第10話 極星の大魔導士 ベリアイノ 後編
ミステル・カカオの中でももっとも大気中のマナ含有率が高いと言われている場所は、広大な山脈の最高峰に位置する『フィフ・マジク・レイク』である。湖底に大賢者ブリスコ様の亡骸が沈められていることがその理由と言われている。
魔法使いを志す人々はフィフ・マジク・レイクのほとりに『フィフ・マジク・シティ』という小さな街を造り修行の場とした。
そこに辿りつくには草一本生えぬ岩山を数千メートルも登らなくてはならない。そのためたどりつくことができずに命を失う者多数、逆にいえばここにたどりつくことがそのまま一流の魔法遣いの素養を持つことと同義――だったのだが。
「わー! らくちーん! 楽しいー! はやーい!」
「うおっすっげー! 景色キレイっすよー!」
世界の転覆をはかる悪魔三人は巨大気球に乗ってフィフ・マジク・シティを目指していた。観光客も五人ほど同乗しており、三時間もあれば到着するとのこと。
「けっ。サンマルチノの伝記じゃ到着するのに一ヶ月かかったって書いてあったのによ」
「ははは。時代の流れってヤツですよ」
三人を乗せた気球は何の問題もなく、滞りなく目的地に到着。
「いやー楽しかったなーまた乗りたい!」
「生きてりゃあ帰りにまた乗りますよ」
「やった! もう二百回ぐらい乗りたい!」
「そんなに気にいったの? よかったですねえ」
「……それにしても。なんだこの街のひでえザマは」
到着したフィフ・マジクシティのありさまを見てイナは深いため息をつく。
街の入り口には巨大なアーチと『ようこそ! フィフ・マジク・シティへ!』と描かれた看板。赤いレンガで舗装された中央通にはケバケバしいまでにカラフルな外装の洋服屋や料理屋、占いの館なんぞがずらりと並んでいた。
「まるで観光地じゃないか」
「観光地ですからねェ」
「まあ気球の時点でわかっていたことか」
「うおおおお! すげえのがある! 臓物いっぱいある!」
ヘルはすさまじいテンションで中央通の左手に並んだ店たちを指さす。
そこに並んでいるのはいわゆる『魔導スイーツ』の店。
電撃魔法を用いて作られた舌の上で痺れるブリッツ・キャンディー、風魔法で作られたふわふわと宙に浮くフローティング・マシュマロ、炎の魔法でトロトロになったメルティングチョコレート、舌が凍っちゃう冷たさのフリーズアイスなどなど。
ヘルは猛牛のごときスピードで突進していった。
「……いやあよう食べまんなァ。あの食べっぷり。なんともかわいい」
「口のまわりクリームベトベトでどうしようもないことになってるけどな」
「見ようによってはエロい! そうだ! 女だらけの甘味大食い選手権とか開催したらもうかると思いません?」
「しらん」
JJとイナはベンチに腰掛け、ヘルの食べっぷりを見守っている。
「おまえは食べなくていいのか」
「わたしはマジメ一徹ですからね。酒やタバコ、クスリ、甘いモノはやらんのです」
「その三つと甘いモノを同列に並べるか」
「だってどれも普通に生きていくなら必要ない、むしろめちゃくちゃカラダに悪い中毒品でしょ? いっしょですよ。いっしょ。ほらあそこの赤いゴスロリの娘もすごいですよ。あんだけ食べてお土産まで買って行こうってんだ。ありゃガンギマリだね」
「ただごとでない目付きではあるな」
そうこうしているうちにヘルが二人の元に帰ってきた。
「いやー食べたなー食べ過ぎた! やばいわーホントにやばい! よし! 決めた! もうしばらく甘いものは食べないぞ!」
イナとJJは顔を見合わせる。
「ホントだ。酒飲みと同じこと言ってら」
「でしょ?」
「なんの話ー?」
「おまえがアルチュウだっていう話だ」
イナは口の周りを拭いてやりながらそんな憎まれ口を叩く。
ヘルはなにを言っているのかよくわからないのでとりあえず笑っておいた。
