第4話 涙の仲直り(?)


 

「──嫌いだっ」

 

 

「「…………え?」」

 

 

「自分たちを大切にしない二人がっ、俺の気持ちを一切考えてくれない二人がっ、自分勝手で後先考えない二人がっ──大ッ嫌いだ!」

 

 

「「──っ」」

 

 あーっ、言っちまったぁぁぁぁぁ……っ。言っちゃったよ言っちゃったよ、絶対に言いたくなかったのにぃ……。やべぇ、言った本人が寝込みそう……。

 

 後悔と罪悪感に潰されながら、チラリと二人を確認すると──

 

 

「びぇぇぇえええええええええっ!」

 

「ふぐっ、ひぃっ……うぅぅぅうううっ!」

 

 

「──え?」

 

「やらぁっ、きらいにぃっ、うっ……ならないでぇぇぇ……っ!」

 

「ごめん、なさいっ……あやまる、からぁっ、ひっぅ……ゆるしてぇ……うぅっ」

 

「いや、二人とも?」

 

「おにいっ、ちゃっ……んぐっ、きらわっ、ないでぇっ……うぅっ」

 

「はんせい、してるっ……からっ、おねがひっ、にい、さん……っ、ひぅっ」

 

 

 ──いや、効果ありすぎるだろ!?

 

 そりゃ動きは止められるかなとは思ってたよ? 思ってたけど……ガチ泣きするとは思わんやん!?

 

 二人とも顔を歪め涙を流し続けながら、必死に謝罪を口にする。

 

 うっ、自分の身とその他諸々を守るためとはいえやりすぎた……。

 

 二人が泣き出したときは〝どうしてそんなに?〟と驚いたが、俺だって二人に「お兄ちゃん(兄さん)なんか大ッ嫌い」とか言われたらドン引きされるくらい泣き叫んで転げ回る自信があるし……。

 

 何より、二人は好きな人(俺なんだけど)に「嫌い」と言われたのだ、このくらい泣き叫んだって当たり前だろう。

 

 ……いやいやっ、何俺は泣いてる妹たちを冷静に分析してんの? それより先に慰めろよっ!

 

「ご、ごめんっ、そこまで泣かせるつもりはなかったんだ! 俺はただ、二人に思い止まってほしかっただけで……」

 

「うぇぇぇえええええっ、あぁぁぁあああああっ!」

 

「んぅぅぅうううううっ、ふぅっ……ひっぐ……」

 

「ほっ、本ッ当にごめぇぇぇぇぇ──んっ!」

 

 

 

   ─ 妹→兄←妹 ─

 

 

 

「ぐすっ、ひっく……」

 

「ふぅぅぅっ……んっ」

 

「ごめん、ごめんな?」

 

 二人が落ち着いたのは、あれから三十分は経った後だった。

 

 今は俺の拘束もすべて解かれ、二人も服を着直している。完全な健全空間だ。

 

 そして俺は、鼻をすすりながら嗚咽を漏らす妹二人を慰めている。

 

 いや、泣かせたのは俺なんだけど……。

 

 

「ごめん、泣かせるつもりはなかったんだ。本当にごめん」

 

 俺はベッドの上で、深々と二人に頭を下げる。

 

 二人はソッと俺の頭に手を乗せ、「大丈夫」と鼻声で言った。

 

「悪いのはあたしたちなんだから、お兄ちゃんが謝る必要はないよ」

 

「ん、私たちが暴走しすぎたのが原因。こっちこそ、ごめんなさい」

 

「烈華、白咲……っ」

 

「その……本当にごめんなさい、お兄ちゃん」

 

「もう二度と同じ過ちはしない」

 


 

 俺がしたように頭を下げる二人に、俺はなぜか感動を覚えていた。

 

 うんうん、二人とも少し気持ちが暴走しただけだよな。本当はこうやって素直に謝れる良い子なんだ。

 

 俺、お兄ちゃんとして誇らしいよ……。

 

 目尻に浮かんだ涙を指で拭って、俺は二人の頭を撫でる。

 

「わかってくれたなら、俺はもう気にしないよ」

 

「ありがと、お兄ちゃんっ」

 

「ん、ありがと兄さんっ」

 

 頬を伝う滴を払って笑顔を作る二人に、俺は安堵の息を吐く。

 

 ふぅ、ひとまずバッドエンドは回避できたな。これで一件落着──

 

 

「だから、正々堂々お兄ちゃんを誘惑するねっ♪」

 

「ん、私も兄さんの意思で婚姻届にサインしてもらう♪」

 

 

「え?」

 

 諦めて、くれないのか?

 

 そう唖然としていると、二人は俺の心を読んだのか笑顔を浮かべ、

 

 

「ぜぇったいに諦めないよっ! お兄ちゃんっ♪」

 

「ん、私も諦めない。覚悟して、兄さん♪」

 

 

「……お、おう」

 

 

 

 こうして、俺たち兄妹の非日常一日目は幕を閉じたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る