第4話 仲良し賞金稼ぎデート

 ダラッツの街の中央広場は他のマクマール帝国の都市のものとは異なり大変殺風景であった。噴水や銅像のような気の利いたオブジェはいっさい置かれていない。しかし。その代わりに巨大な樫の木の掲示板が設置されており、それがある意味で名物となっていた。

 掲示板には『羊皮紙』がびっちりと敷きつめられるようにして貼られており――

「また増えてやがる。どうなってんだこの国は」

 それにはなかなか独創的なタッチで描かれた似顔絵と、人物名、それから彼の悪い意味でのプロフィール、それにもっとも重要な『賞金額』が書かれていた。要するにこれは賞金首の手配書である。イナのような一応合法的に商売をする自由戦士はこいつを見てその日のお仕事を選択するというわけだ。

 イナはいつも通り適当に賞金額が高い紙を掲示板からはがした。

「へったくそな絵だなあ。これじゃあ本物見つけてもわからねえんじゃねえか?」

「ホントだねー。でも案外ホントにこういうかっこいい顔をしてるのかもよ?」

 ……突然、独り言に乱入してきた人物をイナは完全なる無表情で見つめる。

「おっすー!」

 天気は快晴。爽やかな朝にふさわしい最高の笑顔である。

「おとといも働いてたのに今朝も働いてエラいねぇ」

「アレは賞金もらえなかったからな」

「そーなの?」

「証拠を提示できなかっただろう」

「証拠って?」

「首だよ。ターゲットの首。そいつを役場にもっていくと賞金が貰えるんだ」

「へーなんかファンシーだね。かわいいー」

「どんな感覚してやがんだ」

「でもそっかー燃えちゃったもんねえ。ごめん。ヘルが回収しておけばよかったね」

「いいさ。……それにしても」

 イナは深く溜息をつきながらポケットから葉巻煙草とマッチを取りだした。

「しつこいね。おまえも」

 口に咥えた煙草に器用な手つきで火をつける。

「昨日途中で帰っちゃったでしょー? なんか用事でもあったの?」

「おまえの話があまりにくだらないからだ」

「そっかー面白くなかったかあ。ヘルって友達いないからトーク力ないんだよねえ」

「いや。面白い面白くない以前に聞く価値がないというか、あまりに荒唐無稽すぎて聞く気もしなかったぞ」

「こーとーむけい?」

「要するに『ウソつくな!』ってことだ」

「あ。それは全然大丈夫! だってホントだもん」

 イナは肺に吸い込んだ煙を豪快に吐きだす。

「ホントだもんじゃねえよ。じゃあ証拠を見せてみろ」

「えー? 証拠かあ。うーん。そう言われてもなあ。家紋入りの宝石とか見せてもダメだよねえ。あーあ。普通は一目瞭然なんだけどなー。ヘルって『人間顔』だから。それで散々イジられてきたけどこんなところでまで損するとは! 全く臓物だ!」