「とにかく。ぼちぼち探しに行くぞ。今回ぶっ飛ばすヤツを――」
ハグレーン家はマクマール帝国建国の頃から続く魔術の名門一家だ。
そこの三女として産まれたベリアイノはなに不自由なく育つ。
彼女が五歳になったとき、父親のハガー・ハグレーンは自ら魔術の手ほどきをした。
最初に教えたのは炎の魔法『リトルフレイム』。素養があるものであれば一日でできるようになるくらいの簡単な術である。
それをベリアイノは――
「なっ――! ぐおおおおおおお!?」
一日どころか一度目のトライで習得した。それも最高位の炎魔法をも上回るほどの凄まじい威力で。放出された灼熱の炎は父親に燃え移った。
彼女に魔法の解除の仕方がわかるわけはない。父親はそのまま焼け死んだ。
無論、これは事故だ。わざとそんなことをする理由がないし、そんなコントロールができたはずもない。
だが。そのときベリアイノは。厳格で寡黙な父親が上げるあられもない悲鳴を、のたうちまわる姿を、徐々に崩壊していく肉体を、美しいと感じた。
彼女は罪に問われることはなかった。だがやはり家族から疎まれ恐れられることは避けられず、十歳になると同時にハグレーン家をムリヤリ追われロウに入隊させられることになる。ベリアイノ自身もそれでいいと思った。己が心中に住む残虐かつ凶暴な獣を満足させるには闘うしかないと考えたからだ。
彼女はロウで教えられる魔法をすべて一回で習得した。格闘術の訓練は必要ないと思いすべてサボタージュしたが彼女に文句を言えるものは誰もいなかった。
そして数年後。
彼女は『ブレイブ・クラブ』の一員として魔王の討伐に大きく貢献。英雄となった。
(英雄? 笑っちゃう。ただ殺すのが好きなだけなのに)
魔王討伐の後、本人はロウに残って闘い続けることを希望した。だが。まさに制御不能である彼女を軍が疎んじて役職を与えなかった。魔族が滅びた今、彼女の過剰な破壊力を持つ魔法など必要がなかったということもある。
(まあいいや。さすがにちょっと使いすぎて魔力が無くなってきたところだし)
ベリアイノは現在、フィフ・マジク・シティで身分を隠して占いの店を営みつつ魔力の回復を行い、そして自分が闘うべき相手が現れるのを待っている。
――そんな彼女の店に。
「こんにちはー」
珍しく昼間から来客があった。客はこれまた珍しいことに年若い少女である。紫色の髪に銀メッシュ、薄い布地の黒ワンピースというナマイキなファッション。目がパッチリと大きく肌も褐色で快活な娘という印象だが、どこかその表情や立ち姿に妖艶さも感じられる。ベリアイノの好みにどんぴしゃりとくる容姿であった。
「かわいいねぇ」
そういって抱きしめると、少女はベリアイノをなにか含みのある試すような笑顔で見つめる。そんな様子がまた好ましい。
「お姉さんこそ臓物カワイイよ。どこ見てるか分からない死人みたいな目んたまが好き」
「ありがとう」
「ねえすごく当たるんでしょ? ここの占い」
「もちろんそうだよ」
「じゃあお願いしマス!」
ベリアイノは気にいった客にしかやらないスペシャルな占いを行うことに決めた。
「ここにうつ伏せになって」
綿をぎゅうぎゅうに圧縮して作ったマット状のものを床に敷き、戸棚からなにやら透明な瓶を取りだした。どうやら中にはネバネバした液体が入っているらしい。
「あっ。服は脱いでね」
これはベリアイノが考案した『ゼラチネ占い』というもので、どこにとは言わないが現在でもこの技術は残っている。
ヘルはとくに躊躇することなく服を脱ぎ捨ててマットにうつ伏せになった。
ベリアイノは例のほとんど下着という布面積のハグレーン家の正装の上から透明の粘液をぬりたくり、ヘルの背中に自分の胸を乗せる。
「わ……」
そしてそのまま粘液を塗りつけるようにグラインドを始めた。
「どう? どんなキモチ?」
「ん……変な感じ」
