第63話 作戦会議 in カラオケルーム

「告白されたぁ!? 」

「……うん」

「誰に!? 」

「あの、大地に」

「なんだ、良かったじゃん。 好きなんでしょ? 」

「……うん」

「なんで深刻そうなのよ」

「……うん」

「だぁっ! 」


 眼鏡を修理に出しつつ事務所へ顔を出した。 あたしのやらなきゃならないことをやるために。

 そして異変に気付いたナツから質問攻めにあったというのがここ数分の話。


 もごもごしていたあたしに業を煮やしたであろうナツは、あたしの手をグイグイと引いて事務室の奥までやってきた。 アツシさんに原田さん、さらにはアキちゃんにフーちゃんまでやってきた。



「そんで? 何て返事すんの? 」

「ちょっとナッちゃん落ち着いて。 えっと、ハルちゃんは普段の姿で意中の人から交際を申し込まれたというわけね」

「言い回しが古い」


 フーちゃんの鋭いツッコミに眉をヒクつかせながらも原田さんは続けた。


「付き合えばいいじゃない。 あたしが女子高生の時なんてね……」


 原田さんの昔話が続く間、ジッと目を閉じていたアツシさんが口を開いた。


「正直なところ、わずか一年で君たちがこれほどのポジションまで来るとは思わなかった。 君たちには魅力がある。 それをスキャンダルや炎上で失うのは非常に惜しい。


 ただ、高校時代にしか出来ないことは、高校時代にやるべきだという信念は変わっていない。 だから、ハルちゃんのことは応援する」


 あたしは、アツシさんのさらなる言葉を待った。 アツシさんの表情からは続く言葉がどんなことか予想できない。


「ただし、だ。 こないだの雑誌でわかっただろう。 この世界にはスキャンダルや炎上を食い物にしている奴らがいる」


 そう、あの時は相手が国民的アイドルだったとはいえ、大炎上したんだった。 でも、大地と付き合ってたって同じこと。 それは、アイドル活動をしている限り変わらない。


「だから、必要なのは覚悟だ。 何が起こっても揺るがない覚悟。 その、大地くんも含めて覚悟を持つこと。 無論、飛び火することも考えたら、ほかのメンバーも他人事じゃない」


 自分だけじゃ済まない、と。 あたしはそこまで考えられてなかった。 このままじゃ、みんなにも迷惑をかけちゃう。

 きっと止められるんだろうな、と思っておそるおそるみんなの方を見ると、満面の笑みで迎えられた。


「私は最初からこうなると思ってたけどね! ハルを振るやつなんてぶっ飛ばしてやる」

「男なんてロクなもんじゃないのに、苦労するわよ」

「いいなぁ、私も彼氏欲しい……」


 もう涙が止まらなかった。 これだけ厳しいことを言われたにも関わらず、みんな暖かく見守ってくれるんだね。 まだ一年にも満たない関係なのに、信じ合えている気がして心が満たされた。


 アツシさんからは、基本的に公表しない方針で行くけど、もし意図せずに表沙汰になったら事務所としては『本人に任せている』とのコメントを出す旨を伝えられて、ようやく解放された。


 こうなったら、腹を括ろう。 実は『岬千春』もあたしでした、なんてのは大地にとってはだまし討ちみたいなもの。 弄んだと言われても仕方がない。 それでもちゃんと大地に打ち明けて、彼女にしてもらおう。 もしダメなら……テストで勝った時のお願いでも使おうかな。




 ダンスレッスンが終わって着替えが終わった時、ナツに腕を掴まれた。


「ご飯、行こ」

「いいねー、私も行くー」

「え? ご飯行くの? ウチも〜」


 近くにいた事務所の人たちも参加して、すごい大所帯に。 アツシさんの発案で、近くにあるカラオケボックスのパーティルームを借りてしまった。 ゴージャス……。


「どうやって大地君に打ち明けるん? 」

「え、普通に話すしかないんじゃないの? 」

「それじゃつまんないじゃない」


 ナツは何故だか面白さしか求めていない。 他人事だと思って遊ぶんだから。


「やっぱり変身よ、変身。 目の前でメイクするとか」

「えぇ、それはちょっと……」

「それじゃ、家に呼んで、部屋の外でメイク? 」

「家に呼んだら、大地からプレゼントしてもらったものあるから、先にバレちゃうんじゃ」


 うにっ。 ナツにほっぺをつままれた。 煮え切らない態度がどうにもご不満だったようで――。


「ハ〜ル〜」

「ほへんなはいほへんなはい」


 二回謝ったところで手が離された。 そこに一緒に来ていた小野寺さんからの天の声が降ってきた。


「そしたら、カラオケで変身すればいいんじゃないの? 歌も歌えるし、本物だってわかるでしょ」

「それだ! 」

「いいね。 インパクトあるし」

「ほんで、そのままチューしちゃえばイチコロね」


 原田さんの二十代らしからぬ言葉のチョイスにはみんな苦笑いだった。



 ――カラオケ、か。

 


 十年に一人の逸材と言われたアツシさんの美声をBGMに、わちゃわちゃと盛り上がっているみんなの姿を他人事のように眺めていた。

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