 そういって子供のように地団駄を踏む。

「あ、でもさ。酒場のおっちゃんが言ってたんだけど、ヘルの顔って人間だとしたら美人な顔だってホント?」

 言われてみれば。背は小さく丸顔で子供っぽい容姿ではあるが、パッチリとして黒目の多い瞳、健康的な褐色の肌、ぷっくりと膨らんだ可愛らしい唇。

「……まあそうだと思うぞ」

「やったーーーーーー!」

 子供のように両手を挙げて飛び跳ねて見せる。

 イナはそれを一顧だにせずスタスタと歩き去っていく。

「あっ待ってよ!」

「まさかついてくる気か?」

「うん。ヘルが魔王のムスメだって信じてもらうためにね」

「だからどうやって証明する気なんだ?」

「それはこれから考えるー。一緒にいたらなにかしらチャンスがあるかもしれないし」

 なるほど一応理屈は通っているようだ。

「勝手にしろ。死んでもしらんぞ」

 そういうとヘルはイナのぴったり真横を歩き始める。彼にとって非常に居心地の悪い距離感であった。

「……ひとつ言っておくけどな」

「なあに?」

「知ってるか? おまえのいう魔族みたいなもんはな。三年前に滅びたんだぞ。魔王が封印されたせいで魔力の供給がなくなりみんな石になった」

「知ってるよ。ヘルはその生き残りだって言ったでしょ?」

「なんでおまえだけ生きてるんだよ」

「知らない。まあ魔王のムスメだからね。多少は自分で魔力を作り出すことができてるんじゃないのかな?」

 ……これも一応は理屈が通っているようだ。

「ま、とにかく。早く行こうよ! 日が暮れちゃうからさあ」

 ヘルは五年も連れ添った恋人とデートに出掛けるかのような口調で言った。


「――まだ誰もいねえようだな」

「こんな臓物みたいな小屋にホントに住んでるのー?」

「手配書によるとな。……臓物って口癖なのか?」

「うん」

「変なの。まあ確かに悪趣味な小屋ではあるがな」

 手配書によればターゲットはこのリトル・マウンテンの中腹に建てられた山小屋をアジトとしているらしい。ヘルは臓物と表現したが赤い屋根に白い壁の洒落た小屋である。

「ファンシー好きのおじさんなのかな?」

「おまえの定義するファンシーってなんだ」

 イナとヘルは小屋から数メートルの大木の太枝に並んで座って小屋の様子を見ていた。

「ターゲットはなんていう人なの?」

「カクヨク・オルガ」

 カクヨク・オルガは大規模盗賊ギルド『ザ・オーダー』の分隊長でこのダラッツ周辺での仕事を取り仕切っているらしい。人相描きにはザンバラ髪を振り乱して、顔中鱗だらけ、牙がたくさん生えた化け物のような男の絵が描かれている。

「彼は強いの?」

「かなり強いだろうな。ザ・オーダーといえば国内でも有数のギャング組織だし、その中でもダラッツの分隊長をやってるってことは上位の強さだろう。賞金額も八十万デビアスもあるし」