「そう」
「んんん……ハァ……これで分かるの?」
「わかるよ。全部わかる」
ベリアイノはヘルの胸辺りに粘液を塗りつけながらこんな風に告げる。
「あなたは。なにかとてつもなく大きな目的を持って旅をしている」
「――!」
当時編纂された歴史書にはベリアイノは占い師としても超一流であったと記されていた。
「でも。あなたの目的はあなたが望んだ形で達成されることはないでしょう」
彼女はすくなくともデタラメを言っているわけではない。独学ではあるが確かな知識に基づいて占いを行っていた。
「それでも。あなたは旅を続けるべきです」
優しく微笑みながらヘルのへその辺りをまさぐる。
「んんんん……! な、なんで? ……わたしはどうなっちゃうの?」
「そこまではわかりません」
「……なにそれ!」
「あとそれから。ふふふ」
ベリアイノの指がヘルの足の付け根あたりを擦る。
「んんんんんんん!」
「あなたは今、性的に意識する人がいますね?」
「へえええっ!? なに言ってんの! そんなのいるわけないじゃん!」
「いいえ。います」
有無を言わさぬ断言である。
「でも残念。その相手には深くて重い想いを抱く人が別にいるようです」
「だーかーらー! そんな相手いないって!」
「います。自覚がないだけです。じゃあその相手が誰か『ココ』に聞いて見ましょう」
ベリアイノの中指が股間のある部分に伸びると――
「わあああああああ!」
ヘルは腕立て伏せの要領でベリアイノをふり落として立ちあがった。
「アナタの占い全然当たらない! しかもキモイ!」
自分のワンピースを拾いあげ体を隠す。
ベリアイノは立ちあがりながらやれやれと肩をすくめた。
「そんで! 見てないで早くヤッてよ!」
「えっ?」
次の瞬間。赤く輝く剣がベリアイノの胴体を背後から貫いた。
振り返るとそこに立っていたのは――
「あんたの弱点はな。武術の訓練を一切やらないもんだから、人の気配を感じる能力がゼロなところだ」
「もうー! 遅いー!」
「悪い悪い。つい見ていたくなっちまってな」
ガリガリの体に無駄にド派手な燕尾服とマントを纏った男。
右腕には<<凍血剣>>。ナイフもささったままになっていてポタポタと血が垂れている。
「それに。おまえがぴったりくっついてるもんだから危なくて」
「そっか……確かにそうだったね」
「――! あなたは――!」
イナは凍血剣を引っこ抜く。
ベリアイノは口と腹から血を噴きだしながらも喜色を満面に浮かべた。
「イナくん! イナくん! 会いたかった! 会いたかった! 会いたかった! 会いたかった! 会いたかった! 会いたかった! 会いたかった! 会いたかった! 会いたかった! 会いたかった! 会いたかった! 会いたかった! 会いたかった!」
あまりの狂喜ぶりにヘルの背筋に悪寒が走る。
「喜んでもらえて光栄だ。つかの間の再会になっちまって悪いけどな」
ベリアイノの腹から噴きだす血液はもうすぐ致死量を超える。
「つかの間? なんで」
そういうとベリアイノはアルカナカードの『絶対零度』を手に取り傷口にかざす。
傷口は一瞬にして凍結され血は止まった。
そしてゆっくりとイナに近づいてくる。
「久しぶりに会えたのは嬉しいけど。ナマイキしたらダメだよ。だって――」
「ちっ――! やっぱりバケモノに奇襲攻撃は通用せん!」
イナはナイフを右腕から引っこ抜き再び己血術を発動させようと試みる。が。
「あなたはあたしの泣き叫ぶおもちゃなんだから」
ベリアイノはアルカナカードの『触手』を手に取った。なにもない空間から現れた白く輝く光の触手がナイフを払い落し、さらにイナの両足を緊縛する。
「なっ!? おおおおぉぉぉ!?」
「そう。そういうカンジ。いっぱいいじめてあげる」
イナは無様に逆さづりになった。
「――その前に」
