意味

「そうだね……って私が?」

「うん!私の顔が描かれた絵がこの世に一枚もないままだから死にきれないんじゃないかな?だから描いて!」


 確かに、「顔が無くて出てきた幽霊なら顔を描いてやればいい」という理屈はまあ何となく分かる。でも私が描くとなると話は別だ。一応レポートだって課題の制作だってまだ残っているし、私でなければならない理由もない気がする。


「多分だけど、私が自分のこと以外で最初に思い浮かべたフルカワさんだからいい気がするの!夏休みなんでしょ?お願い!」

 浮かんだ言い訳は言葉にする前に論破された。しかも夏休みの部分に関しては墓穴である。


「お願いだから!ね!一生のお願い!」

 いや死んでるじゃん。言いそうになって堪えた。

「あ、私死んでたわ……じゃあ使えないじゃん……。」

 言われたし割と本気で落ち込んでいる。生前からこんな感じだったのかもしれないけど、きっと良い人だし呪いをかけられるようにも見えない。何より断ったところで何も解決しないだろう。


「分かった……私、キノシタさんのこと描くよ。」

「本当に!?ありがとう!」

 今まで聞いた中で一番大きなキノシタさんの声の記録が更新された。

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