第3話 実妹と義妹に監禁された件

 ……さて、俺は今二人に捕まり、暗く静まり返った自室に拘束されている。

 

 え? 拘束とか大袈裟じゃないかって? ……ハハッ、それが残念、まったくこれっぽっちも大袈裟じゃないんだよなぁ。

 

 俺は頭を掻こうと手に力を入れる。だがジャラッと金属音が鳴るだけで俺の手は上がらなかった。

 

 とまぁ、もうわかっただろうが、俺は今両手に手錠をされ、あと足も縛られ自室のベッドに放置されているのだ。

 

 俺は二人のことを少々甘く見ていたようだ。まさか逃げられないように拘束するなんて……普通考えないだろ。

 

「はぁ……どうしよ」

 

 ため息と共に弱音が漏れてしまい、余計ネガティブ思考に走ってしまう。

 

 もうここで終わりなのか? 俺は妹二人に監禁されてバッドエンドを迎えるのか?

 

 ……うっ、想像しただけで冷や汗が止まらん。こうなったら是が非でもバッドエンドを回避せねば。

 

 そう意気込んではみるものの、さてはてどうすれば現状を打破できるだろうか。

 

 両手足の拘束を解かなきゃ逃げられない。けど手足が使えないんじゃ、そもそも拘束を解くことすらできない。

 

 なら、と俺は思いっきり力を入れて左右に引っ張る。が──

 

「どんだけ丈夫なんだよ……」

 

 まぁ金属製なのは音からわかっていたし、そりゃ平凡な男子高校生に壊せるわけない、か。

 

 いったいいつこんな物を買ったんだか。というか幾らしたんだろ……結構気になるな。

 

 なんてことを考えていると、不意に扉がキィィと音を立てて開かれた。

 

 入ってきたのはもちろん烈華れっか白咲しらさき。二人はニコニコと笑顔を浮かべながら身動きの取れない俺に近づいてくる。

 

 

「お兄ちゃん、ご飯にする?」

 

「お風呂にする?」

 

「「そ・れ・と・も──」」

 

「あ・た・し?」「わ・た・し?」

 

「……と、とりあえず解放してくれるか?」

 

「「だーめ♡」」

 

 駄目だった。何とも素晴らしい笑顔で却下されてしまった。

 

「だってソレ外したらお兄ちゃんまた逃げちゃうでしょ?」

 

「ん、兄さんの考えてることはお見通しだけど、わざわざ捕まえに行くのメンドイ」

 

 なら逃がしたままにしてくれませんかね……。

 

「さぁて、これからどうしよっかなぁ?」

 

「ん、シたいこと多すぎて迷っちゃう」

 

 烈華が蠱惑的な笑みを浮かべ、白咲が舌舐めずりをする。さながら俺は二人にとってのご馳走だな。

 

 ……いやいやいやっ、俺は何を考えてんだ。その冗談はシャレにならんぞっ。正気に戻れ、俺っ!

 

 少し弱気になった自分に喝を入れ、現状の打開作を模索する。

 

 だが身動きは取れず目の前に二人がいる時点で八方塞がり、為す術などない。

 

 ……やっぱり、諦めるしかないのか?

 

 状況の深刻さに、俺は思わずため息を吐く。

 

 

「どうしたのお兄ちゃん、ため息なんか吐いちゃって」

 

「ん、元気ない?」

 

「元気がないというより、未来がないかな……」

 

 皮肉を込めてそう言ってみるのだが、二人はきょとんとした様子で首を傾げるのみ。

 

「えー? 子沢山の幸せな未来があたしには見えるけどなぁ?」

 

「ん、私も幸福に満ちた新婚生活が見える」

 

「二人とも幻覚しか見えてねぇじゃん……」

 

 妹二人にもっと現実を見てほしい所存です。

 

「まぁまぁ、どうでもいいことは置いといて」

 

「たっぷり初夜を楽しもう」

 

「楽しめるかバカ」

 

「わー、お兄ちゃんがバカって言ったぁ」

 

「……烈華はバカだと思うけど」

 

「……は? お兄ちゃんがバカって言ったのは白咲のことでしょ?」

 

「は?」

 

 ──ピキッ。

 

 そんな亀裂が入るような音が、聞こえたような気がした。

 

 途端に二人は俺をそっちのけで睨み合い火花を散らし始める。

 

「誰がバカだって? 今度はちゃんと聞いてあげるからもう一回言ってごらんなさい?」

 

「ふっ、あれで聞こえないなんて難聴? 烈華がバカだって私は言ったの一度で聞きなさいバカ」

 

「はぁ!? あんた何回も……っ! バカはあんたの方でしょ?」

 

「へぇ、私がバカだっていうの? 私、烈華より成績は良いよ?」

 

「学力で比べるなんてバカのすることよ。それがわからないようじゃ、あんたはバカのままよ」

 

「……貧乳」

 

「幼女」

 

「「はぁあああっ!?」」

 

 

 ……もうやだ逃げたい。

 

 一触即発の妹たちに、俺は今までにないくらい怯えていた。

 

 いや、仕方ないだろ。こんなヤクザも裸足で逃げ出すような殺気撒き散らされて、怯えるなと言う方が酷だ。

 

 というか、俺放置されすぎじゃね?

