自画像
「あ!」
私にもその絵の重要性はすぐに分かった。
その絵の中で、キノシタさんの首から上は、黒く塗り潰されていたのだ。
まるで、今のキノシタさんのように。
「これ、私の……落描きだね。」
「これってさ、もしかしてフルカワさんが私のこと描いてくれたの?」
「うん、そうだね。すごく懐かしい。」
「さっき顔がどうとかって言ってたけど……。」
「うん、まさにこんな感じ。これが今のキノシタさん。」
まさか高校時代の落描きがこんな形で私たちに主張してくるとは思っていなかった。
「そっかぁ、今の私こんな顔真っ黒くろなんだ……。」
彼女はどこか悲しそうに言った。生前から表情豊かな人だとは思っていたけれど、豊かなのは表情だけではなかったようだ。
「でも、じゃあ今キノシタさんが出てきたのって私のせい?」
「うーん、一回呪ってみようか?」
「冗談にしてもやめてね。」
大分解決に近づいてきたけれど、彼女自身に未練の自覚が無いようなので何とも話が進まない。
と、思っていたその時だった。
「……あのさ、」
キノシタさんが見えない口を開いた。
「私達のいた美術部って確か、時期ごとに色々描く絵のテーマを決めてたよね?」
「ああ、そうそう。1年の秋は静物とかね。」
「でさ、私が事故に遭ったのって2年生の春先だけど、2年の夏のテーマって確か……。」
「……『自画像』だった。」
乱雑に保管してあった絵の山に手を伸ばす。先程の掃除の最中、確かに私がその時描いた自画像を見つけた。
それは私の顔を正面から映した絵で、背景は明るい水色だった。
二人でその絵を見つめる。が、当時の私の絵などジロジロ見られるのが恥ずかしく、私はいたたまれなくなった。
「これ、だよね。まあまだ当時2年だし、今だったら背景も明るすぎるから変えると思うけど……。」
私は何故か早口になって、言い訳めいた話を始めてしまった。
しかし、すぐに彼女が無言のままでいることに気付き、私も口を閉ざす。
絵をじっと見つめていた(ように思えた)彼女は、再び弾けたように声を出し、こう続けた。
「フルカワさん、分かった!私の顔を描いてよ!」
嬉しそうに話す彼女の顔は、とびきり明るい真っ黒だったように思う。
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