 ヘルは首をかしげる。

「イナ、勝てるの?」

「さあ。わからん。まァむこうの方が実力は上だろうな」

「えー! 勝てる見込みないのに狙ってるの? へんなのー!」

「賞金稼ぎってのはそういうもんだ」

「ふーん。まあいっか。ある意味でちょうどいいや」

「ん……?」

 今度はイナが首をかしげた。

「とにかく。ここで待つしかないか」

「えー退屈だよー。なんか面白い話してもいい?」

「……なんだそりゃ。勝手にすればいいだろう」

「ねえねえ。イナはどうやってあの術を身に着けたの?」

「おまえ。とことんマイペースな野郎だな」

 面白い話をすると言っておいて質問かよ! と思いつつ素直に回答を返す。

「盗んだ魔術書に書いてあった」

「へーーそうなんだーーービックリするなーーーなんでだろうなーーーー」

「なにが」

「あのね。イナが使う『己血術』っていうのはね。元々は魔族が生み出した術なんだよ」

 イナは返事をせずに訝し気な目でヘルを見つめる。

「今から千年も前にサロウっていう大魔術師が産みだした術で、死霊術――ネクロマンシーの一種だね。自分の体を破壊してその欠損した部分を操るっていう」

「死霊術か……言われてみればそうだな。『血以外』も使おうと思えば使えるし――」

「強力な術なんだけどね、使い手があまりにいなくてついには誰も使い方がわからなくなっちゃった。だからビックリしたよ。それを使う人間がいるって聞いたときは」

「……なるほど。その噂を聞いて覗いてやがったんだな? あのとき」

「そうそう。ドキドキしたなー」

 胸に両手を当ててニッコリと微笑む。

「目的はなんだ? 興味本位か?」

「だーーかーーらーー! 昨日言ったじゃない! いい? ヘルとあなたが組めば――おおおおおおおおおおお!?」

「なんだ!?」

 突如。強烈な振動が二人の尻を揺らした。ガツンガツンという重低音も聞こえる。

 振動はドンドン強くなり――

「わあああああ!」

 二人は座っていた枝から落下した。なんとか受け身を取って上体を起こすと。

「情報屋が言ってたことはホントだったわね」

 そこには栗色の髪を長く伸ばして口髭をカールさせた男が立っていた。エゲつないまでに『ど』ピンクなモーニングに身を包んだ変なヤツだ。手には斧。どうやら先ほどの振動はイナたちが座っていた木を切り倒そうとしていたものらしい。

「あなたたちね? ワタシを狙ってるっていうヤツは」

 妙に甲高い声でそのように述べる。どうやらこの男がカクヨクオルガらしい。まァなんとなく雰囲気だけなら似顔絵と共通項がないこともない。

「なにかしらねえ。この二人は? 男のほうはともかくこのちっちゃいベビーはいったい? まあいいわ可愛がってあげる」

 後ろには手下が五人。イナはナイフを取りだした。

「あら。闘う気? いいじゃない。闘志のあるオトコは好きよ」

 ヘルはそんなカクヨク・オルガを指さしてこのように述べた。

「わあ。オカマちゃんだ! 初めて見た」

 すると。なぜだかオルガは顔を真っ赤にして激高。

「オカマじゃないわよ!! ワタシは美しさを追求しているだけ!」

「えー違うのー? オカマちゃんがよかったなー」

「あんな連中と一緒にしないで! いい!? ワタシとオカマの違いは――」

「……どっちでもいい。心の底からどうでもいい」

 イナはナイフを鞘から抜いた。オルガたちがその『ドス赤い』刀身にたじろぐスキに、いつものようにナイフを自分の腕に刺そうとする――が。

「ダメダメー。そんなんじゃ負けちゃうよ」

 なぜか。ヘルはイナが手に持ったナイフの柄をそっと握る。そしてものすごい力でそいつを奪いとった。

「なにを――!」

「あなたは本当の力を出せていないって言ったでしょ?」

 ナイフを手前に大きく引くと、

「これぐらいやらないと」

 イナの腹にふかぶかと突き立てた。

「グッ――!」

 それから刀身をぐるっと一八〇度捩じって見せた。イナの口と腹から大量の血が溢れる。ヘルは返り血を浴びながらもこんな風に笑顔で呟いた。

「ねえ。イナの武器は血なんだから、これぐらい大量にあったほうがいいと思わない?」

「――!」

「まあ普通だったらこんなにたくさん血ぃ出してたら、仮に目の前の敵を倒したとしてもすぐに死んじゃうけどね。でも。いまのイナにはヘルがいるでしょ?」

 イナのボサボサの髪の毛を愛おし気に撫でた。

「あなたがどんなに無茶をしてもね。ヘルなら治せるよ。わかってるんでしょ? あの夜アナタの致命傷を治癒したのがヘルだって」

 イナは考えた。

(そうだ。確かにあの状況で俺が生きている理由はそれしか考えられない)

「ということはさ。ヘルが協力すればイナは今までとは比べものにならないくらい強くなれるってこと! だからさ。ヘルと一緒にいよう?」

 イナは自分をこんな目に合わせる少女に凄まじい怒りを感じながらも、同時に別の考えがアタマを掠めていた。

(なるほど確かにその通りだ。俺の術とこいつの術くらい相性のいいものはない。そして。俺がガキの頃からただひとつ、たったひとつだけ望んでいることを叶えるには――)