 

 拘束監禁された上で放置とか、俺そろそろ泣くよ?

 

 なんて肩を落としていると、二人はハッと何か思い出したように喧嘩を止め、置物と化していた俺に飛びついてきた。

 

「ごめんねお兄ちゃんっ、放置するつもりはなかったの! ……すぅ、はぁっ」

 

「ん、私は兄さんのこと忘れてないからね? ……んぅ、あっ」

 

「あの、どさくさに紛れて人のにおい嗅ぐの止めてもらえます?」

 

「やだ」

 

「それは無理」

 

 なぜだ……。

 

「はぁ、お兄ちゃんの匂い好きっ……くんくん」

 

「ん、天然の媚薬みたい……んぅっ」

 

 可愛らしく俺のシャツをキュッと掴みながら、そんな感想を述べる妹たち。

 

 というか、天然の媚薬ってなんなの? 俺そんな危ないにおいすんの? マジで?

 

 自分を見失いそうになっていると──二人の雰囲気が変わった。

 

 

「えへへっ♪ おにぃちゃーんっ、だぁい好きっ♡」

 

「にぃさぁん……切ないよぉっ、体の奥がジンジンするのぉ♡」

 

 

 ……あれ? 何か変なスイッチ入ってね?

 

 まるで慈しむように、愛でるように俺を見つめる瞳は、淀み虚ろになっていき。

 

 俺は蛇に睨まれた蛙のように身動きが取れなくなってしまった。

 

 いや、俺は拘束されていてもとから身動き一つ取れないんだが。

 

 そんなつまんない一人漫才をしていると、なぜか二人は自分のブラウスのボタンを外し始めた。

 

 やけに目を引く鎖骨のラインや下着に隠された胸、緩やかに線を描く円らなおへそに、少しぷにっとした触り心地の良さそうなお腹が次々と露になる。

 

 

「ふへへっ♪ お兄ちゃんったら、あたしたちに見惚れちゃってかっわいいー♡」

 

「安心して、そんな血眼にならなくても、下も脱ぐから……っ♡」

 

「いやっ、ちょっと待てっ」

 

 俺の制止の声も届かず、二人はブラウスを脱ぎ捨てると今度はスカートに手を伸ばした。

 

 スカートのチャックをゆっくりと引き下ろし、本日何度目かの魅力的な太ももがスカートの隙間からこんにちは。

 

 太ももに意識を奪われていると、次にホックが外され、スカートはパサリとベッドに落ちた。

 

 つい手を伸ばしそうな艶と肉感のある太ももが露になり、秘部を隠すための可愛らしい下着も躊躇いなく姿を見せている。

 

 あっという間に、下着姿の実妹と義妹の完成。

 

 いや絵描き歌みたいなノリで何言ってんの?

 

 

「にはっ♪ どうお兄ちゃん、興奮する?」

 

「妹たちの下着姿に兄さん釘づけ、視線がえっちぃ」

 

「いやっ、あのなっ」

 

「わかってるよぉ、お兄ちゃんが女性経験なさすぎて妹ってわかってても意識しちゃうんでしょぉ? あたしは気にしないよぉ、だってすっごい嬉しいんだもん♡」

 

「ん、私も気にしない。こうして見られてるだけで興奮して……んっ♡ 我慢できなくなりそ♡」

 

「……」

 

 もう何と言えばいいのか。思考放棄して率直に「エロいね!」とでもコメントすればいいの?

 

 いや、冷静になれ俺。昔は一緒に風呂入ったりしてただろ、今さらキョドる必要は……関係ないか。うん、昔風呂に入ってようが戸惑うモンは戸惑うよな!

 

 なんて自暴自棄になっていると、二人は下着姿を思う存分見せつけるようにポーズを決めて、勝手に盛り上がっている。

  

「ねぇお兄ちゃん……もう我慢できないよぉ♡」

 

「んっ、私も我慢できない。……シよ♡」

 

「はぁっ!? ちょっ、ちょっと待て! 俺たちは兄妹だぞっ」

 

「そんなのはぁっ」

 

「関係ないっ」

 

「うわっ!?」

 

 肌色面積の多すぎる姿で二人に抱きつかれ、俺は言葉を失ってしまう。

 

 な、何か甘酸っぱい匂いが……あと二人の肌すべすべで柔らかい……。

 

 もうこのままでいいや。そんな考えが一瞬頭を過って体から力が抜ける。でも、

 

 諦めるわけにはいかない。俺と二人の未来を考えて、このままバッドエンドを迎えるわけにはいかない……ッ!

 

 何度目になるのかわからない決意を胸に、俺は本来口に出してはいけない言葉を思い浮かべる。

 

 烈華、白咲……ごめんっ!

 

 心の中で二人に謝りながら、俺は震える口をゆっくりと開いた。

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