ベリアイノはふたたび『絶対零度』のカードを手にし、イナの左腕の傷を凍結させた。
「それ。知ってるよ。己血術でしょ? 自分を傷つけながら闘うきもい術。こうしちゃえば使えないね。どうしようもなさすぎて可愛い」
そういってイナの唇に口をつけ、さらに舌を絡ませた。すると。
「お……お……おおおおおおおおおおおお!」
「キャハハハハハ! どう? おいしい? キモチいい?」
手に持っているのは『蟲』のアルカナカード。イナの口から大量の蛆が零れ落ちる。
「そうだ。もっとすごいのを食べさせてあげる」
ベリアイノは水晶とカードをマットの上に置くと、イナがぶら下がっている所まで机を運んできた。
「ここを舐めるとね。もっとすごい虫がでてくるの」
ベリアイノが自分の股間を指さしつつ机にその艶かしい足をかけた瞬間――
「バカめ……! 油断しすぎだ。水晶とカードを離すとは」
イナはブラりと下がった右手を口元まで持っていくと。
「なっ――!」
「げええええ! クソまじいい!」
自分の歯で五本の指すべてを噛み千切った。
「まあ蟲よかマシだがな。――喰らえ! <<残骸酷使>>」
口から吐きだされた五本の肉塊は宙を舞いまっすぐにベリアイノを襲う。
「くっ――!」
ベリアイノは辛うじてこれを躱した。指は壁に突き刺さってぐちゃぐちゃに潰れる。
「――クソッ! 悪運の強い!」
ベリアイノはその隙にマットに置いた水晶とカードを回収しようとする――が。
「――!? ない!」
マットの上には透明な粘液の他にはなにもなかった。
「これが欲しいの?」
「あっ……!」
「ヘル!」
ヘルはニカっと歯を見せて部屋の隅に立つ。体にはヌルヌルのワンピースを巻き付けて、手には水晶とカード。
「返せ!」
ベリアイノはおそるべき脚力でヘルに迫る。
「やーだ」
ヘルは少しだけ頭を仰け反らせると、手に持った水晶に振り下ろした。
凄まじい威力の頭突きに水晶は粉々に砕け散る。
「――バカな! 壊れるはずが!」
ヘルはドヤ顔。しかし額からはボタボタと紫色の血が溢れる。
それを目の辺りにしたベリアイノはなぜか――
「こ、こ、こ、こ、こ――」
常にポーカーフェイスを崩さないその美しい顔を恐怖に歪めた。
「こ?」
「殺さないと――――――――――!」
己の股間に手を伸ばすとその中から真っ黒で歪な形をした杖を取りだした。これはハグレーン家に代々伝わる暗器で、名を『マンティコア・ロッド』と言った。父親を殺したときにひそかに奪っていたものである。
「なんちゅう所に隠して――!」
「死ねええええええええええええええええ!!!!」
杖がふりおろされる。
だが。そいつがヘルの頭蓋骨をくだくより一瞬早く――
「てめえの相手は俺だぜ変態女! がああああぁぁぁぁぁぁ!」
イナは今度は左手の指を噛み千切りそいつを飛ばした。
今度は避けられない。背中に深々と突き刺さる。
「今だ! やれーーーーーーーーーヘルーーーーーーーーー!」
「――――! うわあああああああああああ!」
ヘルはベリアイノのアタマを両手で挟み込むように掴むと、真っ白でツルツルのおでこに自分のアタマを思いきり振り下ろした。
ゴッ! という乾いた音。ベリアイノの額に赤い亀裂が走る。
彼女は虚ろな目でヘルを見つめるとそのままうつ伏せに倒れ込んだ。
「ふう……なんとかきたねえもん舐めさせられずに済んだ……」
イナは大きく溜息をつく。
「痛ったああああああ! でもやった! ヘルがやったよ!」
額から血を流しながら無邪気に喜ぶヘル。イナはそんな彼女に苦言を呈する。
「おまえ。闘う力あるじゃねえか」
ヘルはあっけらかんとそれに応えた。
「頭突きのこと? こんなの力にも入らないよ。ただ自分で治せるから普通の人より思い切りよく打てるってだけ。やろうと思えば誰でもできる」
「あっそ……なんか納得いかんなァ……」