 拳を強く握りしめる。そして叫んだ。

「ガアアァァァァァァァ!」

 激痛に堪えながらも己血術を発動。口の中に溜まった大量の血液をコントロールしにかかった。オルガたちはただ呆然と立っている。――やがて。

「ウゴオオオオオオォォォッォ!」

 イナの口から巨大な炎の塊が噴き出した。

「なっ――!?」

 ――爆発。

 着弾と同時にダイナマイトが炸裂したかのような爆発が発生した。

 そいつはオルガたちだけでなく後ろの悪趣味な小屋ごと吹き飛ばす。

「す、すごーーーーい!」

 ヘルは無邪気に飛び跳ねながら手を叩いた。

「<<赤色血火球>>。へっ。こんな大技初めて使ったが。いけるもんだな」

 イナは荒い息をつきながらがっくりと地面にヒザをつく。

 そんな彼をねぎらうように。ヘルはアタマにポンと手を置いて微笑んだ。

「思ったよりもつらそうだねえ。じゃあお待ちかねの治癒タイムだ」

 ――<<死に至る治癒>>。

 ヘルの右手が禍々しく輝く。同時にイナの全身に激痛が走る。

「これはねえ。実は治癒をする術というよりは、ダメになっちゃった部位を一回キレイさっぱりブチ殺して、それから蘇生させる術なんだ。だから痛いのはごめんね?」

 だが同時に傷や欠損した体のパーツが確実に蘇生されてゆくのが確かに感じられた。

「よーし。もうすぐ終わるよー」

 瞳をギラつかせながらさらに強烈な光を放つ。最後の仕上げにはいるようだ――――が。

「――!? おい!!」

 ヘルの右手から光が消えた。代わりに。

「――ガハッ!」

 口から大量の紫色の液体が溢れる。イナの髪の毛と顔をぶどう色に染めた。

「この色……!」

「へへへ……。あっそうかー……。こうすれば……簡単に信じてもらえたじゃん……なんで気づかなかったんだろ……」


 昨日と同じボロ宿の『イントン・ハイセル』でヘルは目覚めた。

 今夜はシチュエーションが逆。イナが彼女の目覚めるのを枕元で待っていた。

「生きてやがったか」

 薄い壁で仕切られた隣の部屋からは男女の嬌声が聞こえる。

「アンアンアン! オウイエー! オラフゥ! オラフゥ!」

 ヘルは子供みたいに両手で目を擦りながら上体を起こした。

 そしてイナの姿を見るやなにごともなかったかのような笑顔。

「おはよー。ごめんね。寝ちゃって」

「オラフゥ! もっと激しくして! もっととんでもない部分を火がつくくらいの勢いで擦ってぇぇぇ!」

「あーあー。服が血だらけ。気に入ってるのになあ」

「オラフゥ! 早く入れて! あなたのでっっっっかくて黒っっっっっろい棒を私の中にブチこんでえええ!」

「ここまで運んでくれたんだ。ありがと。なんだかんだ優しいよね。やっぱり私の顔がカワイイから?」

 イナは質問には答えず、少し深呼吸をしてからこんな風に述べた。

「魔王のムスメうんぬんってのは……本当なのか?」

 するとヘルはまさに太陽のように顔を輝かせる。

「そうだよー! やっと信じてくれた!」

 イナの肩をポーンと叩いた。

「オラフゥ! 早くしてえ! 棒をおパンテーから取り出してぇ!」

「でもね。やっぱりパパがいないと魔力がたりないのかなあ? こんな風に発作がでちゃうの。かわいそうでしょ。協力する気になったでしょ」

「出たー! 私が大好きな! オラフそのものよりもはるかに好きな棒が出たーーー!」

「いやぜんぜん」

「わっ! 臓物! 性格悪い! 好き! でもね。実はね。キミにはヘルに協力する以外の選択肢なんてないんだあ」

 ヘルは口の端を三日月のようにつりあげて笑う。

「どういう意味だ……?」

「ああ! オラフゥ! きてる! きてるきてる! ああまさに今ちんぽが入っている」

「――やっっっっかましいぞ!」

 イナが壁に強烈な蹴りを入れると、オラフと女はしずかになった。

「どういう意味か教えろ」

「うすうす気づいてるんじゃないの?」

 首を横に振った。喉が異常に渇いている。

「あのね。実はね。もうあなたは半分魔族なの」

「なに……?」

「さっきも言ったけど。己血術っていうのは魔族が由来の術なんだよ? そんなものを自分の体の中身まで浸透させることを何年も繰り返していたでしょう? そうすると。どうなるか分かる?」

