結んでほしいんだけど」
「──ブフォッ!?」
予期せぬお願いに、俺は思わず吹き出してしまった。
「お願いお兄ちゃん、自分だと結びづらくて」
「う、うーん……」
こういうとき、どうするのが正解なのだろうか。
兄として妹を助けたい気持ちはある。だが同時に、人前でそんな恥ずかしいことできるか! という羞恥心も俺の中に存在している。
うぅ、どうすればいいんだ……。
そんな葛藤を続けるが、烈華の「おねがぁい」という猫撫で声に
「まったく、見られたら大変なことになるってわかってんのか」
そうため息を吐きながら烈華が入っている試着室へと近づく。
あまり紐を結んでいるところを見られたくないため、俺はカーテンのギリギリまで近づき小声で「いいか?」と尋ねる。
だが烈華から返事が返ってこない。
「烈華? どうし──」
どうしたのだろうと首を傾げていると、突然カーテンの奥から伸びてきた手に捕まれ、一瞬のうちに試着室へと連れ込まれてしまった。
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