触手が消滅してイナはアタマから床に落ちた。
「いてえ……」
両手の切断面から溢れた血液は床を赤く濡らす。
ヘルはそれを見てもじもじと両手を合わせながら呟いた。
「その……ありがとうね」
「なにが」
「ヘルを助けてくれて。女の子を助けるために指を食いちぎるなんて、男らしいところあるじゃない!」
「別におまえのためではないけどな」
その言葉にヘルはぷくーっと頬を膨らませる。
「もう! それでも嬉しかったって言ってるの! 素直にどういたしましてって言えばいいじゃん!」
ヘルは床に転がっているイナに、八十五パーセント程度の力でビンタをぶちかました。
「……いまのでさらに傷が広がった気がする」
「そういえば気になることがあってさ」
「今の俺のこの状態よりもか……?」
「ベリアイノはさ。なんであんなにうろたえたんだろ?」
「おまえが頭突きで水晶を壊したあとに? それは確かに気になってはいたが……」
「紫色だったからかな? ヘルの血が」
「そんなタマではないだろう。そして今はそんなこと言っている場合ではないだろう」
どくどくと溢れる血は床一面を覆いそうな勢いだ。
「あっごめーん」
ヘルはぺこりと頭を下げると、ちょろちょろと血が流れる自分の額を治癒し始めた。
「くうううう! 痛ったい! でもちょっとクセになるかもー!」
「終わったら俺のも頼む……」
◆◆◆
マクマール帝国の首都は東部地域に存在するマディンソンという街だった。世界一絢爛豪華であるとされるこの街に住まうことが許されるのはごく一部の選ばれし者だけ。
勇者ヒロハ・スリングブレイブはそのマディンソンの中央通りをそわそわきょろきょろしながら歩いていた。普段は人が集まってしまうのが億劫であまり出歩かないのだが(鎧を着るのを辞めれば恐らくそんなに集まらない)今日はなにかしら事情があるようだ。
「――あっ! 帰って来た!」
ヒロハは待ち人の姿を発見するやズドドドドと駆け寄った。
「ポコちゃん! おかえりー!」
そして人の家の壁で壁ドン。こういうことを天然でやってしまうのがヒロハである。
さすがのポコも顔を真っ赤にして叫んだ。
「なにするんですか! こんな街中で!」
気づけばたくさんの人がこちらを見ている。みなクスクスと笑っていた。
「ああごめんごめん」
「ごめんじゃないですよまったく」
「ところでさ――」
壁から手を離しながら微笑む。
「買ってきてくれた?」
満面の笑みで両手を出すヒロハの手にポコは乱暴に布袋を置いた。
『フィフ・マジク・シティ名物 魔導スイーツ』と書かれている。
やったーなどと喜ぶヒロハをポコが怒鳴りつけた。
「もう! それどころじゃないんですって!」
ヒロハはキョトンとした顔で問い返す。
「なにが?」
「なにがじゃない! 私を遣いに出した目的を忘れたんですか!?」
「あ、ああ。そっか忘れちゃいないよ。忘れちゃ。それでどうだった?」
ポコは深呼吸をして息を整えてから答えた。
「カイリ様がなにものかにやられた。というのは事実でした」
ヒロハは手に持った布袋を地面に落とす。
「い、いったい誰に……?」
「それはわかりません。まだ意識が戻られていなかったので……」
「バカな――!」
「それに……」
ポコは懐から透明な球体を取りだす。ヒロハはそれに見覚えがあった。
「ベリアイノさんの……」
「これに『記録』が残っています」
ポコが魔力を込めると水晶には今で言う『動画』が映された。画質は荒いがベリアイノが二人組の男女に襲撃されているということはわかった。
「カイリ様を襲ったのと同一と見て間違いないと思います。一体何者でしょうか……?」
ヒロハは殆どゼロ距離で水晶を仰視する。
「このシルエットは……まさか……」
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