「デタラメも大概にしろ! 俺は魔族なんかじゃ――!」

「えー! やっぱり気づいてないんだー。証拠あるのに」

「証拠……?」

「右手と左手をチクっとさして色を比べてみたら?」

 イナはなにをバカなと舌を打ちながらナイフを取り出した。

 が。いままで何百回とやってきたことが躊躇われる。

「こわい? わたしがやってあげようか?」

 ヘルはナイフを奪い、まったく躊躇なくイナの右手と左手の甲に突き刺した。

「ほら。見なよ。血の色。比べてみれば一目瞭然」

 イナの左手から出る血は鮮やかな赤い色。そして。

「いつも右手を刺してるんでしょう? こっちから侵食されてるみたいだね」

 右手から出た血は、左手側に比べて明らかに紫色に近い色をしていた。

「わかったOK? そもそもさ。あんなでっかい剣を作れるくらい血を出して意識があるのが普通じゃないって気づきなよー」

 首筋が汗でじっとりと濡れる。

「だからね。ヘルに協力して魔王を復活させないと、キミも石になっちゃうよ? 言っておくけど今更己血術使うのを辞めてもダメ―」

 イナは足をフラつかせ、壁に手をついてうなだれた。

「大丈夫! ヘルとアナタが組めば必ずうまくいく! それにねえ。協力してくれたらどっさりお礼も出しマス! ホラ見てよこの宝石。ヘルはぶっちゃけそんなに興味ないけど魔族はこういうのが大好きでね。元々は人間と戦争になったのも魔族の宝石を人間が奪おうと――」

「ハハハハハハハハハハ!!!!」

 イナは笑った。喉がら血が出そうなけたたましい笑い声だ。

「ど、どうしたの?」

「いや。おかしくてな。自分のなれの果てぶりが凄まじすぎて。まさかそんなことになっているとは! ハハハハハハハハハハ!」

「そうねービックリはするよねー。でも気にしなくていいんじゃないの? 魔族もわるくないよ。ウザイヤツ多いけど」

 イナはそれを聞いてますます笑った。そして。

「いいよ。おまえに協力するよ。だってそうするしかないんだろ? ハハハハハハハ!」

「やったー!」

 そういうとヘルは胸に飛びこんできた。

「で。相手は誰だ?」

「あいて?」

「誰かが守ってるんだろう? 封印されたおまえのオヤジだかなんだかを」

「ああ。そこは聞いてたんだね。えーと相手はね」

 ヘルはやたらともったいをつけてその名前を答えた。

「『ブレイブ・クラブ』」

「――!!」

「パパを倒した勇者とその仲間たちだね」

 イナは呆然とした表情。

「ヘルは直接見たことはないんだけど、もんのすごい臓物みたいなヤツららしいね。でも大丈夫! ヘルとイナが組めば――」

「――ハァハハハハハハハハハハハアハハハハハハハアハッハ!」

 イナは再び、さきほどよりもさらに狂気じみた甲高い笑い声をあげる。

「ど、ど、どうしたの!?」

「いや……これも運命ってヤツかな? ハハハ! 面白い……!」

「わあー。なんか顔がイッちゃってるけど……そこはかとなくかっこいい!」

「くくく。分かったよ。ヘルと言ったか。おまえに全力で協力してやる。この身が朽ち果てるまでな」

「ひやああああ! 目つきやば! 鬼カワイイ! 好き!」

 などと大はしゃぎしたのち、ヘルはイナの頬に口をつけた。


 ――このふたりの名前は当時の歴史書のどこを見ても一切出てこない。

 だが。これから語られる物語はまぎれもない事実である。

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